陸上・駅伝

特集:2025日本学生陸上競技個人選手権大会

京産大・壹岐元太が男子200mV、姉のいちこ・あいこに「ちょっとだけ追いつけた」

学生個人男子200mを制した京都産業大学の壹岐元太(撮影・井上翔太)

2025日本学生陸上競技個人選手権大会 男子200m決勝(+1.2m)

4月27日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)

優勝 壹岐元太(京都産業大4年)20秒65
2位 植松康太(中央大2年)20秒81
3位 木村峻也(日本大3年)20秒85
4位 打田快生(順天堂大3年)20秒88
5位 横山大空(中京大4年)21秒01
6位 田中統也(岡山商科大院1年)21秒02
7位 エケジュニア瑠音(中央大3年)21秒09
8位 川津靖生(明治大3年)21秒23

4月28日にあった2025日本学生陸上競技個人選手権の男子200m決勝で、京都産業大学の壹岐元太(4年、石部)が自己ベスト更新となる20秒65(+1.2m)をマークして優勝。7月にドイツで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)の日本代表派遣標準記録を突破した。国内の陸上短距離界で有名な「壹岐姉妹」の弟。「これでちょっとだけ追いつけたかな」とはにかんだ。

ウェートトレーニングを増やし、磨かれたスプリント力

前日の予選を組1着となる20秒82(+1.6m)で突破し、28日午前に行われた準決勝も20秒73(+3.2m)の組1着で決勝に進出。特に準決勝は自己ベストまであと0.03秒に迫る好走だったが、本人によると、強い追い風に押されて足をうまく回せなかったと振り返る。「悪くもないし、良くもないという感じでした」。その口ぶりから、コンディションが整えば、決勝は自己ベスト更新も十分にあるだろうと見ていた。

準決勝は持ち味の後半に課題を残した(撮影・藤井みさ)

迎えた決勝。壹岐は準決勝で全体トップのタイムを出した順天堂大学の打田快生(3年、皇學館)や日本大学の木村峻也(3年、新潟産大附)、中央大学の植松康太(2年、長崎南)を警戒していた。「年下なんで、負けられないです」。スタート直後のカーブでは1レーン内側を走る打田に迫られたが、直線に入ったところから伸びのある走りを見せ、1着でゴール。レース直後は「やっと(自己ベストが)出た!」と喜びを口にし、一緒に走ったスプリンターたちと握手を交わした。

300mで国民スポーツ大会などのレースに出たり、関西インカレで4×400mリレーのメンバーに選ばれたりしている壹岐は、その距離が示している通り、後半の走りを得意としている。この冬は「学生個人で優勝する」ことを目標に掲げ、走り込みやウェートトレーニングの量を増やしたところ、結果的にスプリント力が磨かれて、今年に入ってからスタートが良くなったと言う。「ウェートは週に3、4回とか、多い時は6回やっていました。体重も去年のシーズンより5kgは増えました」。100mでも今年3月に10秒51(+1.6m)の自己ベストを出したばかりだ。

優勝と自己ベスト更新を知ると、胸をたたいて喜びを表した(撮影・井上翔太)

2人の姉より「すごい」と言われたい気持ちが原動力に

壹岐が陸上を始めたきっかけは、6歳上のいちこ(現・ユティック)と3歳上のあいこ(現・大阪ガス)の影響が大きい。「姉がめっちゃ速かったんで『自分も速いんちゃう?』と思ってました」。しかし現実は甘くなく、中学時代は100mのタイムが12秒台。高校3年時は近畿高校総体男子200mの準決勝を突破できなかった。

インターハイに出場した経験はないが、地元では足が速い方だったから「壹岐家の血やな」「壹岐の弟やもんな」と言われることが多かった。本人にとって、それは悔しい面もあったと振り返る。「こっちがいくら頑張っても、そう言われてしまうところはあります。言うのはいいんですけど、こっちも頑張っているということは知ってほしいなと思います」

レース後、一緒に決勝を戦った選手たちと握手を交わしてたたえ合う(撮影・井上翔太)

2人の姉に少しでも追いつきたい。何ならちょっと追い越してみたい。周りから「あいことかより、すごいんか」って言われたい気持ちが、壹岐の原動力になっている。どんな実績を残したら「並んだ、超えた」と思えるのか、と尋ねると、ユニバの舞台に立つことも一つだと教えてくれた。いちこは2019年に横浜で開催された世界リレーのメンバー、あいこは2021年の東京オリンピック女子4×100mリレーの補欠メンバーに選ばれている。カテゴリーはさておき、自分も日本代表として世界の舞台で戦うメンバーに選ばれたら、少しは近づけたと思える。今回の学生個人優勝で、そこに向けて大きく近づいた。

いつもこういう状況で戦う姉は、偉大な存在

普段からきょうだい間は仲が良く、昨年の「みんなでつなごうリレーフェスティバル」家族リレーには、長男も含めた4人で出場した。あまり陸上談議はせず「優しくて気を使ってくれる姉です。前までは『すごすぎ!』って感じだったんですけど、自分もこの場に立つと『いつもこういう状況で戦っている姉って、偉大な存在だな』と感じます」と壹岐は言う。

京都産業大に入学したときは、自分が日本一を取る姿を想像できなかった。ところが寮で暮らすようになり、近くにウェートトレーニングルームがあったり、すぐに栄養補給や休養が取れたりするなど、恵まれた環境も後押しとなって、自身の成長につながっている。競技に取り組み意識も変化が芽生え、「適当にやってた前までの自分にちょっと怒りたいぐらいです」。

大学でタイムがぐんぐんと伸び急成長、これからの活躍にも期待だ

今後の目標は、6月の日本インカレ優勝と7月の日本選手権で表彰台に上がること。今の勢いなら、どちらも決して夢物語ではない。

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