関東大学対抗戦3連覇、そして3年ぶりの大学王座奪還を狙う明治大学ラグビー部。春季大会は関東リーグ戦の強豪・東海大学などに3連勝を飾ったが6月の招待試合では帝京大学に28-32で敗れた。だが対抗戦が始まると徐々に調子を上げていき、11月3日には昨年敗れた慶應義塾大学にテンポのいいアタックを披露し、バックスだけで6トライを挙げて46-17で快勝。開幕から無傷の5連勝で勝ち点を25に伸ばし首位に立っている。

FW支えるフッカー

ただ、明大は伝統的にスクラム、モールといったFWの力強いプレーが持ち味だ。もちろん今シーズンも春から鍛えてきておりチームの強みとなっている。そんなFWのセットプレーを支えるのがHO(フッカー)田森海音(かいと・4年、長崎北陽台)だ。

今季の明大FWの中心に田森がいる

明大はシーズン途中の6月に監督が交代した。田中澄憲監督が退任し、リコー(現ブラックラムズ東京)の監督だった神鳥裕之氏が新たに指揮官に就任した。田森は「コーチ陣が代わっていないので、やること自体は変わっていません。キヨさん(田中監督)が大事にしていたところを神鳥さんも継続しています」とさほど影響は感じていない。神鳥監督も「スクラムだけでなく、田森はスローイングもいい」と信頼は厚い。

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ただ、対抗戦が始まってから明大は波に乗ることができず、3試合目の日本体育大学戦では46-10で勝利したが、自分たちが想定した試合内容とほど遠かった。そこで「4年生全員で戦う」ことを意識するために、4年生がそれぞれのパートの担当となって分析し、どう戦うかの共有を図っている。田森はHOとしてスクラムに関わることはもちろん、「日体大戦は個人的にも調子が良くなかった。(センター児玉)樹(4年、秋田工)と一緒にディフェンスを担当しています」と話した。

日体大戦が一つのきっかけとなり、筑波大学、慶大といった強豪相手に、明大が春から注力してきたフィットネス、クイックテンポという持ち味を出し快勝。20日は同じく開幕から全勝の帝京大と激突する。勝利したチームが対抗戦優勝に大きく近づき、明大が勝利すれば23日の早慶戦の結果次第では優勝が決まる可能性もある。

帝京大との全勝対決はスクラム勝負

田森が、帝京大との全勝対決のキーとなると予想しているのはスクラムだ。「帝京大はスクラムに自信を持っているし、スクラムで攻守の勢いを保っている」と分析し、「僕らもこの1年間、スクラムにこだわってきた。絶対に負けたくない」と対抗心を燃やしている。

春の帝京大戦。全勝対決はスクラムが鍵を握る

「(帝京大)細木(康太郎/4年、桐蔭学園)はめちゃくちゃ強い。相手の方が重いので僕らから先に仕掛けるイメージです。1発目から出鼻をくじき、いつもと違う感覚を味わわせて自分たちのペースで戦いたい」(田森) 

明大のフロントローは田森を筆頭に、4年のPR(プロップ)山本耕生(桐蔭学園)、村上慎(法政二)、3年の大賀宗志(報徳学園)、中村公星(國學院栃木)、2年の為房慶次朗(常翔学園)ら昨季とほとんどメンバーが変わっていないのも強みだ。春、Bチームとスクラムを組んだ時に差を感じていたが、田森は「今では強度が拮抗し、ほとんど差を感じなくなってきている。試合より高い強度で練習できているので、それが今後につながっていく」と話す。

また慶大戦ではキックをうまく使い、全てバックスでトライを挙げた。それでも田森は「慶大戦はモールからトライを取れなかったが、筑波大ではいい形で、モールで取れた。明治大にはいろんなアタックのオプションがある。試合の中でいろんなトライが取れればいい」と強豪との対戦に自信をのぞかせた。

高校3年生で全国大会出場逃す

長崎出身の田森とラグビーの出会いは小学校1年のときだった。当初はサッカーをやろうとしていたが、幼少期から少しぽっちゃりしていたため、父の知人にラグビーを勧められ、長崎中央ラグビースクールに入った。中学校時代は、学校で柔道部に入りつつ長与ヤングラガーズでプレーした。

「決して第一線の選手でなかった」中学校時代、長崎スクール選抜で全国準優勝し、長崎北陽台に推薦で入学した。当時はNo.8でプレーし、「花園」こと全国高校大会には高校1、2年生の時に出場した。ただ、3年生の最後は、法政大学主将のNo.8大澤蓮らのいる長崎南山に長崎県予選決勝で敗れて涙をのんだ。「この敗戦が高校時代、一番悔しかった。大学でラグビーを頑張るモチベーションになりました」(田森)

田森は大学を決めるとき、「どうせやるなら、日本一を目指せる場所でやりたい」と漠然と思っていた。高校1年時の花園での活躍が評価され、「紫紺のジャージーが格好いいし、FWが強い。中学くらいから憧れていた」という明大に入学する。ただ最初は世代の代表選手ばかりで、「本当にレベルの高い集団だ」と圧倒されそうになったという。

No.8から転向、下級生で力蓄え

そんな田森は大学1年の夏、一つの決断をする。「明治大のNo.8はボールキャリーや激しいタックルなど圧倒的な何かが必要。いろいろバランス良くできる感覚はあった」とバックローからHOへ転向した。ただ2つ上のフッカーには、キャプテンも務めた武井日向(ブラックラムズ東京)、松岡賢太(神戸スティーラーズ)と1年目からトップリーグで活躍するような先輩がいた。

当然、HO初心者だった田森は大学2年まで、ほとんどが下部チームである「ルビコン」での時間だった。だが田森は百折不撓(ひゃくせつふとう)の精神を持ち続けて「常に『3年生になるとき』が自分の中でキーワードでした。上で出られたら……というイメージを持って3年になるまで腐らず、スローイング、スクラム、ウェートトレーニングなどできることをやっていました。向上心は切らせなかった」と振り返った。

2年間の努力が報われ、田森は大学3年時の対抗戦開幕戦で、16番をつけてデビューを飾った。続く青山学院大学戦では先発で出場するなどコーチ陣の信頼を得ていった。「昨年度の筑波大戦ではラインアウトのスローイングが100%だったので、そこで自信をつけることができた。スクラムも昨季、練習と試合を通して組めるようになっていきましたね」(田森)

4年生の同期23名の中で、服が好きで、おしゃれに気を遣っているという田森。現在の趣味はカメラだ。コロナ禍に中古でフィルムカメラを購入し、同期の仲間を撮影している。またエスプレッソマシーンも購入し、朝練習の前にコーヒーを飲むことも楽しみの一つだ。寮ではずっと風呂担当で、下級生がしっかり掃除をしているか、毎日、チェックを欠かさない。

王座奪還への鍵を聞くと田森は「(今季のスローガンである)『MEIJI PRIDE』を持って日本一になるために何ができるか。やはりフッカーですし、明治と言えばFWなので、スクラムで圧倒して、モールでトライを取ることにこだわっていきたい」と語気を強めた。

下級生の時の努力があるから今がある

「何事も楽しむスタンス」を貫いているため、厳しい状況でもいつも笑顔を絶やさない田森は来春から、新リーグの「リーグワン」のチームに入る予定だ。だが個人的に社業もしっかりやることを決めているため、「ここまで注目されてラグビーをやるのは最後になる。そういったことに感謝しながらあと2カ月、本気で頑張りたい」と意気込んだ。

チームとしては、大学1年の時に全国大学選手権で優勝、2年でも準優勝したが、田森はスタンドから見守るだけで終わった。「決勝でプレーすることには憧れます。いざとなったら、全然違うのかな。決勝の舞台に立って日本一になりたい」。4年間、努力を絶やさなかった男が、憧れてきた紫紺のジャージーを着て「重戦車」の要となる。