陸上・駅伝

特集:2025日本学生陸上競技個人選手権大会

日体大・伊藤楓が大会記録で女子走り高跳び優勝 高校の先輩・高橋渚の背中を追って

大会記録で女子走り高跳び「日本一」となった日体大の伊藤楓(すべて撮影・藤井みさ)

2025日本学生陸上競技個人選手権大会 女子走り高跳び決勝

4月26日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)

優勝 伊藤楓(日本体育大4年)1m81=大会タイ記録
2位 矢野夏希(早稲田大3年)1m75
3位 森﨑優希(日本女子体育大2年)1m70
3位 川邊美奈(順天堂大4年)1m70
5位 小林美月(筑波大4年)1m70
5位 谷口愛弥子(筑波大2年)1m70
7位 青木萌佳(立教大1年)1m70
8位 田村茉優(立教大4年)1m65

2025日本学生陸上競技個人選手権2日目の4月26日、女子走り高跳びで大会記録が生まれた。日本体育大学の伊藤楓(4年、東京)が自己ベストを更新する1m81を成功させ、過去に2選手が打ち立てた記録に並んだ。

3度目で1m81をクリアし、自己ベスト更新

競技には13選手が出場し、バーの高さは1m65からのスタート。伊藤は1m65と続く1m70をいずれも1度目でクリアし、1m75は2度目で成功させた。この高さに挑んだ選手たちの跳躍が終わった時点で、残ったのは2人。昨年の日本インカレを制した早稲田大学・矢野夏希(3年、時習館)との一騎打ちになった。矢野は1m75を1度目で成功させており、伊藤が優勝するためには、何としても次の1m78を跳ばなければならなかった。

伊藤が1m78を1度目でクリアしたのに対し、矢野は3度とも失敗。伊藤の優勝が決まり、あとは記録への挑戦になった。

跳躍前の伊藤。1m78を1度目で成功させ、優勝を決めた

次の高さは1m81。1m80が自己ベストの伊藤は、2度目まで失敗が続いた。「今大会は『助走をちゃんとやろう』と意識していたところだったのですが、1本目と2本目の跳躍は力が入ってしまいました。3本目は『バーは最初のような低い高さ』という意識でした」。助走に入るところで力んでしまうと、伊藤が大事にしているカーブを走るところや踏み切りがうまくいかなくなってしまう。何かを修正して動きを変えたというよりは、基本にもう一度立ち返った結果、3度目の跳躍でバーを越えた。

成功直後は自己ベスト更新の喜び以上に、安堵(あんど)感が心の中に広がったと振り返る。「今回はワールドユニバーシティゲームズの代表派遣標準記録が1m84だったので、まず『その記録にチャレンジできる』って」。世界の舞台に足を踏み入れるべく、挑んだ1m84は3度とも失敗。「初めてチャレンジした割に『いけそうだな』という感覚があったので、悔しい気持ちが大きいです。もっとできるという実感が湧いた跳躍もあったので、頑張りたいです」

FISUワールドユニバーシティゲームズ派遣標準記録の1m84に挑んだ

苦しんだ昨シーズン、冬季練習で基礎から見直した

伊藤は1年時、5月の関東インカレで、唯一1m77を成功させて頂点をつかんだ。学生個人は今回が2年時以来となる2年ぶりの優勝。だが、その後はタイトルに恵まれず、記録が1m65で終わった2年時の日本インカレ後は、苦しい時期を過ごしたと振り返る。

「自分としては頑張っていて、調整もちゃんと合わせているのに、記録につながらない。何かもがいているような感じで、『やりたいのにできない』という意味ですごく苦しいシーズンでした」

昨シーズンは思うようにいかないことが多く、苦しんだと振り返る

特に2年時の冬季練習は思うようにいかないことが多すぎて、心が折れかけたこともあったと言う。「やりたい動きもできないし、足も遅いし……。そこから練習への意欲も、なかったわけではないんですけど、モチベーションが下がってしまって、そのまま3年目のシーズンになってしまったので、うまくいかなかったです」。昨シーズンは関東インカレ、学生個人、日本インカレのすべてで記録は1m70だった。

このままではいけないと、シーズン前の冬季練習では基礎から見直した。支えになってくれたのは、一緒に練習してくれる同期たちだ。「私の周りには、すごく意欲の高い選手たちしかいなくて、その子たちが『一緒に走ろう』とか、出された練習メニュー以外のところで『補強しよう』と言ってくれたり、気持ちが落ちたときには声をかけてくれたりしたんです。ずっと一緒にやるからこその絆が生まれたというか、お互いに高め合うことができました」と感謝の念は尽きない。

仲間に支えられ、再び学生トップの位置まで戻ってくることができた

関東インカレ・日本インカレとの「三冠」めざす

大学ラストイヤーのシーズンで幸先の良い結果を残し、今後は5月の関東インカレと6月の日本インカレを合わせた「三冠」をめざす。「記録としては着実に1m80後半まで上げていきたいです」と伊藤。高校の先輩には日本選手権を3連覇中で、2月にはチェコでの室内競技会で1m92を跳んだ高橋渚(現・センコー)がいる。「近くで練習をさせていただくことも何度かあって、すごく刺激をいただいています。自分もそういうところで戦いたいという原動力にもなっています」

今はまだ、その背中を追っている段階だろう。ただ、伊藤が目標とする「1m80後半」の域にたどり着いた際には、国内第一人者と競い合える存在になる。

1m80台の後半を跳べば、「三冠」も現実味を帯びてくる

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