アメフト

早大WR中原秀城 覚悟が表れたTDレシーブ「あと1yd」を積み重ねるプレーヤーに

中原はこれまでの3年間出場機会に恵まれなかったが、ラストイヤーにすべてをぶつける(すべて撮影・北川直樹)

早稲田大学アメリカンフットボール部ビッグベアーズは、5月10日に関西大学カイザーズとの定期戦を戦い、16-21で敗れた。昨年まで攻撃を指揮したQB八木義仁やWR入江優佑といった主力が抜け、再建に取り組むオフェンス陣で、ひときわ強い覚悟を持って臨んでいるのが、WRの中原秀城(4年、南山)だ。

相手ディフェンスとの競り合いを制してTDパスをキャッチ

先制したのは早稲田だった。第1クオーター(Q)11分にハーフライン付近からRBの長内一航(3年、早稲田実業)がインサイドゾーンをついて42ydの独走TDを奪った。その後、第2Qに関大がTDを返し、7-7の同点で前半を終えた。

第3Qに入り、関大がQB高井法平(3年、関大一)のロングパスからチャンスをつくり、高井が自らエンドゾーンに走り込んで追加のTDを挙げる。7点差を追う早稲田は、QBの船橋怜(4年、早大学院)がコーナーに走り込んだWR吉規颯真(4年、早大学院)にパスを決めて攻め込み、続いてフェードでエンドゾーンに駆け込んだ中原がCBに競り勝ってTDを追加。しかしトライフォーポイントのスナップが乱れ、13-14と1点のビハインドとなった。

その後は関大がランでTDを追加して21点に伸ばした。早稲田はフィールドゴールで3点を返して、試合終了。序盤は早稲田守備のフロントの生きの良さも目立ったが、徐々に関大のランユニットが力を発揮。ランプレーで早稲田の倍近い292ydを稼いだ関大が、ボールコントロールで優位に立った。

この試合で印象的だったのが、第3Qにフェードに飛びついてTDレシーブを決めた中原だった。

「マンツーマンの勝負が多いと思ってたんですけど、意外とそうでもなくて。もう少し楽に勝負できた場面もあったと思いますし、RAC(ランアフターキャッチ)も遅かった。反省点の方が多いです」

そう語る中原だが、CBとの競り合いを制して決めたTDレシーブは、まさに「結果を出す」という覚悟を体現するような気迫が見えた。TDしたときの気持ちについて聞くと、「うーん。まあまあですね、まあまあ」と言って、控えめに笑った。

第3Q、守備との競り合いに勝ってボールをキャッチ。マウスピースは「歯型タイプとおしゃぶり両方使ってます」

史上初めて関西学院高等部を破った南山高校時代

中原がアメフトを始めたのは中学生のとき。現在、慶應義塾大学でLBをしている倉田直(4年、南山)と、南山中で同級生になったことがきっかけだった。倉田の兄が同じ東海地区の海陽学園でアメフトをしていて、誘われる形でキャッチボールをして遊んだ。倉田はアメフトをすると決めていたので、中原も一緒にアメフト部に入ることにした。

中学の初めにQBをやった後、一度WRになり、高校に上がってからまたQBに戻った。1学年下には現在アメリカでプレーしている内川誠(フレイミングハム州立大学)がいて、ともにQBをした時期もあったが、高3ではWRとして内川のメインターゲットとなった。春の大会では、南山高校として史上初めて関西学院高等部を破る躍進もあった。「でもあの試合、僕は調子があまりよくなくて。勝ったのはうれしいですけど、正直悔しさのほうが大きいですね」と、打ち明ける。

関西や関東の強豪私立大学からスポーツ推薦の話もあった。でも「アメフトで大学に行く」のは違うと思った。進学校の南山高校は大学で競技を続ける選手が少なく、中原自身も名古屋大学を目指していたので、推薦の話はすべて断った。名大に合格することはかなわず、受かっていた大学の中で一番良いと感じた早稲田への進学を決めた。

ボールを受けてからは力強い走りで敵に当たりにいく。「審判にマウスピースをかんでないと勘違いされたときは、しゃべるポジション(QB)とそれ以外で使い分けてると説明しています」

入部当初は自分のファンダメンタルの低さを思い知った

「早稲田はアメフトで選んだわけではなかったけど、ビッグに入ることは入学を決めた時点で決めていました」と中原。高校で関学に勝っていたこともあって「やってやるぞ」と強い意気込みを持って入部した。しかし、現実は厳しいものだった。「自分のファンダメンタルのレベルの低さを思い知りました」。3年の秋まで、出場機会は全くと言っていいほど回ってこなかった。

昨秋、ワイルドキャット・フォーメーションのQBとして、ようやく出番が回ってきた。かつてのQB経験と機動力を買われ、本来のWRとは違った使われ方だった。

「WRでは、去年までずっと出られなかったです。吉規や高校未経験の松野(雄太朗、4年、早大学院)とかがどんどん伸びていく中で、僕は負けず嫌いなので、同期の活躍を素直に喜べない時期もありました。悔しかったです。でも、そこで腐らずに『どうすれば使ってもらえるか』を考えるようになったんです。僕の強みは『投げて、走れて、キャッチもできる』ところ。それを生かしてもらえるように準備してきました」

まだWRでレギュラーに定着したわけではない。でも、ようやく試合に出て、活躍できるようになってきた。

昨秋の全日本大学選手権準決勝、立命館大学戦ではワイルドキャットのQBで1プレー出場した

"接点で逃げない"新生早稲田のフィジカル改革

昨季の早稲田は、全日本大学選手権の準々決勝で関大に勝ったが、続く準決勝で立命館大学に力負けを喫した。中原はその敗戦を強烈な教訓として心に刻んでいる。

「フィジカルとファンダメンタルで完敗だったと思います。立命には小手先では勝てなかった。だから、今年は本当に基礎からやり直してます。パスルート、食事、筋トレ……全部です」

新たに荒木延祥ヘッドコーチ体制となった今年のチームは、特に〝接点で逃げない〟文化を根付かせようとしている。接点とは、主にラグビーで選手同士がぶつかり合う部分を指す。つまり、タックルやブロックといったコンタクトのことだ。昨年までは、この接点が課題だった。中原が言う。

「これまでは勝負しないといけない場面で、うまくかわして接点から逃げようとするのが、早稲田の悪い部分だったと思っています。でも今年はそこを根本から見直しています。コンタクトスポーツなんだから、ちゃんとぶつかって勝つ。そのマインドをチーム全体で作ろうと取り組んでいます」

局面で相手をかわすのではなく、日頃から泥臭く取り組み、1対1の勝負でしっかり勝ちきる。この姿勢が今年のチームのコアとなる。

WRリーダーに就任「全部で結果を出して、日本一に導く」

今年の中原は一人のWRとしてだけではなく、パンター、パントリターナー、そしてパートリーダーも務めている。元々はオフェンス全体のリーダーに立候補していたが、その座は同期に譲った。それでも「自分がやるべき役割はある」と考え、自らWRのリーダーに名乗りを上げた。

WRだけではなくパンター、パントリターナーも務める。「フットボールファッションはカレッジのスタイルを参考にしています」

「だからこそ、結果を出したいです。僕は人に対して結構言えるタイプなんで、パスユニットだけではなくチーム全体に要求していって、その分自分もちゃんとやりたいなと。潤平さん(宜本、WRコーチ)が本当に良い指導をしてくださってるので、それに120%で応えたいです。リーダーをやる以上、自分が先頭に立ってすべてをやり切って、チームを日本一に導きたいです」

レシーバーとしての自身の強みを問うと、迷いなく答えた。

「キャッチ力と、キャッチ後に倒れない粘りです。タックルをはがし、1人目には絶対に倒されないっていう意識を持ってプレーしてます。『あと1yd』を積み重ねるプレーヤーでありたいですね」

ラストシーズン。中原秀城は、これまでの悔しさも含め、すべてを背負ってフィールドに立つ。「全部で結果を出して、日本一に導く」。その言葉には、誰よりも試合に飢えてきた男の、本気の覚悟が込められていた。

この日はフラッグフットボールのジュニアインターナショナルカップ17U日本選抜(2022年)でチームメートだった岩井零(ニューメキシコ大学)が応援に駆けつけていた

in Additionあわせて読みたい