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立教大学・中川龍之介と小林蹴人 昨年の高校ベストQB・WRの"ホットライン"開通

ルーキーのQB中川龍之介(右)とWR小林蹴人(左)は、早くも立教大攻撃の中心となりつつある(すべて撮影・北川直樹)

2025年4月19日、神戸・王子スタジアム。アメリカンフットボールの春季交流戦、関西学院大学ファイターズと立教大学ラッシャーズの試合は、関学が第1クオーター(Q)に挙げた10点を守り切り、10-0で勝った。スコアだけを見れば、立教の完封負け。しかし、この日の立教サイドで確かな存在感を見せたのが、QB中川龍之介(立教新座)とWR小林蹴人(佼成学園)の1年生コンビだった。

QB中川龍之介はパスを22回投げて12回成功

第1Q、立教が最初の攻撃シリーズに投じたパスを、関学のLB大竹皓陽(4年、啓明学院)がインターセプト。関学は敵陣26yd地点で得た攻撃で、K大西悠太(4年、関西学院)がフィールドゴールを決めて3点を先制した。その後のシリーズ、立教オフェンスがファンブルしたボールを、関学の主将DL前田涼太(4年、箕面自由学園)が押さえ、またも敵陣23ydの好ポジションで関学のオフェンスに。QB星野秀太(4年、足立学園)がWR五十嵐太郎(4年、関西学院)にパスを決めてTD(タッチダウン)となり、10-0とリードを広げた。

次のシリーズから立教は、QBを1年生の中川に交代した。中川はRBにボールを渡すランプレーで慣らしながら、小林ら3人のWRにパスを投げ分け、落ち着いたプレーぶりで攻撃をドライブした。その後は両者とも得点に至らず、10点差のまま試合が終了。関学が今シーズンの開幕戦に勝った。

中川はパスを22回投げて12回決め、計113ydを稼いだ。大学初TD、初勝利はお預けとなったが、WR小林との〝ルーキーホットライン〟の開通は、今後の立教オフェンスにとっては明るい材料となるだろう。

中川はパスだけではなく、オプションプレーでも器用な身のこなしを見せた
小林はU20で絶賛された高いボディーバランスで、関学守備陣と堂々渡り合った

「まずは関東のQBで一番に名前が挙がる選手に」

高校時代から超高校級と評され、多くの強豪大学から熱視線を受けていた中川。当時は立教新座高校の在籍ながら、関学を含むさまざまな有力大学から声がかかっていたという。それでも彼は2023年シーズンの立教大学の快進撃を見て、自らの進路を決めた。

「猪股(賢祐、現・富士通)さんがキャプテンだった年の立教が上り調子で、その時のラッシャーズの雰囲気がすごく楽しく見えたんです。次は自分がその旋風を巻き起こしたいと思いました」

他大からの誘いを断り、立教大に進む道を選んだ。

立教大学・猪股賢祐主将 多くのポジション経験を糧に「自分が勝たせる」土壇場で体現

この日は大学デビュー戦にもかかわらず、落ち着いた判断や持ち味のパス、走力を生かして、試合の流れを引き寄せようと果敢に戦った。

中川は上背があるタイプではないが、クイックなパスと的確な判断でバランスが良い

「はじめはサイドラインから守備のカバーを見てました。大学最初の相手が関学なんで、最初は正直ビビってました。でも観客の盛り上がりがまるでお祭りみたいで、だんだん楽しくなってきて。ディフェンスをしっかり見て、走れるときは走る。自分の得意なことに集中できました」

立教小学校時代から、フラッグフットボールに親しんだ。中学に上がるとオービックのクラブチーム、シーガルズジュニアにも所属。ルーキーらしからぬ落ち着きを見せる中川の背景には、長くフットボールをプレーしてきた経験があるのかもしれない。

同じ1年生のWR小林について聞くと、信頼の厚さがにじみ出た。

「あいつがマンツーマンで負けてるのを見たことがないんです。空いてなくてもタイトなところでキャッチして、そこからランで持っていく。フィールドのどこにいても頼れる存在です」

小林とは高校1年ぐらいから顔見知りで、SNSで連絡を取り合うような仲だったという。昨年までチームは違ったが、お互いをリスペクトし合いながらフットボールに取り組んできた。それが大学で、一緒にパスユニットを組めることに。中川にとって小林は、待望のパスターゲットになった。

ゲーム中は冷静に関学守備をリードし、落ち着いてプレーした

中川は関東の大学アメリカンフットボール界で、絶対的な存在になることを目指している。「まずは関東のQBで一番に名前が挙がる選手になりたいです。それでやっぱ、〝立教旋風〟を僕らで起こしたいですね」。笑顔で目標を語った。

WR小林蹴人「会場を沸かせるプレーをしたい」

小林もまた、高校時代から各大学の注目を集めた逸材だった。名門・佼成学園ではエースWRとして活躍し、全国高校選手権クリスマスボウルでも活躍。昨年夏には高校生ながらU20日本代表にも選出され、森清之GMをはじめとした代表コーチ陣からも高い評価を受けた。無論、多くの強豪大学が彼に興味を示したが、佼成学園の小林孝至監督の助言が、進路決定の後押しになったという。

「高3の夏の終わりくらいに立教に進むことに決めました。自分も関東のチームを盛り上げたくて。実は、高校3年の夏の終わりに監督から『中川と同じチームでプレーした方がいい』と強く勧められたんです。当時は中川が明治大学に進学するといううわさもあり、『明治にセットで』という話もあったみたいですが。最終的に中川が立教を選んだことを聞いて、自分の進路も自然と決まりました。監督と相談を重ねる中で、龍之介と一緒にやった方が絶対にいいという確信が深まり、他の大学とは迷いませんでした」

巧みなルート取りでフリーになる勝負強さを見せた小林

小林自身は立教に対して特別な憧れがあったわけではない。だが、中川への純粋な信頼が大きな動機となって、指定校推薦で立教進学を決めた。

大学入学前の3月初旬にはすでに立教の練習に参加し、早期からチームになじむよう取り組んだ。開幕となった関学戦のスタメン出場は、コーチから1週間前に告げられた。「関学はフィジカルがとても強かったけど、パスキャッチなら負けてなかったと思う。もっと(パスを)捕りたかったですね」

試合では2キャッチを記録。対峙(たいじ)した関学のDB東耕嘉彦(2年、関西学院)、DB城島壮汰(2年、啓明学院)、そして代表チームで一緒だったDB東田隆太郎(4年、関西学院)らのマッチアップにも臆することなく、フィールド上で自らの存在を証明した。

キャッチ後に進路がふさがれると見るや、守備の上を跳び10ydゲイン

「最後の方はバテてしまって。足がつってアウトしちゃいました。走り込みが足りないと痛感しています。夏はそこを強化したいです」

中川との連携については「球の質が良くて取りやすい。クイックパスが速いので、自分もランアフターで運べます」と明かす。中川のパスは、高校1年生のときに佼成学園でユニットを組んだQB小林伸光(現・日本大学3年)と感触が似ていて、相性の良さを感じているという。互いの呼吸はすでに合っているようだ。

自身の将来像は明確だ。

「将来的には誰もやったことのないようなプレーで会場を沸かせて、日本のアメフト界を盛り上げたい。自分が龍之介の第1ターゲットになって、ロングパスで試合をひっくり返すようなビッグプレーがしたいです」

その言葉と表情は、言葉の大きさとは裏腹に純粋そのものだった。

2人が中心になって起こす〝立教旋風〟

2人はあらゆるカードの中から立教を選び、待望のパスユニットとして歩み始めた。共通するのは、自分たちのプレーで立教を強くしたいという強い意志だ。

中川が語った「自分たちで立教旋風を巻き起こす」という決意。小林が目指す「誰も見たことのないプレーで日本を沸かせる」という挑戦。昨年、高校最高とも称されたQBとWRのタッグは、大学の舞台でも確かに光を放ち始めている。

2人はチームメートになって数週間とは思えないツーカーぶりだ

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