陸上・駅伝

特集:第104回関東学生陸上競技対校選手権

立教大・小川陽香が女子10000m日本人トップ「練習感覚」で復調のきっかけつかむ

立教大の小川陽香は関東インカレで復調のきっかけをつかんだ(撮影・井上翔太)

第104回 関東学生陸上競技対校選手権大会 女子1部10000m決勝

5月8日@相模原ギオンスタジアム(神奈川)

優勝 サラ・ワンジル(大東文化大3年)32分25秒78
2位 小川陽香(立教大3年)33分10秒37
3位 野田真理耶(大東文化大3年)33分34秒46
4位 三宅優姫(拓殖大2年)33分44秒75
5位 田中希実(日本体育大3年)34分01秒80
6位 臼井瑠花(筑波大1年)34分05秒40
7位 柳井桜子(日本体育大4年)34分28秒16
8位 齋藤一乃(日本体育大2年)34分29秒16

5月8日の関東インカレ初日、女子1部10000m決勝で立教大学の小川陽香(3年、順天)が日本人トップとなる2位に入った。10000mと5000mで結果を残せず、悔しい思いをした学生個人選手権から約2週間。「練習だ、練習だ」とリラックスすることを意識して臨んだレースで、きっちりと状態を上げてきた。

「練習のような感覚で、自分の全力を出して粘れるか」

25選手が出場したレースを引っ張ったのは、下級生の頃から主要大会で優勝を続けている大東文化大学のサラ・ワンジル(3年、帝京長岡)だった。最初の1000mを3分13秒で通過し、その後も3分10秒台でラップを刻むと、集団はあっという間に縦長となり、2000m時点で先頭集団は9人となった。

レース序盤からハイペースとなり、小川は先頭集団についた(以下すべて撮影・藤井みさ)

「練習のような感覚で、いけるところまで自分の全力を出して、どこまで粘れるか」を考えていた小川。3000mに向かうところで2人、4000mに向かうところでまた1人と遅れ始める中、きっちりと先頭集団をキープした。5000m付近でサラ・ワンジルにペースアップされたときも「自分はここで失うものは何もない。チャレンジしたい」と唯一、ついていった。

そこからじりじりと引き離され、終盤は単独走となった。「思ったよりも、1人になったときの風が強くて、自分でも足が止まってるというのは分かっていたんですけど、そこで苦しいからといって、ちょっとでも楽しようとすると、後ろから絶対に来る。精いっぱい、動かし続けました。常に出し切るというイメージでした」。小川の過去の勝ちパターンは、先頭集団で力を蓄えながら、切れ味鋭いラストスパートで勝ちきるというものが多かっただけに、珍しい展開だった。2位でゴールする瞬間、小さく右拳を握った。

右拳を握ってゴール、学生個人選手権の悔しさを晴らした

個人選手権は自分にプレッシャーをかけてしまった

レース後、ガッツポーズの意味を本人に尋ねると、約2週間前に味わった悔しさを挙げた。7月にドイツで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)の代表選考も兼ねていた学生個人選手権は、4月25日の女子10000m決勝で7位。2日後の女子5000m決勝は8位に終わった。ユニバ出場はつかめず「個人選手権が本当にトラウマというか……今日走り始めるまでも『大丈夫かな、怖い』という部分がありました」

小川は昨年9月の日本インカレ女子10000mを制し、年末の富士山女子駅伝でも全日本大学選抜の一員として1区区間賞を獲得。新シーズンとなり、この種目で注目選手の一人に挙げられるのは、必然のことだった。どうして個人選手権で思うような走りができなかったのか。本人は、こう分析している。

「一つは(ユニバに)『絶対行く、行けるはず』と自分に結構プレッシャーをかけてしまっていました。自分は緊張しいなので、想像以上に緊張していたのかなと。あと、スパイクの厚さの規定が昨年11月ぐらいに変わって、駅伝シーズンはシューズだったので、(トラックシーズンで使う)新しいスパイクを思うように履きこなせなかったところもあります。練習で慣らすしかないんですけど、そういうところの少しずつが重なったのかなと思います」

自身のことを「緊張しい」だと言う小川、いい意味での「練習感覚」が好走につながった

わずか2週間、ヒントを与えてくれたのは……

そこからわずか2週間、できることにも限りはある。ヒントを与えてくれたのは昨年、夏合宿に参加させてくれた大東文化大学の外園隆監督だった。ふと会った際、「思うようにいきませんでした。自分では合わせてきたつもりなんですけど……」と相談すると、「チャレンジしなきゃダメだよ、小川は力があるんだから、いってみな」と力強い声かけをしてくれたと言う。

小川は「自分の中でうまくいかないとき、自信がなくなって、攻めの走りができなくなる」という弱さがあると自己分析している。しかし、外園監督が活を入れてくれたことで、チャレンジする勇気を思い起こした。それが関東インカレで見せたような積極的なレース展開につながった。「自分が思っていた以上の結果が出て、個人選手権よりかなりタイムもよく、まとめられたので、また調子が戻ってきているのかなと思います。少し自信になりました」

立教大学陸上部の女子長距離パートは、選手たちの自主性を大事にしている。女子駅伝監督はいるが、練習を見られる機会は限られ、小川は1年生の頃、先輩たちの姿を見て聞いて学んだ。上級生となり、今度は縁ができた駅伝強豪校の大東文化大との交流が続いている。

レース後、小川は優勝したサラ・ワンジル、3位に入った大東文化大の野田真理耶(3年、北九州市立)の3人でお互いをたたえ合った。2人はどんな存在ですか、と小川に聞くと「ライバルであり、仲間であり、頑張る原動力。苦しい時に『あの2人も頑張ってるから、自分も頑張ろう』と思えるような存在です」と答えてくれた。駅伝やレースでは正真正銘のライバルだが、アドバイスをくれたり、一緒に高め合えたりする大東文化大には「感謝しかないです」。

レース後、大東文化大の2人とたたえ合う

日本選手権の5000m出場をめざす

関東インカレで復調のきっかけはつかんだ。今度は7月の日本選手権で女子5000m出場を決めるために、申し込み資格記録の15分36秒切りをめざす。「ユニバは自分の実力不足でかなわなかったので、次は『日本選手権でしっかり走れる』というところを見せていきたいです」。もやもやを晴らした小川は、すでに次を見据えている。

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