大学スポーツを応援 「シャカカチ BOON BOON プロジェクト」誕生の裏側

大学運動部に対し、SMBCグループの三井住友銀行が総額1億円規模の資金援助などを行う「シャカカチ BOON BOON PROJECT」。採択された団体には、原則100万円の活動費が4年間提供されるという画期的な取り組みだ。2025年1月、一期生となる採択団体・22団体の活動が始まった。「文武両道」と、寄贈・恩恵を意味する「BOON」が冠されているこのプロジェクトはいかにして形作られていったのか? その裏側には大学スポーツを経験した担当者2人の「学生たちが成長する機会にしたい」という熱い思いがあった。
始まりは1本のメールだった
企業として広く大学の運動部をサポートできるような企画は考えられないか――。
「シャカカチ BOON BOON PROJECT」は、三井住友フィナンシャルグループ執行役社長グループCEO中島達の1本のメールから始まった。時は2024年1月。大学時代、運動部でラグビーに打ち込んだ中島社長は、前年10月に立ち上がった社会的価値創造推進部にその思いを託した。
背景には、大学で運動部を選ぶ学生が減っている、という近年の傾向があった。どの学校も学業との両立がより難しくなっているのに加え、物価高の影響で、金銭的な負担も大きくなっていた。
ただ、この時点ではどのように学生アスリートを支援するかは全くの白紙の状態。社長勅命のミッションを担うことになったのが、社会的価値創造推進部 推進グループ長の藤井俊成さんと、同グループの立石千尋さんだった(以下、敬称略)。もともと2人は、SMBCグループの中長期計画の中の基本方針の一つである、社会的価値の創造に向けた取り組みを、社内で推進する立場にあった。
魅力的な仲間と出会い、人としての幅が広がる

藤井と立石はともに大学運動部の出身。藤井はラクロス部に所属していた。高校までは本格的な運動部の経験はなく、「大した努力もしなければ、挫折もなかった」という。そんな藤井はラクロス部に入ってすぐに衝撃を受ける。「みんな頭はいいし、スポーツでも努力をしてきた人が集まっていました。コミュニケーション能力も高く、自分よりも深みのある人たちばかりだったんです」。
ポジションはゴールキーパー(ゴーリー)。至近距離で硬いゴムのボールが飛んでくる恐怖心とも戦いながら練習を重ねた。だが4年間、1度も公式戦には出場できなかった。それでも「途中でやめる選択肢はなかった」のは、ラクロス部の人たちが好きで、そこに所属していることが心地良かったからだという。
「何も誇らしい実績はありませんが、運動部に入って良かったと思っています。前向きに努力し、面白くて魅力的な人たちと出会ったことが、“自分はどういう人間なのか”と考えるきっかけにもなりました。人としての幅も広がった気がします。運動部という集団の中でどうやって自分という存在を意味のあるものにするか、を考えて行動していった結果、先輩からは入部当初から一番“キャラ変”したと言われました」
自身のうまくいかなかった経験が糧になった

一方、立石は「コックス」に憧れてボート部に入った。立石は後ろ向きにボートをこぐ漕手(そうしゅ)に対して唯一進行方向を向いて舵(かじ)取りを担当するコックスについてこう語る。「漕手が極限状態の中、ボートの上でただ1人、冷静かつ客観的に判断することができ、コーチ役も担うポジションです」。
1年間、漕手を経験した後、2年時より念願のコックスになったが、コックスとして船に乗る機会は少なかった。女子部員の数が減り、女子のチームが編成できなくなったからだ。正式な試合では、女子のコックスは女子のボートにしか乗れない、というルールがあった。
居場所がなくなった立石に手を差し伸べたのが、ボート部の監督だった。立石は監督の勧めで、ある都道府県代表チームのコーチとしてサポートに参加。そこで全国大会入賞という成功体験が得られた。その後は部内でもコーチとしての活路を見出し、最終的には全日本大学選手権の準優勝クルーのサポートコーチとして現役時代を終えることに。
「ボート部では、当初希望した道を進むことはできませんでしたが、回り道を経験できたことが、今も糧になっています。自分が思い描いたようにはいかない中で、練習では男子の船に乗ったり、コーチをしたりして、別の形で貢献する道を探す努力を続けたのも、大きな経験になりました」
応募することで疑似社会人体験をしてほしい
1本のメールから始まった「シャカカチ BOON BOON PROJECT」。藤井と立石は金銭的な支援にとどまることなく、SMBCらしさや、自分たち社会的価値創造推進部らしさを付加していくことを念頭に様々な企画を膨らませていった。
「私にこの企画をやらせてほしい」と手を挙げた立石と、「思い切ったことを徹底的にやってやろう」と意気込む藤井。企画内容を考える上で一つの軸になったのが、前述の2人の大学運動部での経験だった。
藤井は「僕たちはどちらかと言うと、競技的な成功をしたのではなく、人間的な成長ができたコンビなので、そういうことにもつながるものにしたい、という思いがあったのです」と話す。
そのためにも、このプログラムを通して、何を目指し、達成するには何が課題で、どういうアプローチをしていけばいいのか、という思考方法を学んでくれたら、と考えていた。「僕らが社会人になって学んできたことを学生時代から経験することで、成長できる機会になれば、と」(藤井)。
そこで、応募フォームを論理的な思考で体系的に整理しなければ書けないものにしたという。立石は「(1団体につき100万円の)資金を得るために、大人を説得してください、と。『今のあなたたちの団体の課題は何ですか?』『課題解決するためにどんなアプローチをしますか?』『そのアプローチに100万円はどう活用しますか?』といった項目に対し、それぞれ300文字ずつで書いてもらう形にしたのです」と伝えてくれた。
思考過程を見せてもらうことに意味があることから、「例えば」という具体例は徹底して示さなかった。
想定をはるかに超える応募が集まった
一方で、自分たちの意図していることを広く理解してもらうことも必要と、9月末にアンバサダーの1人である為末大氏によるオンライン説明会を実施した。
「視聴者が予想を大きく上回る350人くらいになりまして。リアルタイムで視聴者から質問を募集して、為末さんに答えてもらうスタイルだったんですが、だんだんとプロジェクトの趣旨を理解いただいた上での質問が出てくるようになりました。終わった後のアンケートでは『たとえ選ばれなかったとしても、みんなでいろいろ考えた過程そのものが部にとっての財産になる』というコメントもあり、ようやく自分たちの真意が伝わっている手応えが出てきました」(立石)
応募数を憂慮していた中、最終日が近づくにつれ応募は増えていき、結果的に総数は、想定をはるかに超える270件になった。
270件の内容は様々で、競技レベルも、全国優勝を狙っているチームもあれば、部員不足に悩んでいるところも。目標やアプローチ方法も多岐にわたった。社内の人間だけではなく、外部の有識者にも加わってもらい、その全てにしっかり目を通した。

こうして、「一次審査」を突破した団体とはオンラインによる面談を実施。「面談では書面にした内容をしっかりと言葉にできるか、見させてもらいました」(立石)。その後12月の下旬に、4人のアンバサダー(為末氏、伊藤華英氏、廣瀬俊朗氏、上地結衣氏)を含む選考委員による選考委員会を開催し、資金支援などのサポートをする22団体を決定した。
今年1月、ウェブでキックオフイベントが行われ、いよいよ「シャカカチ BOON BOON PROJECT」の第一期生が動き始めた。
とはいえ、まだ始まったばかり。藤井が「ここまでのプロセスを通じて、応募した団体が成長してくれたと感じつつも、もっと私たちにできることがあると思っています」と表情を引き締めれば、立石も「競技力でなかなか結果が出なくても他の活動に取り組んでいる場合や、ピュアに競技力で上を上をと目指す場合など、どんな団体の活動にも目を配ります。効果測定の方法も考えられればと思います」と続く。
大学運動部出身の2人は、これからも現役の運動部の学生に寄り添っていくと強く誓った。いよいよプロジェクトが幕を開ける―。
シャカカチ BOON BOON PROJECT
