アメフト

関西学院大・深村麟太郎 ラグビー仕込みの加速力を武器に、エースRBに向け勝負の春

エースRB候補になった深村麟太郎は取り組みを根本から見直し、伊丹翔栄の走りを目指す(すべて撮影・北川直樹)

5月4日に神戸・王子スタジアムで開催された関西学生アメリカンフットボール春季交流戦で、関西学院大学ファイターズが京都大学ギャングスターズに30-0で快勝した。試合を通して関学オフェンスは地上戦でリズムを作り、計287ydを獲得。QB星野太吾(2年、足立学園)が率いた攻撃陣で、RB井上誉之(4年、関西学院)とともにラン攻撃を担ったのは、高校ラグビー出身のRB深村麟太郎(3年、成城学園)だった。

デプスが落ち、"求められるRB像"を見つめ直した

この試合、深村は初の先発ローテーションで出場した。12回のキャリーで51ydを獲得し、第3クオーター(Q)には4ydのTDを記録。平均4.3ydと安定したゲインを見せ、今季の地上戦を担うエース候補として、強い覚悟を持っている。

伊丹翔栄、澤井尋といった、ここ数年のファイターズのランを支えてきたRB陣が卒業。再編を迫られていたファイターズオフェンスで台頭してきたのが深村だった。ただこの試合の直前まで、彼は決してチーム内で高い評価を得ていたわけではなかった。

「去年、伊丹さんと澤井さんの次(3番手)まで行っていたんですが、今年の立教戦の前に、デプスがめちゃくちゃ落ちたんです。春の入りからずっと、自分のことばっかり考えてしまっていて……。大村(和輝)監督に『お前は去年から何も変わってない』って言われて、そこからすべて変えました」

これまで自身のスピードや突破力を信じて走ってきた。だが、チームプレーを重んじるファイターズで、深村は求められるRB像に適応できずにいた。京大戦はその姿勢を見つめ直したことと、RB陣に負傷者が多かったことで、チャンスが再び巡ってきた。

第3Qに挙げた今季初TDにも、決して満足していなかった。口をつくのは反省の弁ばかり。「まだまだ判断ミスが多くて、理想のRB像には程遠いふがいないものでした。僕は中を走るのに課題があって、今日はそのことを考えすぎて、いつもなら行けるとこでも中途半端になってしまいました」

OL陣のブロックを生かしながら中を走ることを意識している

小学生時代に芽生えたアメフトへの憧れ

深村がアメリカンフットボールを志したのは、小学生の頃。祖父母が住んでいた川崎市、武蔵小杉の家に遊びに行ったことがきっかけだった。近所にある法政大学アメフト部の青い人工芝のフィールドを見て「ここでアメフトをやりたい」と思った。法政第二中学を受験したものの、不合格。進学した成城学園ではラグビー部に入り、ウィングのレギュラーとして活躍した。

高校最後の年には東京都大会決勝に進出し、國學院大学久我山に敗れた。全国の舞台を踏むことはかなわなかったが、深村は「花園まで行っていたら、大学でもラグビーをしていたかもしれません。あそこで負けてアメフトへ切り替える気持ちになれました」と当時の気持ちを語る。大学は、かつて憧れたアメフトの世界に進むと決めた。

「強いチームでやりたかったので、関学を志望しました。僕、受験は慶應と関学しか受けてないんです。慶應も僕にとってはロマンでしたね(笑)」

第3QのTDラン。味方OLが開けたホールを駆け抜けた

一般受験からファイターズへ、当初はCBを希望

ファイターズはスポーツ推薦や関西学院高等部、啓明学院からの進級組がほとんどの中、深村は一般受験から入部した。最初は推薦組や内部進学組との距離感に戸惑いもあったが、すぐになじんだ。入部当初に希望していたポジションは、守備のコーナーバック(CB)。1対1の勝負とスピードには自信があり、「高校のとき、50m走のベストが6秒フラットだったんです。足には自信があったので、スピードで勝負するCBをやりたかったです」と振り返る。

しかし、練習初日にコーチからRBに行くように言われ、そこからRBとしてのキャリアが始まった。

高校時代にレベルの高い環境でラグビーに取り組んできたため、ファイターズに入っても大きなカルチャーショックはなかった。「でも、高校はあくまで花園に出ることが目標のチームだったんですが、ファイターズは日本一を目指しているチームなので、その辺の意識づけやスタンダードはやっぱり違いますね」

昨季は3番手RBとしてリーグ戦序盤にTDも記録。ただ当時は、伊丹や澤井に「ついていく」ことが精いっぱいで、「自分からTDを取りに行く意識が持てていなかったです」と語る。今年は新たなエース候補として、この部分の変革に取り組んでいる。

一線を抜けるスピードには自信がある

自分の走りをよりアメフト仕様に

高校まで取り組んだラグビーの経験は、アメフトに大きく生きていると深村は語る。1対1での駆け引きやヒットに対する恐怖の少なさは強みだと認識する一方、アメフトにおける〝タテへの突破〟という部分には、まだ課題があるという。

「ラグビーは相手を1人かわすと独走できるんですが、アメフトはOLとのアサイメントでランを出すので、そうはいかないです。去年まではラグビーの癖で外に逃げがちだったので、今年はタテを意識しています。でも、今日は逆にタテに行きすぎてしまって、外に跳ねられる場面でも突っ込んでしまいました。そこは反省しています」

自分の走りを、よりアメフト仕様にするためにどう調整していくか。深村の走りは、まだその途上にある。

当たりに行くことはラグビーの経験から慣れているという

エースQB星野秀太「開いた瞬間の爆発力はすごい」

エースQBの星野秀太(4年、足立学園)は、深村のキャラクターと成長を身近で見てきた一人だ。以前の深村は黙々と練習に取り組むものの、練習などでは積極性に欠け、自ら前に出るタイプではなかったという。「関学でこういう選手は少ないんです。変わってるなぁと思います」。それが今季に入り、姿勢が一変した。

多少のけがをしていても練習に参加し、痛みにも強い。積極的に練習に関わるようになった深村に、星野は「すごく良い変化」と手応えを感じている。

ラグビー仕込みのカットバックや加速力は抜群で「ホールが開いた瞬間の爆発力はすごい」と評価する一方、ブロックの読みやタックルへの対応力にはまだ伸びしろがあると話す。「でも素直で、言えばすぐに直す。最後はちゃんとやってくれる」と、深村の実直な姿勢にも星野は信頼を寄せている。

パスキャッチに課題があることも明かした。「アフターなどでキャッチをミスしたらプッシュアップというゲームに誘っても、『腰が痛い』とか言って一度は逃げるんです(笑)。でも、最終的にはやりきる。そんな一面も可愛げがありますね」と星野は笑った。

星野によると、深村は大きな成長をしているという

大村和輝監督「タテで1対1の勝負をする力を」

大村監督は深村について「一気にブレイクスルーしたろうって気持ちがまだまだ弱い」と語る。「1対1を突破するために頑張ってるんですけど、頑張り方がちょっと足りない。もっとやれるで、と。自分でも考えて、追い込んでいかなあかん」と、現時点では厳しい評価を下す。

一方で、急加速したときのスピードは高く評価している。「外をまくれって言ったら、まくれるスピードはあります。ただ、それだけではディフェンスは怖くないですから。どんだけ1カット、2カットでタテ目に勝負できるか。それが分かってきたら、一気にバーンといく可能性はありますね」とも指摘する。

「だからこそ、タテで1対1の勝負をする力を身につけてほしい。伊丹の若い頃も外に大きく逃げていたけど、3年で変わった。まだフィジカルも足りてませんし、深村もこの春が勝負です」とエース昇格への可能性に期待をかける。

タテへの勝負が成長のカギだ

理想のRB像は「伊丹翔栄さん」

深村に理想のRB像について問いかけると、少し照れながらもこう語った。

「すぐ調子に乗って連絡してくるんで、ほんとはあんまり言いたくないんですけど……(笑)。やっぱ伊丹翔栄さんです。最近、いろいろ相談にも乗ってくれて。速くて強くて、理想のRBですね」

RB陣には井上、永井秀(2年、関西学院)といった実力者が並ぶ中、深村は自分が「一番うまくなってスタメンを取りたい」と語る。そして「自分中心になったらダメ。でも、チームを引っ張るには自分が前に出る必要がある」と、責任感もにじませた。

約10年前、武蔵小杉で見た〝青いグラウンド〟に憧れた少年は今、関学で一歩ずつその道を切り開いている。

初の先発ローテーション出場も、納得とは程遠い出来だった。ここからはい上がる

in Additionあわせて読みたい