同志社大・坂玲哉主将　大阪桐蔭時代は控え捕手、胸にとどめてきた西谷浩一監督の言葉

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マスクを外すと、クールな表情がのぞく。同志社大学主将の坂玲哉（4年、大阪桐蔭）は入学してから3年間、関西学生野球リーグ戦で先発マスクをかぶったのは6試合だった。ところが大学ラストイヤーの今春は、すでに過去3年間と同じ6試合で捕手として出場している。

正捕手の辻井心が離脱し、白羽の矢

4月30日にGOSANDO南港野球場であった関西大学との3回戦。同志社大は一回に4点を先行し、三回に1点を加えた後、じりじりと追い上げられる苦しい展開になった。それでも橋本裕介（4年、浜田）と坂のバッテリーが粘り、7-3で勝利。今季初となる勝ち点を獲得した。

「1戦目は勝てたけど、2戦目は自分のミスで負けてしまいました。自分に期待されているのは守り。試合では常に相手を3点以内に抑えることを目標にしています。でも（前節の）関学戦ではそれがうまくいかなくて……」。その関西学院大学とのカードは大量失点が響き、いずれも先発を託された坂は1回戦の途中で代打を送られることもあった。

それでも関大戦は、再び先発マスクを任せてもらった。「（完投勝ちした）橋本も含めて、ピッチャーとうまくコミュニケーションを取りながらここまでやって来られたと思います」

近年の同志社大で正捕手を務めていたのは辻井心（3年、京都国際）だ。だが4月、ケガのために戦列を離れた。川端晃希コーチによると、チームとしてディフェンスを重視するようになり、坂の守備力を買ったのだという。坂は現状を冷静に受け止めている。

「自分は打撃がまだまだなので、そのあたりは辻井には負けていると思っています。別の部分で勝負していかないと試合には出られないですし、自分が出られなかったとしてもキャプテンという立場上、できることをやっていきます」

昨年まで1学年下の後輩にポジションを譲るという悔しいシーズンを送ってきた。振り返れば、高校時代も似た境遇で過ごしてきた。

高校3年夏の甲子園は「背番号18」

坂は大阪桐蔭でも捕手としてプレーした。3年夏の甲子園は背番号18をつけてベンチ入り。このとき背番号2をつけていたのは田近介人（立正大学4年）で、甲子園での全2試合で先発マスクをかぶったのは、1学年後輩で背番号12をつけていた松尾汐恩（現・横浜DeNAベイスターズ）だった。

松尾はもともと遊撃手。西谷浩一監督から適性を見いだされ、捕手としての起用機会が増えていた。坂は当時、正捕手の同級生や成長著しい後輩に挟まれながらも、自分だけは見失わないようにしていたと振り返る。

「高校時代はブルペンでボールを受けることが多かったですけど、コミュニケーションを取るとか細かい部分を重視し、自分がやれることを徹底し続けていました。それは今も変わっていません。そこは誰にも負けていないという自負があります」

高校野球が終わり、同級生は関東の有名な大学へと進路がどんどん決まっていく中、坂は悩んでいた。

「自分も同級生みたいに、『関東のすごい大学に行けたら……』とは思いましたが、そこで野球を続けていく自信がなかったんです。それなら『関西の大学で』と思っていて。同志社大には大阪桐蔭から進んだ青地さん（斗舞、2018年の春夏連覇メンバー）も含めてたくさんいましたし、野球のことだけを考え過ぎずに、大学卒業後の進路のことも考えて、西谷先生の勧めもあって同志社大を選びました」

大阪桐蔭の同級生の多くが、大学で主将に

大学でも胸にとどめてきたのは、西谷監督の言葉だ。

「野球は『人でできるスポーツ』だとよく言われました。人の上に実力があってこそ、結果を残せると。だから人間力がなければ通用しない」。西谷監督は自分たちの代で主将を務めていた池田陵真（現・オリックス・バファローズ）に「キャプテンでチームが変わる」と言っていた。その言葉を自分に置き換え「自分が考えを変えないとチームも変わらないな、と。練習を一生懸命するとか、当たり前のことをきちんとするとか、より一層高い意識を持つようにしました」

池田は強いキャプテンシーを持ち、背中で引っ張る主将だった。坂はその傍らで副将を務めていた。池田の姿勢に感銘を受けつつ、チーム全体を見渡してきた経験も、現在の自分に影響を与えているという。

この世代の大阪桐蔭は中央大学の繫永晟や青山学院大学の藤原夏暉ら、多くの同級生がキャプテンを務めていることも、坂の背中を押している。中軸を打っていた花田旭は東洋大学で、前田健伸は早稲田大学で、中心打者として打線を引っ張っている。坂は「レベルの高いところで競争している同級生の情報を知ると、気合が入りますし刺激になります」と笑顔で言った。

同じ関西学生リーグでは、自分と同じく大阪桐蔭で控えだった小谷太誠も関西大で主将を務めている。「素直にうれしいですし、（同志社大では高校のチームメートでベンチ外だった）中森（暁大）も出ていますし、これからも切磋琢磨（せっさたくま）したいと思います」

西谷浩一監督「何事も必死にやれる子」

チームは3カードを終えて勝ち点1。優勝争いから一歩後退した状況にあるが、下を向いてはいない。「試合に出る出ないは抜きにして、チームが勝つことを最優先にするのは今も同じです。優勝が遠のいてしまっても、1節、1試合を大事にしながら成長していけたらと思っています」

大阪桐蔭の西谷監督は坂について、こう述べていた。

「高校の時から頭が良く、何事も必死にやれる子でした。この代は大学でキャプテンをしている選手が多く、こちらとしてもうれしい。特にこういう控えだった子たちの活躍はとても気になりますし、これからさらに頑張っていってもらいたいです」

地道にコツコツと。そんな坂の姿が、窮地にあるチームの中で明るい光となり、上昇気流をつかむきっかけとなるか。派手さはなくとも、静かに燃える「背番号1」が、局面を打開する存在となる。