帝京大・柴戸遼太 大分東明で2年から主将を務めた経験を生かし、"5強"を切り崩す

今年の箱根駅伝を10位で終えた帝京大学は、新チームの主将に、それまで学年リーダーを務めてきた柴戸遼太(4年、大分東明)が就任した。副主将の尾崎仁哉(4年、東海大福岡)や藤本雄大(4年、北海道栄)、主務の曽田透真(4年、東京)らとともに、次回箱根での5位を目指していく。高校時代に2年間キャプテンを務めた経験や帝京大での歴代主将の姿から、「チーム目標にみんなを向かわせる」というイメージでチームを牽引(けんいん)する。
意識の高い先輩から学び、1年目で箱根駅伝デビュー
中学3年生のある時期、同じ中学出身で帝京大OBの赤城翼さんに指導してもらって以来、柴戸はテレビで学生駅伝を見る際は帝京大を応援していた。「選手が4年間かけて成長していくチームカラーにひかれて、自分も帝京大に行きたいと思うようになりました」
2022年春に入学して先輩たちから感じたのは、練習や生活面でのストイックさだった。特に同部屋だった当時主将の北野開平(現・山陽特殊製鋼)の姿からは、「食事を自分で準備する時は栄養面とかを考えて選び、練習も開始30分ぐらい前からストレッチなどの準備をしていた。やっぱり大学生は違うなぁと感じました」と学ぶことが多かった。

1年目から主力のAチームで過ごせたのも、「与えられた練習メニューをこなすだけでなく、自分でプラスしてやらないといけない」という先輩たちを見習い、それを実践できたからだろう。
トラックシーズンは関東インカレや全日本大学駅伝関東地区選考会に出場。箱根駅伝は1年生で唯一出走メンバーに入り、往路の4区に抜擢(ばってき)された。箱根はあこがれの舞台で、箱根駅伝を走るために大学に進んだと言っても大げさではない。直前の大島合宿も絶好調で、「自分は強くなった。これは本番でも戦えるぞ」と自信を持って当日を迎えていた。
「でも、実際に走ったら区間12位。あんなに練習ができて調子も良く、練習通りの走りもできたのに、強い人たちとはまだこんなに差があるんだというのを痛感しました」。チームも序盤から出遅れて総合13位。6年ぶりにシード権を失うこととなった。

主力としての意識が強くなった2年目
2年目になると、中野孝行監督から「これからはお前もしっかり引っ張っていく立場になるからな」と言われ、主力としての意識がそれまで以上に強くなった。
前半のトラックシーズンは貧血で思うような結果を残せなかったが、夏ごろからぐんぐんと調子を上げていく。「夏合宿でしっかり走り込んだので、長い距離に対する不安がなくなりました」と当時を振り返る。
夏合宿後にコロナの陽性判定を受けてしまったものの、帝京大が3位通過を果たした箱根駅伝予選会でチーム4番手に入り、「コロナ明けでもハーフでこれだけ走れたのは、夏に練習できたから」とさらに自信を深めた。
自身初出走となった全日本大学駅伝は3区を区間6位でまとめ、その2週間後に10000mで29分切りの自己ベスト(28分46秒60)。3区に起用された箱根も、「目標タイムより1分近く遅かったので満足していません」と悔やみながらも、順位を14位から9位に押し上げ、2年ぶりのシード権獲得に貢献した。

故障に苦しんだ3年目、仲間が箱根シード権を死守
ところが、3年目は苦しいシーズンとなった。昨年3月に左ひざを痛め、復帰まで約2カ月半を要し、トラックシーズンの開幕に向けて調子を上げているチームメートを見て、焦りを募らせた。特にエースで主将の山中博生(現・大阪ガス)は、一気に遠い存在になった気がした。
「それまでずっと目標にして一緒に練習してきた山中さんが、5月の関東インカレ2部10000mを28分04秒54で走り、『この2カ月半でとんでもないところに行ってしまった』と感じました。シーズン開幕前の大事な時期にもったいないことをしたなぁと」
柴戸は6月に復帰したものの、8月の夏合宿で痛みが再発。十分な走り込みをできないまま駅伝シーズンを迎えた。中野監督からは「お前は力があるから大丈夫」と声をかけられたが、不安を抱えた状況で会心の走りを望むことは難しかった。
全日本は5区で区間11位。今年の箱根は前年同様に3区を任されたが、「同じ感覚で走れるかなぁと、ずっと比較して、それが重荷になってしまった。序盤からきつくてスピードにも乗れず、自分の走りができなかった」と柴戸。1年前より約1分遅いタイムで区間17位に沈んだ。山中から6位で受けた襷(たすき)を10位でつなぐことになり、「みんなに申し訳ない」と責任を感じた。だが、復路のメンバーが踏ん張り、10位でシードの座を死守した。

チーム全体で狙う目標のベクトルが合えば、すごい力を出せる
柴戸は小学生の6年間、サッカーに熱中していたが、中学にサッカー部がなく、勧められる形で陸上部に入部した。もともと走ることが得意で、3年時は1500mで全中に出場。「2年生ぐらいから福岡で強い人たちと走れるようになり、高校でも陸上をやろうと決めました」と当時を振り返る。
福岡県出身ながら大分東明高校に進んだのは、「留学生と一緒に練習している先輩たちの姿を見て、ここなら自分ももっと強くなれる」と感じたからだ。駅伝を重視する大分東明では、柴戸もチームに貢献するために己を磨いた。全国高校駅伝は2年時から2年連続でエース区間の1区を走り、3年時は目標の表彰台に一歩届かなかったものの、4位入賞の流れを作った。
また、高校では顧問の先生から頼まれ、2年目から主将も務めた。そこでは「『なんだ、こいつ』などと思われないようにするためにも、自分が率先して行動したり、キャプテンとして何か言うからには練習や私生活もしっかりしたりすることを意識していました」。先輩との接し方には気を使った。
主将2年目の3年時は、「練習では自分がみんなを引っ張る」だけでなく、20人弱の全部員に目を配るようにしたという。
「Bチームのメンバーにも『お前、Aチームに来いよ』と発破をかけていたら、たくさんの選手が自己ベストをバンバン更新して、すごく良い雰囲気になりました。駅伝のメンバーだけじゃなく、チーム全体で狙う目標のベクトルが合えば、すごい力を出せるんだと実感できたのは良かったです」

勝負へのこだわりが、学生ハーフとエキスポ駅伝の好結果に
学生最後のシーズンで主将となった柴戸は、「チームの目標にみんなを向かわせる」というキャプテン像を思い描く。同期たちと今季の駅伝シーズンを展望した際、「青山学院、駒澤、國學院、早稲田、中央の5校は強そうだ」という意見にまとまり、1年間のテーマを「昨年超え」と「5強崩し」にした。ただ、出雲駅伝や箱根駅伝だけで5位を目指すわけではない。
「トラックシーズンや記録会でも、一人ひとりが5強の選手に勝ちにいく。60人いる部員の60人目までが、それを意識できるように伝えて、みんなで頑張っていきたいです」
そうした勝負へのこだわりが、2月の日本学生ハーフで島田晃希(4年、高田)が帝京大新記録(1時間00分56秒)を樹立したり、3月のACN エキスポ駅伝で駒澤大学や青山学院大学に先着して4位に入ったりといった好結果につながっている。今、チームの雰囲気はすこぶる良い。

「自分はとにかくチームで勝ちたいという思いが強い。みんなにどんどん発破をかけて、先輩や後輩は関係なく、チャレンジできるところはチャレンジさせたいです。最大目標の箱根では、5位を達成するために、自分はどの区間でも行く覚悟を持っています。後輩の負担を少しでも減らせられる走りをしたいです」
頼れる主将が導く帝京大は、今季はひと味違う強さを見せてくれそうだ。
