陸上・駅伝

特集:2025日本学生陸上競技個人選手権大会

順大・阿部竜希が110mHで世界陸上標準突破「夢」から「出なきゃいけない」舞台に

順大が誇る大型ハードラー・阿部竜希(すべて撮影・藤井みさ)

2025日本学生陸上競技個人選手権大会 阿部竜希のレース内容

@レモンガススタジアム平塚(神奈川)

▽4月25日
男子110mハードル予選(-0.7m)13秒88
男子110mハードル準決勝(+0.7m)13秒26=大会新

▽4月26日
男子110mハードル決勝(+1.3m)13秒30

4月25~27日に開催された2025日本学生陸上競技個人選手権の男子110mハードルで、順天堂大学の阿部竜希(4年、八千代)が優勝を果たした。中でも準決勝では13秒26(+0.7m)をマークして大会記録を更新するとともに、9月に東京・国立競技場で開催される世界選手権の参加標準記録(13秒27)も突破した。

「まさか(13秒)26が出るとは」

25日の準決勝。「On your marks」の声がかかると、スターティングブロックの前で何度かジャンプをして深呼吸。阿部が集中モードに入った。スタートして7歩目で迎えた1台目から3台目までは「浮いてしまった」と振り返る。「予選は逆にスピードを出し過ぎちゃってぶつけたんで、(山崎一彦)先生から『スタートはもうちょいリラックスしていきな』と言ってもらいました」

準決勝はリラックスしてスタートし、後半の伸びにつながった

アドバイスを実践した分、序盤のハードリングで浮いた感覚はあったが、ハードルに足を当てなかったからこそ、後半に伸びた。最後は流し気味にゴールし、速報タイムは13秒27。正式タイムが13秒26と表示されると「っしゃ!」と叫び、一緒に走った他校の選手たちと笑顔で握手を交わした。

「今大会は自分の中で『13秒3台で優勝できれば』と想定していたので、『まさか26が出るとは』というのが、正直な感想です。感覚的には『もっと行ける』というのがあるので、(13秒)1台や0台を目標にしていきたいと思います」

余裕を持ってゴールし「まさか26が出るとは」

「東京!」と叫びながら取り組んだ、きつい練習

オリンピック2大会連続出場中の泉谷駿介(住友電工)、昨夏のパリ・オリンピック5位入賞の村竹ラシッド(JAL)と続く「順大110mハードル」の系譜を受け継ぐ存在の阿部。大学3年目の昨シーズンは6月の布施スプリントで13秒35と自己ベストを更新し、7月のオールスターナイト陸上で13秒32、10月の国民スポーツ大会で13秒29と順調にタイムを縮めてきていた。

「去年から(13秒)27を目標にやってきていて、そのときは『高い壁だな』と思っていました。ただ、今年はドイツ(FISUワールドユニバーシティゲームズの開催地)と東京(世界選手権)に出る気満々なので、バカみたいな話なんですけど、冬は腹筋とかセット走できつい練習をするときに『東京!東京!』と叫びながらやってました」。昨年は「夢の舞台」だった東京は、今年「出なきゃいけない舞台」に変わった。「タイムを切れたことで現実味は出ましたが、ここで全然満足はしていないです」

世界選手権の参加標準記録突破を確認すると、力強く拳を握った

5歩ハードルで技術身につけ、ジャンプドリルが踏み切りの強化に

阿部の持ち味は大柄な体格を生かした走りだ。「泉谷さんと比べるとスプリント技術はちょっと低いですし、ハードリング技術に関してもラシッドさんと比べると低いです」と謙遜するが、身長175cmの泉谷、179cmの村竹に対して、阿部は191cm。長身の分、ハードリングタイムは2人に比べて「ちょっと短いぐらい」だと言う。世界に目を転じれば、阿部の身長で比べる相手はパリ・オリンピック金メダリストのグラント・ホロウェー(アメリカ、188cm)や東京オリンピックで金メダルを獲得したハンスル・パーチメント(ジャマイカ、196cm)らになる。「海外の選手たちと比べると、全然ハードリングタイムが長いんです。先生と『体格が恵まれているんだから、もっと短くしよう』ということを意識して、この2カ月間はやってきました」

具体的には通常3歩で走るインターバルを5歩にしたり、ジャンプのドリルを改めたり。「先生からは『まだまだ初心者がやるような練習だよ』って言われるんですけど、5歩ハードルでは技術を身につけられますし、ジャンプドリルを見直したことで踏み切りの強化にもつながった」と阿部は手応えを感じている。

身長191cmと体格が恵まれている分、ハードリングタイムの短縮に努めてきた

「先輩後輩は関係ない、倒しにいく」

身近に泉谷や村竹がいる環境で110mハードルに取り組めることは、阿部にとって大きなメリットだ。一緒にハードル練習をやる日があったら、特に村竹には阿部の方から積極的に「やりましょう!」「倒させてください!」と勝負を挑むと言う。「結果ボコボコにされるんですけど、世界のトップクラスがすぐそこにいるというのは、順大にしかない。ぜいたくです。何もかもが2人から学べるというか、自分にとって必要な技術しか持っていないので、いいところを盗んでいます」

個人選手権での結果を受けて、2人に少しでも近づいた感覚があるのではないか。今年は3人で世界選手権に出る可能性も出てきた、という話を振られると、「去年はラシッドさんに勝てないというのは分かっていたので、日本選手権でも『2番を』と言って、4番という納得のいかない結果になってしまいました。今年はおそらく泉谷さんが出ると思うので、先輩後輩というのは関係なく、倒しにいくつもりです。日本選手権の優勝を目指します」

今年は日本選手権での優勝を目指していく

力強く宣言した阿部は翌日の決勝を13秒30(+1.3m)で制し、中2日で出場した織田記念も13秒36(+1.9m)で優勝を果たした。個人選手権の決勝は強風に押されてインターバルの走りが詰まり、自己採点は「60点もつけられないぐらい」と辛かった。「13秒26はマグレではないですけど、まだ一発屋。もっと安定して出さないとなって思いました」。伸びしろは、まだまだある。

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