陸上・駅伝

特集:2025日本学生陸上競技個人選手権大会

國學院大・野中恒亨 10000m2位にも悔しさ隠さず、ドイツは雪辱を果たす舞台に

主力としての自覚も芽生えてきた國學院大の野中恒亨(すべて撮影・藤井みさ)

2025日本学生陸上競技個人選手権大会 男子10000m決勝

4月25日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)

優勝 伊藤蒼唯(駒澤大4年)28分53秒75
2位 野中恒亨(國學院大3年)28分57秒65
3位 石丸惇那(創価大4年)28分59秒05
4位 山崎丞(日本体育大4年)29分00秒16[29分00秒157]
5位 小池莉希(創価大3年)29分00秒16[29分00秒160]
6位 岡田開成(中央大2年)29分01秒01
7位 桑田駿介(駒澤大2年)29分01秒54
8位 吉岡大翔(順天堂大3年)29分02秒14

2025日本学生陸上競技個人選手権初日の4月25日、7月のFISUワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ、以下ユニバ)日本代表選考競技会として開催された男子10000mで、國學院大學の野中恒亨(3年、浜松工業)が28分57秒65をマークして2位に入った。ただ、レース後の本人に笑顔はなく「率直にすごく悔しいです」と言葉を絞り出した。

駒澤大学・伊藤蒼唯を「完全にマーク」

レースには13選手が出場し、持ちタイムのトップは早稲田大学の山口智規(4年、学法石川)で27分52秒37。昨年度の学生3大駅伝を沸かせたチームでは野中のほか、駒澤大学勢から伊藤蒼唯(4年、出雲工業)、帰山侑大(4年、樹徳)、桑田駿介(2年、倉敷)の3選手。創価大学からは小池莉希(3年、佐久長聖)と石丸惇那(4年、出水中央)がスタートラインに立った。

駅伝シーズンでライバルとなるチームも多い中、優勝をめざした

小池が引っ張る形で最初の1000mを2分47秒で通過したが、2000mに向かうところで小池が給水を取りに行くと、いったんペースが落ち着いた。2000m付近で筑波大学の金子佑太朗(4年、横浜翠嵐)が集団を引き、2000~3000mにかけては2分55秒。次の1000mは3分08秒かかり、ペースのアップダウンがあった。

野中は序盤から3番手あたりでレースを進め、伊藤の背後にピタリと付いていた。「伊藤蒼唯さんが強いというのは分かっていたので、完全にマークしていました。自分は8000mまで冷静にペースを変動させることなく進めて、残り2000mのところで勝負を仕掛けにいかなきゃいけないと思っていました」

湿度が高く、全体的にスローペースとなり、8000mを過ぎても先頭集団は10人のままだった。ラストスパートの切れ味が勝負を決める流れとなる中、まずは伊藤が残り2周を切ったところのバックストレートで前へ。野中は残り600mから仕掛けたが、残り1周の鐘が鳴ったところで伊藤がさらに加速。野中は4秒及ばず、ゴール後はトラックに両手をついてうなだれた。

レースでは駒澤大学の伊藤蒼唯を完全マーク、様子をうかがう場面も

言葉の端々から伝わってくる主力の自覚

勝負した上での2位という結果は十分に誇れそうなものだが、レース後の本人は納得していなかった。「自分の中で決めていたことはやれました。でも、そこで勝ちきれていない。こんな力の出し方じゃ、うちのチームにとって特に箱根駅伝ではまったく戦えない。一番負けちゃいけない相手に負けたので、すごく悔しいです」

昨年度の駅伝シーズン、國學院大は出雲で2度目の優勝、全日本は初優勝と輝かしい成績を収めた。野中自身も出雲は4区で、全日本は5区で区間賞を獲得し、飛躍のシーズンとなった。しかし三つ目の箱根駅伝は青山学院大学、駒澤大学に続く3位。チームには二つの栄冠よりも、箱根路で味わった悔しさの方が、心に残っている。箱根後は帰省期間を例年より後ろにずらし、長い距離への対応力を強化。その成果の一つが、2月の日本学生ハーフマラソン選手権で見せた〝60分台4人〟の好成績だった。

上原琉翔をはじめ、國學院勢は4人が学生ハーフ60分台「他の大学にプレッシャーを」
残り1周に差し掛かったところで伊藤が加速。野中もついていった

学生ハーフで1時間00分54秒を出し、4人のうちの一人だった野中は、今大会に向けて「学生ハーフで上原さん(琉翔、4年、北山)が3位でユニバを確実に決めたので、自分も決めてきます」と宣言していたと言う。2位でもユニバの代表選手に選ばれる可能性は高いが、駅伝シーズンでもライバルとなるチームの選手たちと競うのなら、1位になって代表を確実にしたいという思いがあった。

この日に感じた伊藤との差について尋ねると、「蒼唯さんはずっと前の方で、レースの状態をコントロールしていました。自分は蒼唯さんの手のひらの上で、レースをさせられていた部分があります。途中にあったペースの上げ下げも、自分より楽にスピードを出している。完全に力不足で負けたなと思っています」と答えた。駅伝では昨年度まで、つなぎの区間で力を発揮してチームに貢献してきた印象があるが、平林清澄(現・ロジスティード)や山本歩夢(現・旭化成)が卒業した影響もあるのだろう。その言葉からは、主力としての自覚が伝わってきた。

レース後にお互いをたたえ合ったが、野中に笑顔はなかった

後輩たちにも「勝ちに行く、強い」姿勢を見せる

野中は前田康弘監督からも「中核を担う選手にならないといけない」と言われていると明かす。「上級生になるので、後輩たちにも『勝ちに行く』『強い』というところを見せていく選手にならないといけないと思っています」。勝ちに行く姿勢は、この日のレースでも見せた。あとは勝ちきるだけだ。

その後輩たちは、時を同じくして浅野結太(2年、鹿島学園)、飯國新太(2年、國學院久我山)、尾熊迅斗(2年、東京実業)の3選手が「ADIZERO ROAD TO RECORDS 2025」の男子5kmに出走するため、アディダス本社があるドイツにいた。野中自身は昨年、同じレースを経験して17位に終わった。「世界とのレベルの差をすごく感じて、悔しい思いをしました。もしユニバに出るとなれば、また世界トップレベルの選手と戦って、チームにとっても大きな経験値となるレースがしたい」

野中にとってユニバは、昨年の雪辱を果たす舞台でもある。

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