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最強明治、維新の時(下)基本路線を引き継ぐ池上寿之新監督が吹き込む、新しいカラー

栗田大輔氏から明治大学サッカー部監督のバトンを受け継いだ池上寿之氏(すべて撮影・土屋秋喜)

2019年に大学「五冠」、2024年はリーグ戦無敗優勝と大学サッカー界に多くの金字塔を打ち立て、屈指の強豪として君臨する明治大学サッカー部。その明治大を10年間率い、超強豪にまで押し上げた栗田大輔氏が昨季限りで退任し、新たに池上寿之氏が監督に就任した。池上新監督はどのように明治大の強さを維持するのか。新たな船出となったチームに迫る。

【前編はこちら】最強明治、維新の時(上)超強豪に押し上げた栗田大輔氏、10年間で与えた二つの視点

重要となる小川佳純ヘッドコーチの存在

広島県出身の池上監督は明治大OB。1978年生まれで、栗田前監督の8個下の後輩にあたる。大学卒業後は横河電機株式会社に入社し、横河電機サッカー部(現・横河武蔵野FC)で選手としてのキャリアを歩んだ。その後は2018年から4シーズンにわたって横河武蔵野FCの監督を務めると、2019年にはJFLでチームを4位に導くなど、躍進の原動力に。退任後は不振に陥った古巣を昨年9月から再び監督として率い、チームを残留に導いた。そして今季から母校の監督を務めることとなった。

明治大の監督就任にあたり「栗田さんがあれだけの実績を残して、その後任って落ちるしかないから、それを引き継ぐのは大変なこと」と難しさを実感していたが、「(母校の監督になれることは)名誉のあること。断るという思考にはならなかった」と引き受けた。

「神川さんが練習環境を整え、栗田さんが『プロの養成所ではない』とサッカー面以外でも厳しく育てた。そこは自分も共感している部分で、明治として変えてはいけない部分」と基本路線を変えるつもりはない。その上で「栗田さんと同じことだけをするつもりはない。自分のサッカー観も出していきたい」と池上カラーを吹き込み、新たな明治大を作り上げていくつもりでいる。

明治大の強さの根幹は〝エンジンを大きくする選手育成〟と〝高い基準を持ち続ける文化〟にある。この2点のうち、特に引き継ぐのが難しいのは後者だろう。そこで重要になるのが、新ヘッドコーチ・小川佳純氏の存在だ。明治大出身の小川コーチは大卒2年目の2008年、ドラガン・ストイコビッチ氏率いる名古屋グランパスで11得点11アシストを記録。その後もサガン鳥栖やアルビレックス新潟でプレーし、13シーズンにわたって第一線で戦ってきた。

「推薦で明治に来るような選手はすでに能力が高い。守備で言えば、周りのポジショニングが悪くても1人で守り切るようなパワーがある。ただそれではプロでは通用しなくて、だからこそサッカーの仕組みにつながる当たり前の原則を身に付けさせたい。そこは佳純(小川)も口酸っぱく言っている」と池上監督。トップレベルを身をもって体感してきた小川コーチが示す高い基準をさらに超えることで、選手たちはさらなるスケールアップを遂げる。

小川佳純ヘッドコーチ(左)と池上監督

対策をかいくぐるため、開幕戦で見せた戦術スタイル

そして池上監督が吹き込む明治大の一要素が、新たな戦術スタイルだ。それが表れたのが、4月5日に行われた関東1部リーグの開幕戦だった。

昨年までの明治大は高いインテンシティーを武器に、ショートカウンターやロングボールから得点を狙うスタイルだった。ところが開幕戦で見せたのは、組織化されたビルドアップ。小澤晴樹(3年、RB大宮U-18)と多久島良紀(3年、青森山田)の両CBが高い位置を取り、パス回しからサイドを攻略する戦いを見せた。結果としてはスコアレスドローに終わったものの、チャンスは多く、守備面も昨年までと同じ強度で決定機を作らせなかった。

池上監督はポゼッションにチャレンジした理由について「確実にチャンスを作れる方法を持っておきたい。その引き出しも欲しいというところ」と語る。昨季のインカレは全5試合で2得点と、万全の明治対策を取った相手に攻めあぐねる展開が続いた。近年は他のカップ戦でも辛酸をなめることが多かっただけに、明治対策をかいくぐる攻撃が課題だった。その解が、自分たちのアクションだけでゴールへと迫る、再現性の高いビルドアップからの攻撃だった。

もう一つ、近年の明治大の懸案だったのがコミュニケーション面だった。栗田氏の前任者で明治大を強豪へと押し上げた神川明彦氏は、「上下関係という規律はありながらも、個性を生かし合う風土がある」と、旧寮の16人部屋や8人部屋で育まれた選手間の距離感を良さの一つに挙げていた。しかし、一昨年に移転した新寮は全室が2人部屋。「1年生と4年生なんて、ほとんど話さなくなってしまう」と池上監督も危惧していた。

加えて池上監督と小川コーチも新任。選手間だけでなく、選手とスタッフ間のコミュニケーションも懸案の一つだ。選手間のコミュニケーションは合宿を大部屋にして学年の壁を取り払ったコミュニケーションを促し、選手とスタッフ間は池上監督自身が寮にいる時間を増やすことで、日常からコミュニケーション機会を増やそうとしている。これでどこまで関係性を構築できるか。シーズン後半の山場で、勝負を分けるポイントになりそうだ。

今季主将を務める島野怜

大きな実績を残した栗田氏の後任となった池上監督だが、3月の東京都トーナメント2試合を勝ちきり、2年連続の天皇杯も射程圏内だ。リーグ開幕戦も内容は良く、上々の滑り出しを見せている。池上監督率いる新生明治が、どんな歴史を紡いでいくのか。これからも見続けたい。

明治大学・島野怜主将 "点の取れるボランチ"が受け継ぐ優れたリーダーシップの系譜

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