陸上・駅伝

特集:第104回関東学生陸上競技対校選手権

東洋大学・大石凌功 4継2位に涙、スマホのロック画面を変えられる時まで挑戦は続く

東洋大学のスプリンター・大石凌功は学生トップレベルにまで成長した(すべて撮影・藤井みさ)

東洋大学のスプリンター・大石凌功(3年、洛南)は、今もあのときの悔しさを胸に刻んでいる。昨年9月の日本インカレ男子4×100mリレー(4継)決勝。アンカーを務め、早稲田大学に0.02秒差で敗れた。38秒47のタイム自体は日本学生新記録だったものの、こみ上げてきた感情は優勝をつかみ取れなかった悔しさだった。

当時の感情を忘れたことはない。スマホのロック画面に日本インカレでの画像を設定し、部屋の壁にはあのときのゼッケンを貼った。「いま思い出しても泣けてくるんですけど、『なにくそ!』という気持ちで競技に取り組んでいます。いつでも思い出せるように、気持ちを奮い立たせられるようにしています」

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昨年9月に味わった4×100mリレーの悔しさを忘れたことはない

自分に厳しく、競技と向き合ってきた冬季

冬季の練習では、それまで以上に自分に厳しく、競技と向き合ってきた。短距離部門全体として、昨年10月~11月あたりは芝生の上を中心に走ってきた。タータンと比べるとフワフワしていて、地面からの反発をもらえない。「体もあんまり動いていない状態なので、自分でしっかり足を戻してこないと、うまく進めないんです。地面を蹴らずに、前に戻すというところのトレーニングはすごくできたと思います」

大石自身は、そこで1本1本の走りを丁寧にフィードバックする術(すべ)を身につけた。「同じ練習を与えられたとしても『どういうところに意識を置いて練習するか』とか、走った後は『今の1本はどうだったのか』を考えながら戻ってきて、次の1本に臨むようになりました。本当に細かい部分を改善してきたイメージです」。今シーズンは緊張すると体が固まり、肩が上がった走りになってしまうという悪い癖が修正され、手応えを感じていた。

4月の学生個人選手権は、冬場の成果が存分に表れた。予選、準決勝ともに組1着で順当に決勝へとコマを進めた。1学年先輩で、昨年のパリオリンピック日本代表の栁田大輝(4年、東農大二)は決勝を欠場。「栁田さんがいても『勝ってやるぞ』という気持ちでした。でも彼がいないからこそ、栁田さんから『絶対勝てよ』と言われていましたし、どっちにしろ勝たなければいけなかった」。プレッシャーを乗り越え、10秒19(+0.8)で優勝。7月にドイツで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズの日本代表にも内定した。

関東インカレ男子1部100m決勝には栁田大輝(中央)、成島陽紀(右)とともに東洋大勢は3選手が残った

関東インカレ男子1部100mは3位「まだまだ弱い」

2週間後の関東インカレも、状態は良かった。初日の男子1部100m予選で10秒14(+2.7)、翌日の準決勝は10秒10(+3.7)。いずれも追い風参考とはいえ、コンスタントに10秒1台を出し、栁田よりもタイムは良かった。「決勝は一緒に走ることになる。目標はタイムに関係なく、先着することです」と意気込んでいた。

決勝は得意ではないというスタートに課題を残し、リアクションタイムは栁田に続く2番目の0.131。「前半の40mぐらいで2mほどリードされてしまいました。後半は差を詰められている感覚があったので、そこはいいとして、やっぱり前半を改善しなきゃいけないですね。1mに抑えれば、後半には自信がある。一次加速からつなげる部分が、まだまだ弱いなと思いました」

栁田が9秒95(+4.5m)をマークしたのに対し、大石は10秒04で3位。10秒0台のタイムにも「自分的には追い風がちょっと吹けば、出せる感覚でいる」と満足はしていなかった。今後、9秒台を狙っていく上で「ある程度の感覚が体に染みついた」ことが収穫だった。

決勝は栁田(右)が9秒台をマーク、大石(左)は3着だった

2度味わった悔しさ、リベンジのチャンスはまだある

個人種目を終え、大石が残す今大会最終レースは4×100mリレーだった。「対校戦」のインカレは各チームとも、母校の誇りを胸に挑んでくる。東洋大は昨年の関東インカレで決勝進出を逃し、日本インカレは先述の通り、早稲田大に僅差(きんさ)の末に敗れた。今大会の東洋大は、3選手が100m決勝に残ったことで優勝候補の筆頭に挙げられた。大石にとっては昨年9月の雪辱を果たす格好の舞台でもあった。

しかし、結果は受け入れがたいものになった。中央大学に0秒12先着を許し、チームは2位。アンカーを任された大石はゴール後、悔しさをあらわにし、誰もいないミックスゾーン(取材のためのスペース)で一人、うなだれた。ショックは大きく、レース後の選手が着替えるためのテント内にいることができず、裏のベンチに座って下を向いていた。ゴール付近に戻ってきた2走の栁田が「大石、どこ?」と心配し、思わずこちらが居場所を教えてあげるほどだった。

今大会も4×100mリレーで涙をのんだ大石、まだ雪辱のチャンスは残されている

今年4継でリベンジするチャンスは、6月の日本インカレにまだ残されている。2度も味わってしまった悔しさを糧に、一昨年の日本インカレで優勝したときのように、再び4人が笑顔で記念撮影に応じる場面を見てみたい。スマホのロック画面を変えられる時まで、リレーにかける大石の挑戦は続いていく。

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