陸上・駅伝

特集:New Leaders2025

東海大学・花岡寿哉 大舞台を2度逃した悔しさを糧に、全日本と箱根でシード権奪還を

シード返り咲きをめざす東海大の新主将・花岡寿哉(撮影・藤井みさ)

2024年の東海大学は6月の全日本大学駅伝関東地区選考会をトップ通過したものの、10月の箱根駅伝予選会はアクシデントもあり、本戦出場を逃してしまった。今シーズンのチームを引っ張る花岡寿哉(4年、上田西)は、もともと主将を「やりたくない」と考えていたが、箱根予選会を経て「自分が変わるしかない」と心変わりした。

箱根予選会を通過できず「やっぱりか……」

昨年の箱根予選会は東海大にとって、ショッキングな結末だった。

チームで何度もミーティングをした上でレースプランを練り込み、臨んだはずだった。昨年からエースの一角として期待されていた花岡は「あのときは自分自身、調子があまり良くなかった」と打ち明ける。本来であれば、日本人選手全体の先頭集団に加わるべき存在だが、チームの先頭集団で走る形に。前年主将の越陽汰(現・サンベルクス)、南坂柚汰(3年、倉敷)、檜垣蒼(2年、倉敷)、花岡の4人でレースを進める予定だった。

だが、越がスタートから約8kmを走る陸上自衛隊立川駐屯地内で遅れ始め、南坂は前方の先頭集団についていった。花岡は「檜垣にとって初めてのハーフマラソンだったので、とにかく檜垣が最後まで走れるように引っ張らなきゃいけないと思っていました」。ルーキーながらプレッシャーのかかるレースに挑んだ後輩が後ろから見える位置で走り、最後は花岡自身も絞り出した。気温が上がった中でチーム順位トップ、全体23位となる1時間04分でフィニッシュ。陣地へと向かった。

昨年の箱根駅伝予選会では冷静にレースを進め、チームトップでフィニッシュ(撮影・藤井みさ)

500人以上のランナーが出走し、フィニッシュ地点となる国営昭和記念公園には多くのファンや関係者も駆けつけるため、箱根予選会は例年、スマートフォンの電波が悪くなる。チームで最初にフィニッシュした花岡は「情報が人からの言葉でしか伝わってこない状態でした」。チームメートもある程度のメンバーが陣地に帰ってくる中、両角速監督からロホマン・シュモン(4年、市立橘)がフィニッシュ直前で途中棄権となったことを直接聞いた。「え…じゃあその後ろは……」。悪い予感がした。

東海大は予選会で14位に終わった。「正直、落ちているのは何となく分かっていたので『やっぱりか』という感じがありました」と花岡。その約2週間後に控える全日本大学駅伝に向けては「自分にとってはインターハイの件もあったし、これが2回目。もう過去は変えられないので、切り替えるしかない」と思ったそうだ。

10位までに名前を呼ばれず、東海大の陣地付近は重たい空気が流れた(撮影・藤井みさ)

欠場を余儀なくされた高校3年のインターハイ予選

〝2回目〟という言葉を聞いたとき、1回目のことが気になった。インターハイそのものが中止になった高校2年時を指すのか、インターハイ長野県予選への欠場を余儀なくされた高校3年時なのか。花岡は「3年のときです」と教えてくれた。

このときは1500mと5000mの2種目にエントリーしていた。しかし、学校内に新型コロナウイルスの感染者が出た影響で休校となり、インターハイへの出場も取りやめになってしまった。「県予選の前日に移動して泊まって、次の日から大会に出るという流れの中で、前日の刺激を入れた後、顧問の先生から『休校になったので出られません』という連絡が入ったんです」。大会は、現在順天堂大学3年の吉岡大翔(佐久長聖)が二冠。高校時代は「佐久長聖を1人でも食ってやろう」と挑んでいた花岡にとっては、不本意な形でその挑戦が終わった。

初めて全国大会の舞台に立ったのは、高校3年時のU20日本選手権だった。種目は意外にも3000m障害。「インターハイがなくなってしまって、代わりになるものを先生が見つけてきてくれたんです。3000m障害は5000mの標準記録を切っていても出られるみたいで、5000mは出られなかったんですけど……」。約1カ月間、3000m障害に取り組んだが、本番では転倒してしまったと振り返る。

インターハイの長野県予選に出られなかった高3時の悔しさを忘れたことはない(撮影・井上翔太)

3種目で東海大学記録更新を狙う

長野県白馬村出身の花岡は中学時代、平日は部活動で陸上、週末はシニアリーグで野球と、2競技を両立していた。陸上は「県大会で入賞できるかなぐらいの選手でした」。この頃に箱根駅伝を初めて本格的に観戦し、中学3年時には東海大が総合優勝を果たした。「当時の自分は箱根駅伝を一番に見ていました」

高校進学の際は、佐久長聖からも声がかかったが「箱根駅伝で活躍するためには、どうすればいいのか」を基準に、親や中学の顧問と話し合った。佐久長聖で3年間、強力なチームメートとともにきつい練習をするのか、それとも箱根という大きな目標に向けて、少しずつでも段階を踏むのか。至った結論は「上田西でステップアップする」。全国高校駅伝への出場は難しいかもしれない。それでも、花岡は大学での活躍を見据える道を選んだ。

花岡のトラックレースを見ていると、積極的に前方でレースを進める姿が、いつも印象に残る。高校時代から名の知れた選手たちに、自分の力がどこまで通用するのかを試しているようだ。本人によると、「大学1、2年の頃は、知っている選手と同じレースに出られたら『どこまで戦えるんだろう』とチャレンジャー精神で挑んでました」。その上で、大学ラストイヤーを迎える今季は、5000m、10000m、ハーフマラソンの3種目で大学記録更新をめざす。すでに2月の学生ハーフで1時間01分09秒をマークし、一つ目をクリアした。

今年2月の学生ハーフで大学記録の更新を果たした(撮影・藤井みさ)

駅伝シーズンの目標は、まずは全日本と箱根の両方でシード権を獲得すること。花岡にはリーダーシップ面のみならず、競技力でもかかる期待が大きい。そして過去に2度も悔しすぎる思いをしたからこそ、大学ラストイヤーこそは報われてほしい。

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