江村は主将としてまた司令塔として、桜花学園のウインターカップ2連覇に貢献した ©JBA

桜花学園・江村優有 苦労を苦労と感じず突き進んできた高校界屈指のポイントガード

2021.1.29

昨年末に開催された第73回全国高等学校バスケットボール選手権大会(SoftBank ウインターカップ2020)において、女子の桜花学園高校(愛知)は2年連続23回目の優勝を果たした。チームが掲げた「圧倒的に勝つ」という目標そのままに、決勝戦を含む6試合は全て圧勝。まさに“冬の女王”の名にふさわしい戦いぶりだったと言える。

いじられキャラの江村、コートに立つと司令塔の顔へ

中でも際立ったのは主将・江村優有(えむら・ゆうあ、3年)の存在感だ。広い視野に裏打ちされたコントロール力と高い得点能力をあわせ持つポイントガードとして、終始安定した力でチームを牽引(けんいん)した。「どの試合も自分たちの力を出し切れば必ず勝てると信じていたので、優勝候補の筆頭と言われてもプレッシャーを感じることは全然なかったです」と言い切るメンタルの強さも、武器のひとつだろう。

ただし、頼もしい言葉とは裏腹にその口調はふんわり柔らかい。「それ、よく言われます。普段はホワッとしているというか、おっとりしているというか、コートの上のイメージとは全然違うねって」。チーム内では小柄(身長160cm)ということもあり、「赤ちゃんみたいって言われたり、結構いじられていますよ」と笑う。だが、そのいじられキャラの江村がコートに出ると、途端に頼もしい司令塔の顔になる。「自分の中にスイッチがあるんです。意識して自分で押すわけではないけど、コートに入るとスイッチが自動的にONになって、その瞬間、自分は変わると思っています」

普段はいじられることが多いという江村だが、コートに入るとスイッチが自動的にONになる ©JBA

バスケ一家に生まれ、父が指導するクラブで基礎を学ぶ

江村は長崎県佐世保市に3人兄妹の末っ子として生まれた。両親はともにバスケ経験者、2人の兄もバスケをしていたことから「3歳ぐらいからバスケットボールで遊んでいました。気がついたら自分のそばにバスケがあったという感じです」。父がコーチを務めていたバスケクラブに通い始めたのは何歳の時だったか。

「小学生も中学生も高校生も大人もいるクラブで、佐世保にある米軍基地からアメリカ兵の人が来ることもありました。クラブの中で女子は私を含めて3人だけ。だから1対1の練習も男子を相手にやるんです。ハンデがあっても絶対負けない! と思ってやっていました。自分の基礎はあのクラブでつくられたと思うし、男子相手に頑張っていたことがいい意味で今の自分のプレーに影響していると感じています」

中学校に入ると、学校の部活動とクラブの2本立てでバスケを続け、1年生と2年生の時には長崎県代表メンバーとしてジュニアオールスターに出場。2年連続準優勝に輝いたチームの貴重なワンピースになった。その活躍を見ていたのが桜花学園の井上眞一監督だ。桜花学園に声をかけられていることは父から知らされた。「あの桜花学園でバスケができるのかと思ったらとにかくうれしくて、長崎を離れることの不安とかそういうのは全く感じませんでした」

地元・長崎を出て桜花へ 「苦労話」が出てこない

そうは言うもののまだ15歳だ。初めて親元を離れスタートした生活に戸惑うこともあっただろう。新しい環境に慣れるまでには大変なこともあったのではないか。毎日の厳しい練習がつらいと思うことはなかったのだろうか。何かひとつやふたつ、苦労話を聞きたいと水を向けてみたのだが、返ってきたのは「最初からみんな仲良くしてくれて家族みたいな感じですごく楽しかったです」という答え。それでも1年生でポイントガードを任されたことが重荷だったとか、不安だったとか……と一押ししてみたが、「そういうのはなかったです」と軽くいなされた。

「もちろん中学の時とは違い桜花にはセットプレーがたくさんあって、それを覚えるのは大変だったし、どのセットプレーを選択してコールするのがいいのか悩むことはありました。それと中学ではセンターにパスを出すことがあまりなかったので、(桜花では)自分のパスが思うように通らず最初のころはへこむこともありました。でも、それはつらいことではないですから。むしろ寮と体育館が隣り合わせで夕食後に自主練にも行ける環境がありがたいな、と思っていました」

桜花に入ってすぐはパスが思うように通らずにへこむこともあったが、自主練も取り入れながら力を蓄えていった ©JBA

やっぱり苦労話が出てこない。自主練ではシュート練習の他にボールを2個使ったハンドリングの練習を欠かさず行い、個人スキルの向上を目指したこと。ケアのために自主練を休む時はNBAの動画を見て過ごしていたこと。そして、好きなのはブルックリン・ネッツのカイリー・アービング! バスケの話をする時の江村はいきいきとして実に楽しそうだ。

苦労話は諦めてバスケ以外で好きなことをたずねたところ、「テレビでお笑い番組を見るのが好きです」と答えた。ちなみにお気に入りは「博多華丸・大吉」と「サンドウィッチマン」だそうだ。はやりの第7世代ではなくベテラン実力派コンビが好きなところも、なんだか妙に江村らしい。

マイケル・ジョーダンの言葉を胸に

「文武両道」を目指す江村は学業面でも優秀だと聞いた。クラスでは常に「上位4番ぐらいにいる」らしい。高校卒業後、早稲田大学に進学することを決めたのもバスケはもちろん、専攻するスポーツ科学で学ぶことを選手としてのスキルアップに生かしたいと考えたからだ。

今後の課題として挙げたのは「ディフェンス力とパスの精度の向上、自分の武器である得点力に磨きをかけるためにもオフェンスのバリエーションを増やすこと」。その一つひとつをクリアしながらチームの主力になる日を目指したい。さらにその先には日の丸のユニフォーム、オリンピックの舞台……と夢は広がる。

「桜花では井上先生からたくさんのことを学びました。バスケのスキルだけではなく、コミュニケーション能力やリーダーシップの取り方も身に付けることができたと思います。いい仲間に恵まれ、桜花で学んだことは全て私の財産。大学ではその財産をさらに増やしていけるようコートの中でも外でも頑張っていくつもりです」

今春から進む早稲田大学でも文武両道を目指す ©JBA

最後に座右の銘を聞いた。大切にしているのはマイケル・ジョーダンの言葉だという。

「目標を達成するには、全力で取り組む以外に方法はない。そこに近道はない」

一言一句間違えないようにわざわざスマホで調べ、読み上げてくれた後、少し照れくさそうに笑った。その柔らかな笑顔の内にジョーダンの言葉がある。柔軟でいて力強く、ここからまた一歩ずつ。大学のコートで江村はどんな成長を見せてくれるのか。スイッチONの活躍が今から楽しみでならない。(文・松原貴実)