早稲田大QB木庭修克がデビュー、関学QB星野太吾と「甲子園ボウルで対戦できたら」

4月29日に駒沢オリンピック公園陸上競技場で行われたアメリカンフットボール伝統の一戦、第73回早慶戦で、早稲田大学ビッグベアーズの左腕QB木庭修克(こば・のぶかつ、2年、都立三田)が公式戦デビューを果たした。試合は前半から早稲田がリードを広げ、35-15で勝利。木庭は後半から出場し、試合終盤にはタッチダウンパスも成功させた。
後半に登場、第4Q終盤に通したTDパス
立ち上がりから早稲田が主導権を握った。前半は今年からスタートQBとなった船橋怜(4年、早大学院)が出場。安定したパスにランを織り交ぜた。船橋は走力にも優れ、テンポよくゲインを重ねながら、チームにリズムをもたらした。
第1クオーター(Q)の10分過ぎにはノーハドルから攻撃を進め、WRの松野雄太朗(4年、早大学院)へTDパスを通すと、直後にはRB安藤慶太郎(4年、早大学院)が力強いランで加点。早稲田は第2Qも安藤のランと、WR吉規颯真(4年、早大学院)のパスレシーブでTDを追加して、28-10で前半を折り返した。

今季からチームを率いる荒木延祥ヘッドコーチ(HC)は船橋について「走る能力、ボールを取ってから投げるスピード、タッチの良さは、見てきた日本人QBの中でも非常に高い」と評価した。
後半は船橋に代わって木庭が登場した。はじめは本調子とはいかず、一度ベンチに下がったが、第4Q終盤に再登場すると、ミスをしながらも落ち着いて挽回(ばんかい)。吉規にTDパスを通した。初出場ながら思い切りプレーする姿は、今後の成長を期待させるものだった。
最初の3シリーズは思うように進められず
早稲田は昨年まで2年間エースQBを務めた八木義仁が抜けた。経験値のあるQBがいないことは課題と思われていたが、船橋、木庭といった新しいQBがしっかりとチームをリードし、2025年シーズンの初戦を勝利で飾った。
木庭は早慶戦の2週間ほど前に出場を伝えられ、準備を続けてきたという。「新人戦以外でちゃんと試合に出たのは本当に初めてだったので、最初は会場の雰囲気に圧倒されました。でも緊張はしなかったです。その代わり、冷静でもなかったですが(笑)」とデビュー戦の感触を振り返った。

最初の3シリーズは思うようにオフェンスを進められずにいた。「パス自体は、まあまあうまくいっていたんですが、相手守備のラッシュが漏れてきた部分に気を取られてちょっと硬くなってしまいました。それでスリーアウトが続いてしまって……」
相手に傾きそうな流れを断つ意味もあり、荒木HCは一度木庭を下げて、船橋と交代した。木庭は外から冷静にゲームを見つめ、落ち着いたタイミングでの再登板となった。「ディフェンスが止めてくれて、オフェンスが回ってきたタイミングで出ると決まっていた」
プレーコールは普段から練習してきたはずだったが、ゴール前で左右を間違える痛恨のミスをしてしまった。この時は自ら走り込んでゴール前まで進んだが、反則を取られてこのプレーは取り消しに。これが逆に木庭にとっては良かったのかもしれない。その後のプレーは冷静に組み立て、タッチダウンパスを成功させた。「ミスはあったけど、他のプレーヤーに声をかけながら進めることができました」

中学に上がったタイミングでWRからQBに転向
木庭がフットボールを始めたのは、小学5年のとき。漫画「アイシールド21」やYouTubeで見た試合映像に憧れ、ワセダクラブでフラッグフットボールに取り組んだ。家族や友人の影響はなく、自らこの世界に飛び込んだという。
ワセダクラブでは中3までフラッグをし、都立三田高校で本格的にアメフトに転向した。春秋の公式戦はほとんどが都大会の初戦敗退だったが、高校2年の冬には東京都の選抜チームに選ばれ、現在関西学院大学でQBをしている星野太吾(2年、足立学園)と一緒にプレーした。そして選抜大会では、優秀選手賞も受けた。

いくつかの大学からスポーツ推薦の話も届いた。だが、ワセダクラブでフラッグを始めたこともあって、自然と志望先は早稲田に向いていたという。「大学でアメフトを続けることはずっと決めていて、早稲田でやりたいと思っていた」と木庭。国際教養学部に合格し、念願のビッグベアーズ入りを果たした。
中学に上がったタイミングでWRからQBにコンバートされ、そこからはずっと司令塔を務めてきた。自己評価を聞くと「パスが好きですね。走るのも嫌いではないんですが、得意ではないです(笑)」と苦笑いを浮かべた。

「オール関東」選出を目指して
大学4年間での目標は、連盟で表彰される「オール関東」に選ばれることだと明かす。
「そこに向けて、まずはQBの基礎やアサイメントの理解をしっかりと深めていきたいです。今日もDLをさばくのがうまくできず、パスターゲットにしっかりデリバリーできないことがあったので、そういう部分からちゃんとやっていきたいです」
荒木HCは、現在の木庭についてこう評価している。「勝ち気なタイプで、自分で何とかしようとする気持ちは強いが、まだベースの能力やQBとしてのスタンダードが未成熟な部分があります。ただ、走る力も投げる力もあり、良いモノを持っていると思います」
思い切りの良さは魅力だが、無理にプレーを決めようとすると、逆にオフェンス全体の流れを崩してしまう。そういったミスについては「冷静さやゲームマネジメント力をこれからもっと伸ばしていく必要がある」と指摘する。「まだまだ粗削りだが、可能性を感じる」と荒木HCは木庭の成長を期待している。

足元を見て一歩一歩進んでいく
初めて出場した早慶戦を木庭はこう振り返った。「TDパスを決められたこと自体はうれしかったんですが、その前にインターセプトされてしまってるんで。1インター、1TDということで、トントンではないですけど。結果が残せた部分はよかったかなと思います」
東京都選抜で一緒だった星野も、関学で試合経験を積んでいる。「あっち(星野)が僕のことを覚えてるか分からないですけど……(笑)。彼とは小、中、高と対戦してるんで、甲子園ボウルでも対戦できたらうれしいですね」
木庭は一足飛びではなく、しっかりと足元を見て一歩一歩進んでいくタイプだろう。早慶戦を見て、試合後に彼と話して、それを感じた。早稲田の19番は、これからどんなQBに成長していくのだろうか。

