応援

学習院大学初の女性應援團長、篠原理緒チアリーダーは難しいコロナ禍の応援を模索

学習院大應援團長の篠原理緒はグラウンドに背を向け応援の指揮を執る(撮影・全て小川誠志)

70年の歴史を誇る学習院大学應援團において、女性として初めて應援團長を務める篠原理緒(4年、学習院女子)。應援團長といっても学ランを着て声を張り上げるリーダーではなく、篠原はチアリーダー部「SPARKS」に所属する。今春の東都大学野球2、3部入れ替え戦では、39年ぶりの2部昇格を目指して戦った選手たちに笑顔で声援を送った。

「不安はもちろんありました」

学習院大應援團はリーダー部、チアリーダー部、吹奏楽部から構成されている。3つの部をまとめ、対外的に應援團全体の「顔」となるのが應援團長だ。前年度まではリーダー部の男性部員から團長を選ぶのが通例だったが、2021年度はリーダー部に4年生がいないこともあり、チアリーダー部の篠原が團長に選出されることになった。
「不安はもちろんありました。女性の團長がチアから出るということに関しては、OBの先輩方がかなり驚かれたようで、意見の調整に苦心されたと聞いています。それでも、女性として初めて團長になるわけですから、應援團に新しい風を吹かせることができるいい機会なのではないかと思いました」

新歓イベントで先輩の演技に感動してチアリーダーに

入学時、新歓イベントで見たチアリーダー部のステージに感動したのが入部のきっかけだった。「チアのステージを見て純粋に感動して『かっこいいな』『こういうことをやってみたいな』と思いました」と篠原は入学時を振り返る。中学・高校と運動部に所属したことはなかったが、友人とヒップホップのダンスユニットを組んで文化祭で披露するなど、もともと体を動かすこと、人前に出ることは好きだった。入部してみると、思いのほか練習はハードだった。スタンツ(人を持ち上げる組体操のような大技)では仲間を持ち上げる土台の役割をこなすことが多く、筋力トレーニングにも取り組んだ。

母の知美さんは「肩なんかあざだらけになって、手首も腱鞘(けんしょう)炎になったり。應援團長になるって聞いたときはびっくりしましたけれど、もちろん全面的に応援しています」と娘の頑張りを見守る。

粘り強い交渉で実現した応援

コロナ禍、チアリーダー部も体育館を使用できる日数や時間が減らされるなど、制限のある中での活動を強いられている。何よりもつらいのは、応援をする対象である運動部のリーグ戦、対抗戦、競技会などが次々と中止になってしまったことだ。
そんな中、硬式野球部が今春の東都大学野球3部リーグを制し、6月21日からの2、3部入れ替え戦に進んだ。3部は今春のリーグ戦では応援が許されなかったが、入れ替え戦は神宮球場で行われたため、應援團は1部リーグ同様、外野席での応援が許された。これが篠原團長率いる應援團にとって、今年の「初応援」となった。

外野席からの応援を背に戦った学習院大は、初戦こそ東京農業大(2部5位)に2-4と敗れたが、大正大(2部6位)には9-1と大勝。3校が1勝1敗で並び、決勝トーナメントに進んだ。ここで東農大に勝てば39年ぶりの2部昇格が決まる。ところが7月1日、神宮球場で行われる予定だった試合は雨天により1週間延期され、場所は等々力球場(川崎市)へ変更されることになった。
「等々力球場には外野席がないため、応援はできないことになったんです。声を出しての応援もNG、楽器の演奏もNGと言われまして……。それでは硬式野球部の選手たちに何も届けられない」

篠原は諦めなかった。時間のない中、東都大学野球連盟、等々力球場と交渉し、神宮球場での感染対策ガイドラインをもとに、独自の応援ガイドライン案を作成し提出した。

春の入れ替え戦は等々力球場の3階席での応援が実現した

「問題になるのは騒音なのか、飛沫が飛ぶことなのか。そういったところを一つひとつ確認して、これならできるのではないかという独自の応援ガイドライン案を学習院大の應援團で作成しまして、それを連盟に提出して、球場の管理の方にも確認を取り、最終的には吹奏楽の演奏も許されて、3階席で応援ができることになりました」

39年ぶり2部昇格まであと一歩だった

等々力球場での入れ替え戦は四回まで0-0で進んだが、東京農業大が五回に2点を先制し、六回に2点、七、八回にも1点ずつを加えリードを広げた。学習院大も八回に1点を返したが、反撃も届かず、1-6で敗れ39年ぶりの2部リーグ昇格はならなかった。

春の3部最優秀投手で入れ替え戦も力投した学習院の櫻井(撮影・朝日新聞社)

試合後、硬式野球部主将・佐藤颯亮(4年、桐蔭学園)は悔し涙を流しながらも「入れ替え戦が決まってから、応援団の方々も『絶対に勝とう』と連絡をくれて、応援の準備をしてくれました。應援團の方々の気持ちは練習のときからずっと届いていたので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と應援團への感謝の言葉を述べた。雨の中、熱いエールはグラウンドへ十分に届いている。

篠原も野球部への思いを話す。
「コロナ禍で野球部もなかなか練習できていないと知っていましたし、スタメンには同じ4年生が多く、すごく熱いものを感じて、なんとしても応援に行きたいと思いました。結果は残念でしたけれども、いい試合を見せてもらいましたし、我々をあの球場に連れて行ってもらって感謝の気持ちしかないです」

野球部員からのお礼に笑顔でこたえる篠原(右)

應援團はこの秋、硬式野球部のほか、箱根駅伝予選会を走る陸上競技部の応援や、成城大、成蹊大、武蔵大との「四大戦」での各運動部応援なども計画しているが、コロナ禍により応援の可否は現在のところ見えていない。それでも篠原は前を向いて言う。
「各部と連絡を取り合いながら、應援團としてはいつでも動けるよう準備していきます。野球部には、秋リーグで応援が許されたら、そのときは必ず応援に行きますと伝えています」

今年度の應援團スローガンは「変化に、挑め。」團長自ら率先して應援團の変化に挑んできた。時代の流れとともに應援團のスタイルは変わりつつあるが、戦う仲間にエールを送る彼女ら、彼らの熱い思いに変わりはない。

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