バレー

特集:全日本バレー大学選手権2019

関大女子バレーのピンチサーバー近藤初帆 熱い思いで打ち抜いた一球

インカレ前、自分を表す一言を書いた近藤

第66回全日本大学選手権大会 3回戦

11月28日@大田区総合体育館
順天堂大3-1関西大

「ピンチが出番」の近藤初帆(4年、金蘭会)は笑顔でサービスゾーンに向かった。「近藤初帆が来たぞ強気で攻めまくれ〜」関大女バレの応援ではおなじみの近藤のテーマソングが歌われるなか、いつものルーティン。そして、ジャンプサーブで放たれたボールは美しい曲線を描いた。相手レシーバーは近藤のサーブを捉え切れず、関大に1点が入る。これが順大からセットを奪う決定打となった。

いつもチームを盛り上げた近藤の存在

正確無比なサーブと、磨き上げられたレシーブ力で「ピンチサーバー」の立場を確固たるものにしている近藤。ローテーションが1周した辺りでサーブから途中出場し、その後、後衛での守備に努める。今年はほぼ全ての試合に出場し、この全日本インカレでも全てのセットでコートに立った。チャンスの時に近藤が登場するとチームはさらに盛り上がり、勢いを加速させる。ピンチの時に入ると、近藤が何か変えてくれるのではないかと、チームの期待を一身に背負う。サーブミスはほとんどなく、強打のレシーブ、得意のキャッチでも幾度となくチームを救ってきた。人並みの精神力では続けることはできない。近藤が築き上げてきた大きな役割だ。

近藤登場時に、近藤を応援する振り付けをしているベンチメンバー

そんな重役を近藤は4年間務めた。入学前に見学で関大の練習試合に参加した際、当時の監督に急にサーブを打つように命じられた。緊張しながらもサーブを放つと、「その時、めっちゃサーブの調子が良くて」。5本連続でエースを決めた。そこで評価を得た近藤は、入学後初めての春季リーグ戦からピンチサーバーとして出場した。「当時は先輩のいるなかでのピンチサーバーだったから、今とは違うプレッシャーがあった」。サーブやレシーブには当時から自信があったが、いざコートに立つと緊張と不安が襲った。サーブミスにレシーブミス。「逆に、入って迷惑掛けてるみたいな感じで苦しかった」。それでも、近藤は決して逃げなかった。「負けてる時でも、どんな場面でも、絶対に信じて使ってくれて」。監督や先輩の信頼を自信に変えて、強くなろうと決めた。

「ミスしたらどうしよう」から「自分がチームを勝たせる」に

マイナス思考の心を180度変えた。「ミスをしたらどうしよう、迷惑を掛けたらどうしよう」ではなく、「次どうしたら成功するのか、自分がチームを勝たせよう」と考えるようにした。メンバー交代で入ると、その一本のプレーによって流れがガラッと変わる。それをリスクではなく、チャンスと思えるか。一本の重みを知っている近藤だからこそ、練習では人一倍の努力をした。「どの練習も一本目はすごい意識してた。レシーブ練習も一本目は絶対に上げることをこだわっていた」。コツコツと刻み続けた努力が、今年の安定感を生み出したのだ。

西日本インカレでベスト4、秋季リーグ戦で準優勝は関大女子バレー史上初の快挙。さらに全日本インカレのおよそ1週間前に行われた大阪府学生大会では今年初のタイトルを取り、大阪そして関西を代表するチームとなった。関大が最後に掲げた目標は、「全国8強以上」。例年、力量が上の関東勢に屈し、いまだにどの先輩も見たことのない景色だ。そして、今年のベスト8を懸けた順大との一戦。関大は「勝ちたい」ではなく、「絶対に勝つ」ために練習と分析を重ねた。

4年間の思いを込めた一球

近藤はただひたすらに出番を待った。第1セットは17-11とリードしている状況での出場だったが、近藤の投じたサーブでは相手を崩せなかった。第2セット、今度は15-20と追う展開での交代。近藤のサーブから流れを作り、関大は点差を詰めた。その後レフトバックを守った近藤は、相手のスピードのあるクロススパイクがサイドラインギリギリのところでアウトと判断するナイスジャッジを見せた。23点まで追いついたが、あと少しのところでこのセットも逃した。

第3セット。このセットを落とせば、その時点で近藤自身の引退も決まる。出番は16-13と決して気を抜けない拮抗した場面で訪れた。そして、近藤は笑顔でコートに入る。「ベンチでサーブ狙う場所を(ベンチスタッフが)出してくれていて、そこを見て、決めたいという気持ちでずっといた」。1本目のサーブ、相手を崩し、ダイレクトで返ってきたチャンスボールを味方のミドルが打ち込んで1点を獲得。さらに2本目、狙った位置にボールが吸い込まれていくようなサーブ。相手レシーバーは思わず取り逃し、サービスエースとなった。これで5点リードとなり、セット終盤に入るところで流れをつかんだ関大。プレー次第ではピンチにもなりかねないこの状況で、近藤は4年間で培われた鉄のハートを見せた。

順大戦でサービスエースを決めたあと、祝福される近藤

近藤の活躍もあり、このセットを奪って一矢報いた関大。しかし、第4セットは奮闘むなしく敗戦。ここで夢は散ってしまった。「『ベスト8以上』をずっと掲げてきて、もっと点を取れる場面もあったから、やっぱり勝ちきれなかったことはすごく悔しい」。最後は目標の一つ手前で終わってしまった。10年間続けたバレー。近藤は今後、競技を続ける予定はない。もう二度とこれほどまでに熱くなり、たった一球を追い続ける日々は訪れないだろう。だからこそ、近藤はあの一球に思いを込めた。「ミスをしないように」と考えていた、以前の近藤には打てなかったサーブだった。そんな4年生の姿を後輩はしっかりと目に焼き付けたことだろう。思いは受け継がれた。関大女バレが、「全国ベスト8」の厚い壁を破る日はそう遠くないだろう。

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