一橋大学の小平グラウンドが3月30日、2面の人工芝グラウンドに生まれ変わりました。この「人工芝化プロジェクト」は2019年にア式蹴球部とアメフト部、準硬式野球部のOBOGたちが立ち上げたプロジェクトですが、学生たちもプロジェクトメンバーとなって活動してきました。そのひとりである田中朝陽(4年、県立千葉)がプロジェクトを通じて感じたこと、人工芝でプレーできる今について寄稿してくれました。

【動画】一橋大学アメフト部、自粛期間中に取り組んだ人工芝プロジェクト

土グラウンドに苦しめられてきた日々

僕は現在4年生なのだが、今が一番練習が楽しい。ステップが踏みやすく、ボールも服も汚れないし、なにより雨の日も練習できる。練習後のグラウンド整備もしなくていい。これらは全て、僕が所属するアメリカンフットボール部が活動するグラウンドの人工芝化が実現したことによる恩恵である。茶色くて砂ぼこり舞うあの見慣れた土のグラウンドが一面緑の映える練習場になるなんて、自分が入部した時には想像もしていなかっただけに、見るだけで日々胸が躍る。

かつての土グラウンドでももちろん十分に練習はできていたが、どうしても弊害があった。まずは感染症。「感染症って何?」と思う方々がほとんどであるだろうし、僕も最初聞いた時はとても驚いた。

長い間、同じ土グラウンドで活動していたこともあり、僕たちのグラウンドの土は衛生状態が悪く、けがの切り口に付くと病原菌が入って膿(う)んでしまうらしい。僕が1年生の時に先輩が切り傷で何針か縫った際、「感染するからグラウンドや更衣室に来るな」と言われていて驚いた記憶がある。

土のグラウンドは衛生面の問題もあった

次に「こだ虫(コダチュウ)」の大量発生。毎年少し暑くなってくると、土グラウンドで、かつ雑草がたくさん生えるため、蚊のような虫が大量に発生するのだ。たくさん刺されてかゆいのだが、普通の蚊に刺された時よりも腫れが大きくかゆみも強いので、グラウンドのある小平の虫ということで「こだ虫」と呼び、みんな被害を訴えていた。

更に大雨が降ると湖ができる。水はけも悪く、一度大雨が降ると一週間は水が残っていて、フィールドを広く使った練習ができなくなる。写真はまだましな方で、もっとひどい時も多々ある。僕が入学する前は、水をスポンジで吸ってバケツに絞ってということをずっと繰り返していたらしい。

雨が降ると練習もままならない
雨の後はぬかるむ土で足をとられ、泥だらけになりながらの練習となる

こんな前時代的な土グラウンドがこのたび、人工芝化に至った経緯や動きについて述べていきたいと思う。

構想10年、1.5億円を目指してスタート

先述したように様々な弊害があった土グラウンドであるが、最も大きな問題としてはアメフトの試合は人工芝グラウンドで行われるのに土で練習していること、そして雨で練習機会が減ることの2つがあげられる。また、一橋大の他の体育会は人工芝グラウンドをもっているため、新歓の際にウィークポイントになっていた。

これらの解決のため、人工芝化の構想自体はOBOG会で10年ほど前から議論されていたが、金額が莫大であったり、隣接する土グラウンドを使っているア式蹴球部との調整が必要なこともあったりと、具体的なアクションがなかった。

長年検討が続く中、2019年、ついにアメフト部とア式蹴球部のOBOGが中心となり、人工芝化プロジェクトがスタートした。アメフト部は同年7月から寄付募集を開始した。目標金額としては両部7500万円ずつ、計1.5億円を目指し動き始めた。

学生自身がプロジェクトの思いを伝え、感謝を伝える

恥ずかしながら、寄付を開始した当初、僕は「なんとなくプロジェクトが始動したのだな」という感じだった。当時は3年生。人工芝化が実現した場合、僕はラストイヤーを人工芝で練習できる。そう考えるとワクワクしたのと同時に、実際に恩恵を受けるのは学生であり自分であるのだから、なんとなく人工芝になったというのでは違うと思った。そう考えていた時に、西澤正章ゼネラルマネージャーが部内で人工芝化プロジェクト推進の有志メンバーを募ってくださったので、自分は迷わず参加を決め、20年4月からOBOGとともにプロジェクトの活動に加わった。

プロジェクトの中で、現役部員は主にSNS広報、部内広報、お礼状作成の3チームに分かれて活動を行った。僕が取り組んだのはSNS広報である。現役部員が部活に対する思いや活動内容を文章にしてFacebookのOBOG会ページに投稿し、寄付のお願いをする活動である。

この取り組みを始める前、「現役はどう思っているの?」「実現したらメリットを受けるはずの現役の声が聞こえてこない」という声が、一部のOBOGから出ていたと聞いた。目標金額の寄付を集めるには、定期的にチーム活動に携わってくださるOBOGだけでなく、引退以来しばらくチームから離れているOBOGからも寄付を募る必要があり、現役部員が直接文章を書くことで関心を持っていただこうという狙いがあった。そのために部活動のことだけでなく、最近の学生生活についてやアメフトの戦術面についてなど多岐にわたる内容を投稿した。僕が実際に書いた文章がOBOGの心を動かし寄付につながったかもしれないと考えると、とてもうれしく達成感も大きい。

SNSを駆使してチームやプロジェクトの現状を随時発信

部内広報のチームは、寄付状況や有志メンバーの活動状況、そして工事計画などについて部内に発信することで、チーム全員が自分ごととして捉え自ら考えるようになることを図った。またお礼状作成チームは、寄付してくださった方に1枚1枚名前や宛先を手書きしてお礼状を送付した。直接お礼が言えない状況でも感謝の気持ちが伝わるよう、1文字1文字心を込めて丁寧に書き上げた。

僕ら学生がプロジェクトに参加した20年4月は、新型コロナウイルス感染拡大による課外活動自粛の始まりの時期である。当時3年生だった僕は、2年間である程度経験が積めたのを生かして一番うまくなれる時期だと思っていたので、その期間に練習ができないというのは悔しく、また危機感もあった。というのも、ここでうまくなる機会を失った状態で最上級生を迎えることになるからである。しかし、今まで目の前の対戦相手や練習のことだけを考え言語化することがなかった自分の部活への思いをSNS広報で改めて表現することは、自分の中でアメフトやチームの価値を再認識する大事な時間になり、こうした不安もモチベーションに昇華することができた。

支援者764人分の思いが結集

現役部員も意欲的に取り組んだ人工芝化プロジェクトだが、目標を達成できたのは、OBOG会の方々の尽力があったからこそだと感じる。特に20年4月以降、若手OBOG内で寄付を募る取り組みが加速した。OBOG会全体に発信されるメッセージとは別に、若手OBOGのみに向けた情報発信が行われた。それは寄付方法の補足説明や、プロジェクトの進捗(ちょく)の共有であった。更に各世代の中心メンバーが、近い世代に「自分はなぜ寄付したのか」など思いを発信してくださったことで、このプロジェクトに関心を持つOBOGが増えたそうだ。僕ら現役はその内容を見ることはできなかったが、5月初旬には7%だった00年以降卒の若手OBOGの寄付率は、たった2カ月で46%と右肩上がりに増加し、00年以前のOBOGの積極的な寄付と合わせて加速度的に目標に近づいた。

OBOGの中には、実体験も含めてプロジェクトを呼びかけてくれる人もいた

環境を言い訳にしない取り組みをしてきた先輩方は、僕が前段で書いたように土グラウンドの弊害を挙げて人工芝化を目指すことに複雑な思いがあったとも聞く。土グラウンドでも10年間1部で戦い続けた時代もあり、近年結果が出ない原因を取り組みの甘さから土グラウンドにすり替えているのではないかと言われると、当たっている気もする。それでも「後輩たちに少しでもいい環境を」との思いでたくさんの方が寄付してくださったことは本当にありがたい。

最終的に7月頃まで寄付を呼びかけ、結果としてアメフト部には446件・約6800万円、ア式蹴球部には228件・約7500万円の寄付があり、更に同じグラウンドを使う準硬式野球部からも90件・380万円の寄付が集まった。仕様の協議や施工業者の協力で事業費が下がったこともあり、集まった1.4億円で2面の人工芝の実現が正式に決まった。

CRIMSONの伝統を胸に結果で恩返しを

自粛が続く中で改めてアメフトができる喜びをかみしめ、待ちわびていた人工芝グラウンドで練習ができる日々は純粋に楽しい。OBOGをはじめ、寄付してくださった方々には感謝してもしきれない。同時に、これ以上ないほどの素晴らしい環境を用意していただけたのだから、今年こそ1部昇格を果たさなければならないという責任を強く感じ、身が引き締まる思いだ。

コロナの影響で練習を制限されることもあるが、それでもモチベーションは高く持てている

1967年の創部から2021年まで、チームには常にOBOGによる寄付や支援があった。現役時代の本気の取り組みがあるからこそ今の現役世代にも興味を持っていただけ、現役部員の熱い思いに共感していただけていると思う。

アメリカンフットボール部CRIMSONは一橋大学のどの団体よりも熱い団体だ。これは昔からずっと受け継がれてきたスピリットであるし、これからもずっと変わらずに受け継がれていくものだろう。個人的には一橋大学でアメフトをやる価値というのは、初心者ばかりで人数も少ない国公立大学のチームが、私立の強豪校と対等に戦い勝利するところにあると思っている。

感謝の気持ちを結果で示していく

今回のプロジェクトを大きな契機として、今一度、CRIMSONスピリットを呼び起こし、再び関東アメフトリーグを盛り上げる存在となれるよう、チーム一丸となって熱狂していきたい。