早稲田大・佐々木哲が個人選手権3000mSC優勝 スーパールーキーが見すえる世界

2025日本学生陸上競技個人選手権大会 男子3000mSC決勝
4月27日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)
優勝 佐々木哲(早稲田大1年)8分36秒30=大会新
2位 黒木陽向(創価大4年)8分38秒19=大会新
3位 柴田大地(中央大3年)8分43秒03
4位 永原颯磨(順天堂大2年)8分46秒16
5位 小林周太郎(明治大3年)9分02秒89
6位 緒方快(関東学院大4年)9分05秒74
7位 本間創(青山学院大3年)9分09秒11
8位 尾島樹(上武大2年)9分44秒85
4月27日に行われた学生個人選手権最終日の男子3000mSCで、早稲田大学ルーキーの佐々木哲(1年、佐久長聖)が8分36秒30の大会新記録で優勝した。5月に韓国・クミで行われるアジア選手権への出場も決まっている新星が、実力を発揮する形となった。
「なんとしても1位を」タイムより順位
佐々木は佐久長聖高校時代にインターハイ3000mSCで優勝。8分37秒23の記録は高校歴代2位だった。昨年12月の全国高校駅伝(都大路)では3区を走り、区間賞を獲得。今年1月の全国男子駅伝では5区の区間記録を塗り替えた。世代トップのランナーとして早稲田大に入学し、4月12日の金栗記念3000mSCでも実力ある実業団選手とともに走り、8分29秒05のU20日本歴代2位の記録を出したばかりだった。
レースがスタートすると、佐々木の高校の先輩である順天堂大学の永原颯磨(2年)が積極的に先頭を引っ張る展開に。1000mを2分53秒で通過すると、3回目の水濠を跳んだタイミングで佐々木が前へ。佐々木を先頭に創価大学の黒木陽向(4年、九州学院)、中央大学の柴田大地(3年、洛南)、永原の4人が縦長となり、レースが進んだ。

1000mから2000mのタイムは2分56秒と少しペースダウン。残り2周で佐々木についているのは黒木のみとなり、ラスト1周の鐘が鳴る手前から佐々木がペースアップ。そのままスパートを緩めることなく、「1」のポーズを掲げてゴールした。
7月16日から27日にドイツのライン・ルールで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズの選考も兼ねていた今大会。レース後、佐々木はタイムというよりは順位を狙い「なんとしても1位を取る」という気持ちで臨んだと明かした。
1000mを過ぎて先頭に出たことについて問われると、「レースの中で『何メートルで出よう』というプランはなかったんですが、自分が出られるところで出ようという気持ちでいました。(先頭に出たときは)自分の中で『出よう』という気持ちに踏ん切りがついたと思うので、そこでしっかり出て、先頭を守れて走れたというのは、自分の感覚としても合っていたと思います」と振り返った。また、先頭に出てからは集団ではなくほぼ単独走の形になったことにも触れ、「単独走としての力がついてきたのかなと思います」と自信をのぞかせた。

早稲田の一員として、プライドを持って走る
金栗記念からわずか2週間。最初の1週間は地道に距離を踏んで土台作りをし、あとの1週間は距離を落としつつ、ポイント練習の中で障害も取り入れながらの実践的な練習をしてここに臨んだ。花田勝彦監督からも今回のレースは順位が重要、スローペースが予想されるという話をされた。
「ラスト400mから切り替えるのではなく、ラスト700mぐらいから1回出て、もう1回400mで出る二段階スパートを、というお話もありました。最後の切り替えはまだまだだったかなと思いますが、イメージとしては話した通りにはできたかなと思います」
今年大学に入学したばかりの佐々木。高校と大学で、自らの気持ちが変わったことはあるかと聞いてみると、「ステージが上がって、早稲田大学に入って、高校とは規模も違うし注目のされ方も違うなと感じました。早稲田大学の選手として走れる、ある種のプライドのようなものを大学に入ってからすごく感じている部分はあります」と、すでに早稲田の一員としての責任感を強く持っていることを感じさせた。

25日にはアジア選手権への出場が決定した。シニアのカテゴリで初めての国際大会となることについて聞かれると「やっぱりそういった大会に出るだけの選手にならなきゃいけないと思うので。大学のカテゴリーで満足するというよりは、もっと上の舞台も見てやっていかなければいけないと思っています。(今回のレースも)本当に大事なレースではあるんですが、だからこそここでは負けてはいけないという気持ちで走りました」と意識の高さをうかがわせた。
アジア選手権出場が決まったことで、5月上旬には関東インカレ、その次の週にはセイコーゴールデングランプリ、さらに月末のアジア選手権と3つの大会に出場することになった。連戦となることにも佐々木は前向きに捉えている。
「試合も練習の一環というか、もちろん結果を出していかなければいけないレースもあるんですが……やっぱり立て続けにレースがある中で、修正と反省を繰り返しながらやっていける部分があると思います。1回1回で100%、120%を目指すんじゃなく、目的を持ってステップアップしていけるようになればいいと思います」
高みを目指しつつも、しっかりと土台作りを
現状の佐々木の自己ベストは、金栗記念の時にマークした8分29秒05。だが、この記録にも佐々木は満足していない。前日にダイヤモンドリーグ・厦門大会で三浦龍司(SUBARU)が8分10秒11でシーズンインし、東京世界陸上の参加標準記録を突破したことにも触れ「世界でトップを争うだけの選手っていうのは、やっぱりそれだけのレベルにいるので、自分がこの段階では満足してはいけないなと思います。三浦選手は大学1年目から(8分)10秒台を出されていたので、そこも目指していかないとあれだけの舞台に立てないと思うので、現状に満足することなくやっていかなければいけないと思います」。
タイムも含め、自分はまだ足元にも及ばない。スピードもハードリングもラストスパートのキレも、勝てる部分は一つもなく「めちゃめちゃすごい先輩」だと思っているが、「本当に負けてられないなという気持ちを持って、これからはやっていきたいと思います」と高みを見すえる。

高校時代のように、佐々木は駅伝での活躍も期待される。本人は駅伝についてどう考えているのだろうか。
「今は本当にトラックシーズンに打ち込む期間ですので、その結果を踏まえての話し合いになると思うんですけど、7月の日本選手権が終わって切り替えていけるようであれば駅伝に向かっていきますし、世界陸上(への出場)を決められるようであればそこまで全力で走って、駅伝もできる限りの力で調整していって、チームに貢献できるように頑張りたいと思います」
高みを目指す佐々木だが、「東京世界陸上一辺倒にはならない」とも口にする。「やっぱり(大学)1年目ですのであまり欲張りすぎずに、目標として世界陸上はあるんですけど、何があっても狙いにいくというよりは、自分の中で余力を残しながら、土台を大事にして今シーズンはやっていきたいと思います」
高い実力を持ちながら、冷静に自らの立ち位置を見ている佐々木。個人としても、早稲田の戦力としても彼の活躍に注目だ。
