陸上・駅伝

特集:安川電機陸上部50年

早大卒・鈴木創士と明大卒・漆畑瑠人、飛躍を誓うホープ 常勝軍団になる土台を作る

同期入社のホープ、明治大学出身の漆畑瑠人(左)と、早稲田大学出身の鈴木創士

創部50年を迎えた安川電機陸上部は、「草魂 ―ただひたむきに―」をチームモットーとし、成長を続けてきた。更なる飛躍を誓うチームには勢いのあるホープが集まっている。2023年に安川電機に入社した、早稲田大学出身の鈴木創士選手と明治大学出身の漆畑瑠人選手。1年目から全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)に出場するなど力を伸ばし、チームの主力としての期待が高まっている。安川電機を選んだ理由、大学駅伝の経験を実業団でどう生かしているか、地域への思いや今後の目標について語り合った。

漆畑瑠人「実業団で絶対に強くなる」

――2023年入社同期の鈴木選手と漆畑選手。就職先に安川電機を選んだ理由を教えてください。

鈴木創士(以下、鈴木) 僕はもともと実業団で競技をする予定がなく、大学4年生の7月に入社が決まりました。現在、安川電機陸上部と契約しているトレーナーさんに大学時代からお世話になっており、その方に大学3年の正月の駅伝が終わった後、「もう1年競技を続けたい」と相談したところ、安川電機へ採用について打診していただきました。その後、「よかったら安川電機で」と、スカウトのお話をいただくことができました。自分にとってこれまで縁のなかった北九州市が拠点でしたが、競技をやる上で場所は関係ないと思っていました。

漆畑瑠人(以下、漆畑) 僕は鹿児島県出身なので九州で競技を続けたいという思いがありました。その中で、安川電機OBの野村峻哉さんが僕と同じ鹿児島城西高校を卒業していたので、安川電機でお世話になりたいと思いました。

――入社してよかったと感じている部分はどこですか。

漆畑 日頃から会社の方々と関わっていて、温かい支援や応援をしていただいています。そのおかげで競技を続けられているので、周りの方々には感謝しかありません。僕は大学4年生で初めて大学駅伝を走ったのですが、自分の力を50%も出せず、悔しさしか残りませんでした。大舞台で走っても結果を残さないと楽しくないと痛感したので、実業団で絶対に強くなってニューイヤー駅伝で活躍するんだというモチベーションがあります。そのおかげで今、こうして大学の時以上に活躍できていると思っています。

鈴木 僕もスタッフやチームメイト、後援会や支えてくれる会社の方々に温かみを感じています。選手として競技をやっていく上で、周りのサポートは欠かせません。どんな時も選手をバックアップしてくれる方々が周りにいることが安川電機に入社してよかったと感じることです。

――2人は学生時代から知り合いだったのですか。

鈴木 大学4年生の夏合宿で、たまたま合宿地が一緒になって、その時に初めて会って話したかな。その時点では安川電機の入社は決まっていたよね?

漆畑 そうだね。入社した時も僕たちの代が最多の部員数(6人)で、ニューイヤー駅伝で入賞するために自分たちの代で底上げしていこうと話していました。

安川電機に入社し、大きな飛躍を遂げている漆畑

鈴木創士「チームのみんなで頑張っていきたい」

――安川電機では選手も社業にいそしむそうですね。日々の業務をこなしながら練習はどのように行っているのでしょうか。

鈴木 月曜日から金曜日は午前6時から朝練習を約60分やって、午前9時から午後3時までが社業です。午後3時半以降は午後練習で、60分から90分のジョグをやったり、ポイント練習のような強度の高いトレーニングを約2時間やったりします。土曜日は午前中に練習を終えて、日曜日の夜までは休みというスケジュールです。

漆畑 秋から冬の駅伝シーズンの練習メニューはチーム全体でほぼ一緒ですが、春から始まるトラックシーズンは種目ごとに違ってきます。

――この2年間で会心だったレースは何でしょうか。

鈴木 個人では、1年目の第52回全日本実業団ハーフマラソン(1時間00分49秒、2023年度当時で安川電機歴代1位タイ)が自分の思い通りにできたレースだったかなと思います。また、昨年の第61回九州実業団毎日駅伝競走大会(2区区間賞)も自分の想定した結果になりました。

漆畑 実業団に入ってから5000m以外の自己ベストを更新できたことはよかったです。とくに大学時代に苦しんだハーフマラソンは、当時の監督から「スタミナが課題」と言われ続けたので、それを克服できて、今年2月の第53回全日本実業団ハーフマラソンでチーム新記録(1時間00分47秒)を出せたのはうれしかったですし、成長できている部分だと思います。ただ、5000mの自己ベストが大学2年生の記録で止まっているので、今年絶対に更新したいです。(インタビュー後、2025年4月12日の第33回金栗記念選抜陸上中長距離大会で13分36秒10、5月4日の第36回ゴールデンゲームズ in のべおかで13分32秒71を出し、自己ベストを立て続けに更新)

――ハーフマラソンでしっかり走れるようになった要因は何でしょうか。

漆畑 大学時代にやってこなかったメンタルトレーニングやフィジカルトレーニングを実業団に入って取り組むようになったことが大きいと思います。メンタルは2カ月に1回、フィジカルは月1回ぐらいチームで取り組んでいます。

鈴木 実業団に入って距離を踏むことが増えたので、長い距離の種目である程度の結果は残せてきたのかなと思います。その一方で、大学時代に持ち味にしていた安定感が、最近なくなってきているので、今後の課題と考えています。

――2人の5000m、10000m、ハーフマラソンの自己ベストは拮抗(きっこう)していますね。同期でお互いに意識する部分がありますか。

鈴木 そうですね、同期として意識する存在です。チームでは今、主将の古賀淳紫選手や合田椋選手、漆畑選手と僕の4人がチームの核という感じなので意識しています。ただ、ライバルというより駅伝で戦っていくチームの仲間として、チームのみんなで頑張っていきたいという気持ちがあります。

漆畑 大学時代から鈴木選手が駅伝で活躍しているのを見てきて、目標の選手でしたし、今は同じチームメイトなので、一緒に力をつけてニューイヤー駅伝で頑張りたいという気持ちです。古賀選手や合田選手のような活躍している先輩がいるおかげで僕も成長できたので感謝しています。

――2人とも入社1年目からニューイヤー駅伝で活躍されています。学生駅伝とはどのような違いがありますか。

漆畑 走ることで生活しているという点で覚悟が違います。レベルの高い空気の中で、企業の名前を背負って真剣に戦っています。

鈴木 とくにニューイヤー駅伝は日本のトップレベルの選手が集まるプロの戦いで、学生駅伝以上に競技性の強さが出ると感じました。ワクワクするお祭りのような雰囲気もあった学生駅伝とは違い、それぞれの選手が自分の競技人生をかけてやっていくという部分での楽しさがあります。

実業団に入り、距離を踏むことが増えたと言う鈴木

安川電機と言えば駅伝と言われるチームに

――2025年度の目標と、その達成のための取り組みを教えてください。

漆畑 最近は10000mやハーフマラソン、駅伝など長い距離の方が走れてきているので、自分が得意と思っている5000mで自己ベストを絶対に更新して、日本選手権で入賞できたらいいなと考えています。そのために今年はフィジカルの強化を一番の課題に置いています。スピードを上げると体にかかる負担が上がりますし、強い筋肉がないと疲労も溜まってけがもしやすくなるからです。

鈴木 今年も自己ベスト更新を目指しています。また安定感を取り戻すために模索していきたいです。駅伝に注力したい気持ちがあるので、九州実業団毎日駅伝競走大会やニューイヤー駅伝で区間賞や区間上位を狙うような走りでチームに貢献したいです。

――数年後や将来の展望はありますか。

鈴木 何歳まで競技をやりたいという思いはなくて、今やめてもいいぐらいの気持ちで毎日取り組んでいます。体には賞味期限があって、40歳になっても同じように競技を続けられているかと言えば、そうではないと思います。ですから、動く体があるうちにできることをやっていきたいなと。陸上競技はこれまで12年間携わり、自分を大きく支えてきてもらったものなので、これからも自分ができることを陸上界に還元していきたいと考えています。

漆畑 僕は2月の全日本実業団ハーフマラソン大会でチーム記録を更新した時、マラソンに挑戦したいという気持ちが芽生えてきました。中本健太郎監督が世界の舞台で活躍してきた経験があり、マラソンのノウハウがあると思いますし、安川電機に入社したからにはマラソンで世界を目指したいと思うようになりました。

――今後、安川電機陸上部をどういうチームにしていきたいですか。

漆畑 中本監督やOBの北島寿典さんが世界最高峰の大会に出場していて、「安川電機と言えばマラソンのチーム」と言えると思います。ですが、これからは駅伝も頑張って、総合的にみんなが強くなり、「安川電機と言ったら駅伝だよね」と思ってもらえるようなチームにしたいです。学生駅伝などで活躍した選手がうちに入社して、安川電機が常勝軍団になっていくために、僕たちがその土台を作っていきたいです。

鈴木 僕は誰からも応援されるチームにしていきたいですね。まずは会社のみなさんに陸上を頑張っているところを広めて、陸上ファンや今はスポーツにあまり興味のない人にも安川電機を知っていただき、応援してもらえるようになったらうれしいです。

マラソンでも駅伝でも活躍するチームを目指す
創部50年、中本健太郎監督「新しい安川電機陸上部を」 古賀淳紫主将の新チーム始動

 

【profile】
鈴木創士 すずき・そうし/2001年3月27日生まれ。静岡県磐田市出身。本格的に陸上を始めた浜松日体中学時代や浜松日体高校時代は全国区で活躍した。早稲田大学に進学後も3大駅伝で主力を担い、箱根路は1年時から4年連続で出走を果たした。2023年安川電機に入社し、経営企画本部経営管理部経営計画課に所属。ニューイヤー駅伝は2024、2025年とアンカーを任されている。安定して結果を残せるのが持ち味で、中でも昨年11月の九州実業団毎日駅伝競走大会2区区間賞が光る。自己ベストは5000m13分48秒81、10000m28分18秒27、ハーフマラソン1時間00分49秒。趣味はゴルフと映画鑑賞。座右の銘は「覚悟」。

漆畑瑠人 うるしばた・りゅうと/2000年8月10日生まれ。鹿児島県薩摩川内市出身。鹿児島城西高校で陸上を始め、明治大学では4年時に箱根路を走った。2023年安川電機に入社し、ICT本部情報システム課 所属。ニューイヤー駅伝は2024年から2年連続3区で出場し、2025年2月の全日本実業団ハーフマラソンでは1時間00分47秒のチーム新記録をマークした。学生時代はやや伸び悩んだが実業団に進んでから大きな飛躍を遂げている。自己ベストは1500mがチーム歴代トップの3分43秒74、5000m13分32秒71、10000m28分19秒09。趣味はドライブ。座右の銘は「敵は己の中にあり」。

 

安川電機陸上部

1974年創部。チームモットーは「草魂 ―ただひたむきに―」。そこには「過去の実績や栄光におごることなく、また、失敗や挫折を恐れることなく、常にチャレンジ精神を忘れず真摯に競技に向き合おう」という思いが込められている。世界選手権など国内外で活躍する長距離ランナーを多く輩出している。ニューイヤー駅伝では安定した成績を収め、最高順位は3位。2025年は9位だった。主なOBは中本健太郎、北島寿典など。

 

チームのサポート体制

安川電機では会社をあげて陸上部をサポートしている。3月に低圧低酸素ルーム(写真)と高気圧酸素ルームを1台ずつ購入し、高地トレーニングやコンディショニングのための環境を整備している。

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