関学大・高嶋奨哉 ラストイヤーに4番を務めた名将の孫「チャンスで打てる選手に」

試合後のミーティングが終わり、集まっていた部屋を出て通路で立ち止まる。インタビューを受ける関西学院大学の高嶋奨哉(4年、智弁和歌山)に目線を送るチームメートたちが、冷やかし気味に笑顔で声をかけた。
「平常心やぞ!」「笑顔やぞ!」
仲間の言葉を受け、高嶋は照れくさそうに笑いながら言った。「自分、結構いじられキャラなんで……。でも、この雰囲気の中で楽しくやらせてもらっています」
プレーの幅を広げるため、冬は一塁も練習
高校時代、3年夏の甲子園で全国制覇を経験した。祖父は智弁和歌山の監督として通算68勝を挙げた名将・高嶋仁氏だ。その「高嶋氏の孫」として当時から話題を呼び、2021年の第103回全国高校野球選手権大会では「背番号5」をつけ、正三塁手として4試合に出場。準々決勝の石見智翠館(島根)戦ではレフトにソロ本塁打を放つなど15打数5安打。3割3分3厘の打率を残し、日本一に貢献した。

関西学院大に入学後は木製バットへの対応に苦しみ、1年目は関西学生リーグでの出場はなかった。2年になり、関西学生野球連盟に加盟する6大学の1、2年生が腕を磨く「チャレンジリーグ」に出場し、経験を積んだ。3年秋にようやくリーグ戦デビューを果たしたが、メインは代打だった。
大学ラストイヤーでスタメンに定着するには、どうすればいいのか。冬場の練習では首脳陣にアピールするべく、プレーの幅を広げることを心がけた。「チームにはよく打つ選手が多いので、自分も負けないようにと、まずはバッティングを磨いてきました。(3月の)オープン戦で結果を残せたので、自信を持ってリーグ戦に臨むことができました」
守備では本職の三塁だけでなく、一塁の練習にも取り組んだ。「両方やれることをアピールしたかった」と高嶋。オープン戦でもスタメンから両ポジションを守り、確実に経験値を上げていった。

自分の結果より、チームの結果
今春は最初こそ三塁で開幕したが、最終節を迎えるまでは「4番・一塁」が高嶋の定位置となった。本荘雅章監督は起用の狙いについて、「4番を打つというプレッシャーはあると思います。でも、高嶋はそれを受け止めてプレーできる選手。期待も込めて(起用して)います」と明かす。
高嶋は実際、最初はプレッシャーを感じていた。ただ、すぐに「打線の流れを見ていたらチャンスで回ってくることが多いので、〝チームの4番〟というよりはチャンスで1本を打てる選手を目指しています」と前向きに考えられるようになった。
第2節の同志社大学との2回戦では、走者を置いた場面で2度打席が回ってきた。高嶋は「打たなければ」と気持ちが前のめりになってしまい、バットで貢献できないまま試合を終えた。それでも次節の関西大学戦で、本荘監督は4番に起用してくれた。高嶋は期待に応え、1回戦は「もう、食らいつくだけでした」と2安打2打点。チームの中心打者らしい、たくましさが出てきた。

試合を重ねていくうちに、感じたことがある。
「フォアボールでもデッドボールでも、とにかくつなぐ意識が大事だと思いました。納得のいく結果が出なくても、それが点につながってチームが勝てたらうれしい。自分の結果より、チームの結果を考えるようになりました」
高校時代の方がプレッシャーは大きかった
高校時代、ともに全国の頂点に立った青山学院大学のエース中西聖輝や國學院大學の主将・宮坂厚希らは、大学でもチームの軸となっている。
「結構、みんなの活躍をチェックしています。『中西、すごいな』とか、『宮坂、調子悪いのは僕と一緒やな』とか(苦笑)。『宮坂とどっちが先にリーグ戦でヒットを打つかな』とか。そんなことを考えることもあります」
高嶋は各大学で活躍する仲間たちの姿に刺激を受けながら、バットを振り続けている。
「正直、木製バットに対応できている実感はありません。なかなか自分のスイングをさせてもらえないという面で、今も難しさはありますね。それでも周りのみんなが打ってくれるので、みんなの存在が頼もしいです。ただ、みんなが打てない試合では打てるような、そんな存在でいられたらいいです」
今は注目度や期待値をプレッシャーには感じていない。「と言うか、高校の時からプレッシャーの中で結果を出す大変さを感じてきました。高校の時の方が、今よりはプレッシャーは大きかったです」と控えめに笑う。

後輩たちはセンバツ準優勝「決勝まで行けるのはすごい」
この春、母校が第97回選抜高校野球大会で準優勝を果たした。高嶋はオープン戦の合間にチェックしていたという。「去年から高校野球はバットが変わって、自分たちがいた時のように積極的に振るスタイルは変わったのかなと思いました。でも、決勝まで行けるのはすごい」と後輩たちの活躍も力になっている。
残り少なくなってきた学生野球は、チームバッティングに徹する。
「自分が結果を出せるのが一番良いんですけど、打てなくてもアウトのなり方だとか、塁に進められる一打とか、そんな当たりを打っていけたらと思います。自分が打って勝てる試合が1試合でも多ければいいですが、チームが勝つことが一番です」
関学大ナインの中では今春、プレッシャーをパワーに変えている頼もしい中心打者が、ひときわ強い存在感を放った。その姿はもちろん、祖父の目にも映っていることだろう。

