日体大・フロレスアリエが400mと200mの二冠 急激に高まる注目度を力に変える

5月8~11日の4日間にわたって開催された関東インカレで、日本体育大学のフロレスアリエ(3年、東海大静岡翔洋)が女子1部400mと200mを制し、最優秀選手に選ばれた。5月3日の静岡国際女子400mで、2008年に丹野麻美がマークした日本記録(51秒75)を上回る51秒71を出した。注目度が急激に上がっている中、本人はそれを力に変えようとしている。
4月にふくらはぎを肉離れ「練習の一環」で学生個人へ
インカレは「対校戦」のため、タイム以上に順位を意識する選手が多い。女子1部で5連覇を狙った日体大のフロレスも、例外ではなかった。今大会は昨年9月の日本インカレで「二冠」をつかんだ400mと200mの他、4×100mリレーのメンバーにも選ばれていた。

まずは大会初日、3本のレースに出走した。400mの予選と準決勝、そして4×100mリレーの予選だ。ここでいきなり、静岡国際で見せた実力を発揮した。7レーンに入った400m準決勝で、大会記録更新となる53秒32をマーク。「外側のレーン(の選手に)ついていくイメージでした。前半(風が)追っていたので、その流れに乗って後半まで持ったらと思っていました」。タイムが表示されると、少し驚いたような表情を見せた。「55秒か、54秒後半ぐらいだと思っていたので、びっくりしました」。冬場からウェートトレーニングに本格的に取り組んできた成果を、いきなり見せつけた。
前年に続き、今シーズンも静岡国際からいい流れで来ているように見えるが、決してすべてが順調なわけではなかった。4月の競技会で100mを走り終えた後、ふくらはぎに違和感を覚えたために病院に行ったところ、肉離れと診断された。1週間後には学生個人選手権を控えており「とりあえず1週間は何もせず、100mと200mの練習の一環として出ると決めました」。ここでの走りが静岡国際につながったのではないかと、本人は分析している。加えて「走れない状態の時、ひたすらウェートをしまくっていたので、筋肉量が増えたんじゃないかと思います」。

マイルリレーメンバーの思いを背負った200m決勝
本人は今も、メンタルが強くないと自覚している。昨年の日本インカレで取材した際、「本当は走りたくない」と言い「早くゴールすれば、早く帰れる」という意識が気持ちを奮い立たせる一つになっていると語っていた。一冬を越しても、そこに大きな変化は見られなかったが、関東インカレ最終日に女子200mを制した後だけは、少し様子が違っていた。
「前日にマイルリレー(4×400mリレー)の予選で落ちてしまって、代わりに走っていただいた1年生や同期に対して申し訳ない気持ちでいっぱいでした。自分が走ってあげられなくて、本当に悔しい。『ここは私が絶対に1点でも多く持ち帰る』と心に決めたので、400mよりもリラックスして臨めました。マイルメンバーの思いを背負って、スタートラインに立ちました」

対校戦という性質上、加点が期待されるフロレスは多くの短距離種目に出場する。最も得意としているのは、もちろん400m。ただ本人は「できるだけ出たくない」と苦笑いしながら言う。「スタートの位置に立って、後ろを振り返った時に『ゴールはここか』と思って『うわ……』となっちゃうんです。200mだったらゴールが斜めの位置にあるので、見えないからいいんですけど、400mは『ここまで走らなきゃいけないのか』と思ってしまいます」
それなのに、400mに取り組む理由は何なのだろうか。400mの魅力は? という質問には、こう答えてくれた。「自分は向かい風の中の方が走りやすくて、400mだったら1周で風を感じることができるので好きです。特にラスト100mで向かい風になって、きつい中でも体を動かさなきゃいけないのが、すごく魅力的だと思います」。一般的には追い風を好むスプリンターが多いだけに、次の質問が出てこない報道陣を見透かし「でも、誰も共感してくれません」とフロレス。取材の輪は笑いに包まれた。

「もっと注目されるよう、すごい選手に」
日本記録を上回るタイムを出して注目度が急上昇していることは、メンタルへの影響がそこまでないようだ。「たくさんの人に支えてもらっていると考えたら、それも競技につなげられるんじゃないかと思います」と語り、むしろ自身の競技力向上につなげようとしている。「もっと注目されるように、すごい選手になろうと思いました」
レース前、自身のレーンに入って体を動かす際は胸付近をたたき、「とりあえずゴールしよう。帰るだけ、帰るだけ」と自分に言い聞かせている。「絶対に勝とう」という覚悟を持たないことでリラックスし、自分の力を最大限発揮することにつながっている。「スターティングブロックのところでも、横の選手が歩いてきたら見ちゃう」というぐらい集中力に欠けていたことが悩みで、「自分のレーンに集中する」という意味を込めて、顧問に相談した上でサングラスをかけて臨む。

現在の国籍はペルーだが、近々、日本国籍を取得した上で日本選手権に出場し、改めて400mの日本記録更新をめざす。取材での語り口は飾り気がなく、まさに等身大。話を聞いていると思わず引き込まれ、華があるスプリンターだ。
フロレスアリエの関東インカレ、レース内容
▽5月8日
400m予選 55秒15
400m準決勝 53秒32=大会新
4×100mリレー予選 4走
▽5月9日
400m決勝 52秒82=優勝、大会新
4×100mリレー決勝 4走
▽5月10日
200m予選 24秒11(+0.4)
▽5月11日
200m準決勝 23秒74(-0.1)
200m決勝 23秒26(+2.5)=優勝
