バスケ

日体大・小澤飛悠 大会MVPに輝いたシックスマン「ネジが外れた」1本のシュート

スプリングトーナメントのMVPに選ばれた日体大の小澤飛悠(すべて撮影・井上翔太)

5月4日に行われた第74回関東大学バスケットボール選手権大会(スプリングトーナメント)決勝は、日本体育大学が白鷗大学との熱戦を91-87で制して大会3連覇を達成した。MVPに選ばれたのはシックスマンの小澤飛悠(3年、中部大一)。大会前にベンチスタートでの起用を決めた藤田将弘ヘッドコーチ(HC)は、「シックスマンでMVPは、なかなかいない。ここ(記事に)大きく書いてくださいね」とご満悦だった。

【写真】日本体育大学が3連覇! 関東スプリングトーナメント最終日、各順位決定戦

5対5で控え組に回ったことで、生まれた効果

昨年末のインカレが終わり、オフシーズンに突入しても小澤はせわしない日々を過ごした。

年が明けた1月にはB1シーホース三河の練習生としてトップチームに参加。2月からは日本代表での活動が続き、将来有望な若手選手によるディベロップメントキャンプ、5月16日から韓国で開催される李相佰盃へ向けた強化合宿で汗を流した。

世代別の日本代表に名を連ねる小澤は、1年生の頃から日体大に欠かせない戦力としてコートに立ち続けてきた。しかし、新チームになってからは日体大を離れることが多く、周りと連係を深める時間を割けなかった。スプリングトーナメントが間近に迫った4月、藤田HCは大会3連覇を目指す上で一つの決断を下した。

「小澤をシックスマンで起用することが、この春はベストだと思いました。4月に入ったくらいに彼と話をして、〝両者納得・合意〟でシックスマンにしました」。藤田HCは5対5の練習から小澤を控え組に回したことで、チームとしても期待以上の効果があったと話す。「練習の時は小澤が先発組の相手になるわけですよ。だから先発組は小澤を止めなければいけない。結果的にそれも良かったですよね」

昨年のインカレ後はチームを離れる時期が長く、今大会はシックスマンに回った

準決勝のブザービーターから爆発、大会得点王に

迎えたスプリングトーナメントはプラン通り、小澤はベンチから試合を見守った。しかし大会本番になると、なかなかリズムに乗れない。もちろんチームは順調に勝ち進んでいるが、小澤自身はしっくりきていなかった。

「自分としても役割をしっかりわかった上で大会に入ったんですけど、なんていうか、やっぱりスターターとシックスマンは違うなって。それで悩んだ部分はありました」

それでも、準決勝の日本大学戦で決めた1本のシュートで「ネジが外れた」。この試合の第2クオーター、悩めるシックスマンはドリブルからミドルシュートを放つと、前半終了を告げるブザーが鳴り、ボールはきれいにリングをくぐった。

決勝で大きなスリーポイントを沈め、右手で「3」のポーズ

「シックスマンになってから得点も10点とか12点とかだったので、爆発できなくて苦しみましたけど、自分としてはやっぱり日大戦のブザービーターが大きかったです。あの1本でネジが外れたというか、あそこで『俺が点を取らないとダメだな』というくらいのメンタルになって、自分自身も変われたのかなと思います」

日大戦では約30分間コートに立ち、両チームトップの28得点。白鷗大学との決勝ではそれを上回るパフォーマンスを見せ、一人で33得点を稼いだ。完全に吹っ切れた小澤は身長189cm、体重90kgの体格を駆使して多彩な攻めを披露。フィジカルを生かしてゴール下で力強いプレーを見せたかと思えば、柔らかなシュートタッチで3ポイントを成功。「スクリーンとピックの使い方は(オフシーズンに)すごく自主練しました」と、ボール運びや自らが起点となるハンドラーの役目も担いオフェンスを引っ張った。

フィジカルを生かし、ゴール下でのプレーも力強かった

輝きを取り戻したその姿は、まさに〝水を得た小澤〟だった。柔軟性と強さを備えたオールラウンダーは、気づけば最強のシックスマンへと進化を遂げ、大会得点王となり、最優秀選手賞に輝いた。

「4年生を勝たせたいという気持ちが一番大きい」

優勝後の表彰式でMVPに「日本体育大学4番・小澤飛悠」の名前が呼ばれた瞬間、会場に大きな歓声が飛び交うことはなかった。MVPをたたえる拍手や声のボリュームは、失礼ながら〝ごくごく普通〟だったように感じた。

「去年からオフェンスの主軸ですし、今日の活躍ぶりを見たら(MVPは)飛悠だろうなと。特に驚きもしませんでした」。今大会、小澤に代わってスタメンを務めたチームキャプテンの早田流星(4年、福岡第一)はそう言ったが、「でも…」と続けた。

「彼が日頃から努力している姿を見ているので、それが結果として出て良かったです。飛悠はオフェンス能力もすごいですけど、自分の考えを押し付けるのではなく、人の意見をちゃんと聞き入れる素直さがあるところも彼の強みなのかなと思います」

小澤が優勝後に流した涙には、自分の活躍を支え続けてくれた4年生への感謝の思いがあふれていた。「4年生にはオフコートでもお世話になっていますし、プレーも阿吽(あうん)の呼吸でわかることも多いです。自分がミスをしてもすぐに声をかけてくれて、そういったメンタルケアも4年生がやってくれているので感謝しかないです。4年生たちが『飛悠、ありがとう!』って言ってくれた時はやっぱり泣いちゃいましたし、すごくうれしかったです」

3年目の今シーズンはどんな意識を持って過ごしたいかと尋ねると、「4年生を勝たせたいという気持ちが一番大きい」と小澤は答えた。これからも悔いのない日々を積み重ね、12月、大好きな4年生へ「日本一」をプレゼントする。

優勝を決めた後、4年生の月岡(左)と喜び合い整列する

in Additionあわせて読みたい