陸上・駅伝

特集:第92回日本学生陸上競技対校選手権大会

甲南大ルーキー・藏重みうが女子100mV、伊東浩司氏から結果の「要素」教わり成長

女子100mを制した甲南大のルーキー・藏重(撮影・藤井みさ)

第92回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子100m決勝

9月15日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉)
1位 藏重みう(甲南大1年)    11秒76
2位 岡根和奏(甲南大2年)    11秒78
3位 奥野由萌(甲南大2年)    11秒81
4位 三浦由奈(筑波大4年)    11秒88
5位 城戸優来(福岡大4年)    11秒94
6位 三浦愛華(園田学園女子大4年)12秒00
7位 田路遥香(中央大4年)    12秒01
8位 板里奈波(日本女子体育大3年)12秒05

日本インカレ2日目の9月15日、女子100m決勝で甲南大学のルーキー・藏重みう(1年、中京大中京)が11秒76(-0.3)をマーク。初のインカレで、いきなり優勝を果たした。2位に岡根和奏(2年、龍谷大平安)、3位に奥野由萌(2年、彦根翔西館)が入り、甲南大学勢が表彰台を独占。チームとしての強さを見せつけた。

インカレの1、2週間前、右太ももに違和感

3人とも午前に行われた準決勝で組1位となり決勝に進んだ。決勝もレース中盤から前に出たのは、この3人。最後は2022年に徳島で開催された全国高校総体(インターハイ)を制した藏重が勝負強さを発揮した。岡根に0秒02差で先着。ゴール後に大型スクリーンを見つめ、自身の名前が1位で表示されたときはあまり表情が変わらなかったが、2位に岡根の名前が映し出されると笑顔になり、3位が奥野と分かると跳びはねて喜び、3人で抱き合った。「インターハイ決勝をどういう気持ちで臨んでいたかを思い出しながら、走れました」

1~3位までを甲南大の選手が占めると3人は抱き合って喜んだ(撮影・井上翔太)

実はインカレの1、2週間前、右の太ももに違和感があったという。「少しタイムが落ちたときにちょっと無理して、『気持ちでどうにか持っていこう』としてしまった部分があった。それで少しずつ歯車が合わなくなっていたんです」。そこで一度疲労を取り除き、基礎的な動きをゆっくりと行い、着実に加速するためのポイントを押さえることに徹した。本番は「(太ももは)気持ちの部分で少し気になるぐらい」の状態だったが、動き自体は調子が良かったときに戻すことができていた。

「着実に自分の強みを出せて、最後まで気持ちを切らさずにレースができました。先輩たちと一緒にこのスタートラインに立てたことは、緊張感もあったんですけど、頼もしさもありました。勝負が重要になってくるところで勝ち切れたのは、一つ評価できると思っています」

女子100m決勝は終盤までトップ争いが混戦だった(撮影・井上翔太)

レース形式の練習は、誰が1着になるか分からない

自身の優勝と表彰台独占ではどちらがうれしかったか、とあえて尋ねると「うわっ」と一瞬驚いた表情を見せた後、落ち着いて答えてくれた。「私は表彰台独占の方が勝る感じです。大学1年目で『やっぱりこの大学に入学して良かった』ということを、特にこの大会、この決勝の舞台を通じて分かったので。自分の選択は間違っていなかったし、本当に恵まれている環境で練習できていることが分かりました」

甲南大学の女子陸上競技部には長距離を専門とした選手がいない。100mから400mまでの短距離や走り幅跳びなどの選手が多く、これが藏重にとっての「甲南大学のよさ」だと考えている。「短距離特化型の練習で、すごくレベルが高いところが魅力だと思います。スタートの練習をレース形式でやるときがあるんですけど、本当に誰が1着になるか分からない。それぞれの調子がいいとき悪いときで、順位がものすごく変動するんです」。全国の舞台で表彰台を独占できたこともうなずける。

岡根(右)奥野(左)に挟まれ、記念撮影に応じる藏重(撮影・井上翔太)

伊東浩司氏は必要なときに必要な情報を与えてくれる

選手たちの指導にあたっているのは、男子100mの元日本記録保持者・伊東浩司氏だ。決勝のレース前、藏重は「どんなレース展開になるか分からない」と言われたことで「ゴールにできるだけ早く到着できるように、最後まで気持ちを切らさないようにしよう」という思いを新たにした。

短距離の第一人者から教えを受けられることは、世代のトップランナーに気付きを与え、成長を加速させる。「伊東先生は明確に『何位になれるよ』とか『何位をめざしていこう』とはおっしゃらないんです。『経験上、こういう心持ちになったときにタイムが出た』『こういう視覚的な情報だったときは、こういう順位になった』と、結果に対する要素を教えてくださります」

初めて経験するインカレに加えて、先述の通り大会直前まで右太もものアクシデントがあった。いざ出場できるとなったとき、伊東氏からは「思った順位にしかならない」という言葉をもらい、藏重の気持ちが固まったという。「必要なときに、必要な情報を出してくださることが、落ち着いてレースに臨めることにつながっていると思っています」

伊東浩司氏の指導で、さらに成長を実感している(撮影・藤井みさ)

個人種目での国際大会出場をめざす

二冠をかけて臨んだ女子200m決勝は0秒01差で表彰台を逃し、4位だった。「やっぱり悔しさがないと、それを糧にした成長もできない。私も高校2年のときに100mで敗れたからこそ、次の年に勝てました。こういう積み重ねで最終的な『優勝』に近づいていくのだと思います」。大学1年からアジア選手権のリレーメンバーに選ばれ、すでに国際大会にも出場している。大学4年間では「個人種目で国際大会に出て、自分の力がどこまで通用するのかを確認していきたい」と目標を語った藏重。その可能性を十分に感じさせる初のインカレだった。

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