「マジでうれしい」駒澤大・伊藤蒼唯が学生個人10000mV　最終学年で見せる成長

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4月25日の日本学生個人選手権1日目、最終種目となった男子10000mで、駒澤大学の伊藤蒼唯（4年、出雲工業）が28分53秒75で優勝した。大学では1年時の箱根駅伝6区区間賞以来となるタイトルに、ゴール後は何度も雄たけびを上げて笑顔で喜びを表現した。

冷静に集団前方で走り、ラストスパートで勝ち切る

今大会は7月16日から27日にドイツのライン・ルールで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズの代表選考競技会に設定されていた。レースには伊藤をはじめ、同じ駒澤大からは桑田駿介（2年、倉敷）と帰山侑大（4年、樹徳）、國學院大學の野中恒亨（3年、浜松工業）、創価大の小池莉希（3年、佐久長聖）など各校の実力者がエントリー。13人でレースはスタートした。

序盤は小池が集団を引っ張り、次いで伊藤、2000m手前からは筑波大学の金子祐太朗（4年、横浜翠嵐）が先頭へ。1000mのラップタイムは2分47秒、2分52秒、2分55秒と推移し、3000mから4000mは3分08秒まで落ちた。5000m手前からはまた小池が先頭に立ち、2分59秒、2分51秒とペースを戻して進んだ。伊藤は先頭が変わる中でも常に集団の前方のポジションを取り続けた。スタンドの藤田敦史監督からは「ついていけばいいからね」との声も飛んだ。

8000mあたりで再び小池、中央大学の岡田開成（2年、洛南）、野中、桑田が伊藤の前へ。残り3周のところで伊藤は先頭に立つが、残り2周で桑田がふたたび先頭に立った。めまぐるしく先頭が入れ替わる中、伊藤は残り500mの直線でふたたび先頭に。ラスト1周の鐘とともにスパートをかけ、必死に追いつこうとする野中を振り切り、両手で「1」のポーズを作ってゴールした。ゴール後も「っしゃあ！」と雄たけびを上げ、手をたたいて喜びを表した。

ラストに不安も「ちょっとホッとしてます」

同級生の帰山、後輩の桑田とねぎらいあい、「ようやく勝てた！」と大きな声で口にした伊藤。「マジででうれしいです。自分の持っているタイトルは箱根の1年生のときの区間賞だけなので、こうやって久しぶりにインタビューも受けることができて、あとはラストスパートでしっかり勝ち切ることができたので、自信になりました」とうれしさを隠しきれない顔で答えた。

ワールドユニバーシティゲームズの選考となっているこのレース。ハーフマラソンの選考レースとなった2月の丸亀ハーフマラソンでは、駒澤勢が代表権を確実にできなかった。今回駒澤として3人が出場し、その中で一番が取れたことへの喜びも口にした。

いろいろとレースプランを考えていたとはいうが、レースが比較的スローペースで進んだため、700mあたりから仕掛けようという大まかなイメージを持っていた。「レースの流れにうまく身を委ねて進めようかなとは思っていたので、それがしっかりハマった結果優勝できたかなと思いました」という。

先頭が入れ替わっても、「最後に先着されたら意味がない」と考え、しっかり周りを気にする余裕もあった。出場している選手のタイプを見ると、ラストのスプリントというよりはロングスパートで勝ち切る選手が多かったため、それを警戒しつつ常に背中を見ながら走っていた。

結果的に残り1周からのスパートで勝負を決めた伊藤だが、「ラストに自信があるかって言われたら、そこまでないので」と意外なことを言う。「ラストまでもつれたら勝ち切るのに不安はあったんですけど、やってみたら意外と動いたので、ちょっとホッとしてます」

トップレベルの環境で、実力も意識も成長

昨年の春シーズン、伊藤は絶不調ともいえるコンディションだった。関東インカレ2部10000mにも出場したが、周回遅れになり29位。彼の実力からしたら予想できない結果だった。そのことについて聞かれると、「去年は練習の中で常に余裕を持ち続けながらやっていたので、ラストの絞り出しだったり、ハイペースで動いたりしたときの対応の仕方がうまく体に染み付いていなくて、ちょっと噛（か）み合わない部分はありました」と明かす。

新チームになったタイミングから、大八木弘明総監督が率いるGgoatで練習をするようになった伊藤。今月12日の日本選手権10000mで優勝した鈴木芽吹（トヨタ自動車）をはじめ、田澤廉（トヨタ自動車）、篠原倖太朗（富士通）、佐藤圭汰（4年、洛南）ら日本トップクラスの選手を間近で見ながら練習する環境で、意識もレベルアップした。内容的にも追い込んで練習をし、スピードを上げる練習もしたことで、根本のスピードがついてきたとともに、今日のようなスローペースの展開にも生かされたと感じているという。

今年が大学最終学年となる。「僕らの学年が駅伝に関してはかなり本数を走ってきているので、引っ張っていかなければいけないというのは当然ですし、自分たちもそのつもりでシーズンに入ってからやっているので。昨年に比べて1年生も元気よくレースに出て練習もやってくれるので、今のところうまく進んでいるかなと思います」

チームは、山川拓馬（4年、上伊那農業）がキャプテンとなりチームの先頭に立っている。山川はどんなキャプテンか？　と問われると「外から見たらほわほわしている感じだと思いますが、チームのことをしっかり見てくれますし、キャプテンの責任感というのはこの前の箱根駅伝が始まる前から出てきていました。それが今回チームをまとめていく上で出ているので、すごくいいキャプテンだと思います」と話す。

伊藤自身は4年生としてなにか変わったことはあるか、とたずねると、練習面を俯瞰（ふかん）で見て、自分より設定を下げてやっている後輩たちの練習の結果や動きを見て「こうしたらいいよ」というアドバイスをたまにするという。「でも僕はやっぱり背中で見せるという方が性に合っていると思うので、そういった面から4年生らしさを出していきたいとは思っています」

チームは三冠、個人は区間賞を

昨年度は学生3大駅伝ですべて2位だった駒澤大。今シーズンはあらためて三冠を目標に掲げている。「そのためには自分たちの学年が中心となって、しっかりその目標に近づいて達成していきたいです」。個人としては全日本大学駅伝、箱根駅伝、3月のACN エキスポ駅伝で区間2位が続いたことに触れ「今日みたいにしっかり勝ち切るレースをしたいし、区間賞はほしいと思います」とチームでも個人でも1番をしっかり狙っていく。

このあとは5月のゴールデンゲームズinのべおか5000mで、日本選手権の標準記録である13分30秒切りも狙うつもりだ。今回の結果でワールドユニバーシティゲームズの代表に選ばれることが濃厚だが、出場した折にはもちろん優勝を狙うと宣言。日本代表としてはもちろん、駒澤の代表としてその名に恥じないレースをしたいと力強く語る。

「引き続き今日の結果に満足せずに、一つひとつレースをしっかりこなしていきたいと思っています」。そう話す伊藤からは、結果を出したことへの自信と成長が感じられた。ふたたびの三冠を目指すチームから、大きな存在感を示した伊藤の今後も楽しみだ。