陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

明治国際医療大・古西亜海選手が鍼灸師の国家試験に合格!「治療できるアスリート」に

鍼灸師の国家試験に合格した明治国際医療大学の古西亜海選手(提供・明治国際医療大学)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は明治国際医療大学・古西亜海選手(4年、豊岡総合)のお話です。鍼灸(しんきゅう)学科に所属し、陸上競技を続けながら「はり師、きゅう師」(以下、鍼灸師)の国家試験に合格。昨年は富士山女子駅伝に全日本大学選抜のメンバーとして出場されました。競技と資格取得の両立を図ってきた古西選手を訪ねました。

部員数は駅伝メンバーギリギリから、16人に増

明治国際医療大学は京都府南丹市にあります。JR京都駅から電車で約1時間。自然に囲まれ、競技も勉強も集中できそうな環境です。医療系の資格取得や勉強ができ、陸上競技部の選手の皆さんは鍼灸学科、柔道整復学科、救命救急学科、看護学科などで学ばれています。

3年前に伺った時、古西選手は1年生でした。当時の女子長距離は駅伝メンバーをギリギリ組めるほどの少人数で活動されていましたが、古西選手が最上級生となった今年は16人に増えていました。

練習後のミーティング。左端が大西毅彦監督、右端が古西選手(撮影・M高史)

長距離を指導されているのは大西毅彦監督です。高校時代はインターハイで800m4位、大学時代は1500mで日本インカレ5位、実業団時代は1500mで日本選手権入賞を果たされています。大西監督は私、M高史と同い年(1984年生まれ、今年41歳)で現在も指導の合間に走られていて、1500mで4分00秒(昨年のシーズンベスト)の走力をお持ちです。年々アップデートされているシューズやスパイクの感覚を確認し、指導に生かされているそうです。

古西選手は高校時代、1500m4分45秒、3000m10分10秒と目立った成績を残せなかったそうです。進学先は「鍼灸の勉強ができて大学でも競技を続けたい」という理由から明治国際医療大学へ。そこで急成長を遂げました。1年目から1500mで日本インカレに出場し、富士山女子駅伝は全日本大学選抜で7区を走りました。2年時は関西学生ハーフマラソンを1時間11分40秒で走り優勝。3年時は富士山女子駅伝で再び全日本大学選抜の7区を任されて区間6位の好走。順位を二つ上げました。

富士山女子駅伝の7区は、高低差169mの「魔の坂」が待ち受ける上り区間です。古西選手は坂ダッシュが苦手とのことですが、ずっと上り坂が続くのであれば、押していけるそうです。大西監督も「一定のペースで押していけますし、ロードも強いです。長い距離を走っても食事をしっかりとれますし、将来的にはマラソンも面白いですね」と太鼓判を押します。

昨年末の富士山女子駅伝では自身2度目となるアンカーを務めました(撮影・井上翔太)

男女混合駅伝の1週間後に臨んだ国家試験

明治国際医療大学では必要な単位を履修すると、3年生の終わりに鍼灸師の国家試験を受けることができます。これまで3年間、競技と勉強の両立を続けてきた古西選手は今年2月、全国大学対校男女混合駅伝に出走し、その1週間後に国家試験という超ハードスケジュールでした。

「国試(国家試験)が近づいてきても、部活の2部練(朝練習、本練習)をやってきました。男女混合駅伝が終わってから最後の1週間だけは集中したかったので、監督と相談して勉強に集中させていただきました。それまで、走っているときも周りは勉強しているし、『自分もしなきゃ』という不安が重なり、ジョグもしんどい時がありました。それでも自分は将来『世界で戦いたい』『強くなりたい』という目標があったので、まずはここを頑張れないと、そういうことも絶対できないと思って、これを乗り越えるのが第一段階と思って頑張りました」

これまでだと鍼灸の道に進むには、競技は高校で一区切りをつけて専門学校に通ったり、大学や実業団まで競技を続けて引退してから専門学校で勉強したりするといったケースがほとんどでした。今回、大学で競技を続けても鍼灸の資格が取れるという新たな道を古西選手が開拓。今後は古西選手が駅伝を走っている時、中継で「治療ができるアスリート」「走る鍼灸師」というような肩書が紹介されるかもしれないですね!

5月4日に行われた関西インカレ10000mでは5位入賞(提供・明治国際医療大学陸上競技部)

チームとして全日本と富士山の両方を狙う

ご自身やチームメートの治療もできますし、体の仕組みやケアに精通しているのは競技にもプラスとなります。古西選手は「授業で体のことを勉強をするので、周りがケガをしても『あ、授業でやったな』とか、自分も『ここが痛いな』って時は先生にすぐ相談できたり、自分で調べたりもできます。自分を知れるというのは、すごくいいことだと思います」と鍼灸学科の良さもお話ししてくださいました。

ただ、この3年間、両立を続けるのは本当に大変だったそうです。「医療系、トレーナー系の資格を取るのはしんどいです。その中で陸上をするので、『両立』と言葉で言ったら簡単なのですが、いざやるとなったら、特に自分の場合はどっちかしかできない性格なので、結構しんどかったです。ただ、その分、勉強したら自分の体を知れますし、勉強したことは絶対に競技に生きます。それを目指すことによって自分の競技力も上がります」と覚悟を決めて乗り越えてきました。

古西選手の活躍がきっかけにもなり、チームには競技をしながらトレーナーの勉強もしたいという選手が増えて、現在は16人のうち7人が鍼灸学科で学んでいます。他の選手も救命救急学科、看護学科と医療系の勉強をしながら競技を続けています。

「後輩も増えました。毎年増えるごとに活気が出てきますし、年ごとにいろんな色があって面白いです(笑)。1年生もやる気に満ちあふれていますね。自分自身、1年生の時に記録がグンと伸びたのですが、2年生、3年生と少し停滞したところもありました。国家試験が終わるまではずっと不安がありました。今はやっと終わってスッキリ状態です(笑)。4年生、ラストイヤーはここからもう一度スタートしたいです」

チームとして全日本大学女子駅伝と富士山女子駅伝出場を目指します!(提供・明治国際医療大学陸上競技部)

今後の目標については「チームとして全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝どちらも狙いたいです。選抜は選抜で楽しいですし、その子たちと今も仲良くしているので、それもいいのですが、やっぱりせっかくなので最後くらいはチームで出たいです。みんな明るくて、どの学年も仲が良いのが強みです。4年間、たくさんの方にお世話になったので、恩返しできるような走りがしたいです。卒業後は実業団で続けたいです。競技を引退したらトレーナーとしてアスリートに恩返ししていきたいです」。

将来は選手の気持ちに寄り添えるトレーナーさんになっていることでしょう。まずは学生生活のラストイヤー、チームメートとともに現状打破する古西亜海選手と明治国際医療大学の皆さんの挑戦に注目です!

M高史の陸上まるかじり

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