東北福祉大・新保茉良 退部撤回し花開いた"遊撃手3兄弟"の2番目、託された父の夢

野球を続ける最大の原動力は兄と弟の存在だ。東北福祉大学の新保茉良(しんぽ・まお、4年、瀬戸内)は今春から正遊撃手の座を奪い、仙台六大学野球リーグ戦でここまで打率3割(30打数9安打)、8打点をマーク。堅実な守備と勝負強い打撃で勝利に貢献している。すでに競技を退いた3歳上の兄・利於(りお)と仙台大学でプレーする2歳下の弟・玖和(くお)も遊撃手。茉良は尊敬する兄が果たせなかったNPB入りを目標に、「自分が新保家第一号のプロ野球選手になる」と意気込んでいる。
ライバル校の弟と言い合った「ベストナインは俺が取る」
4月12日、東北工業大学との開幕戦。茉良は二回、無死満塁の好機でリーグ戦初安打となる2点適時打を放ち、これが決勝打となった。「仙台大にいる弟と前日から『ショートのベストナインは俺が取る』と言い合っていたので、チャンスで1本打ててよかったです」。試合後の取材では自ら弟について言及した。
弟の玖和は昨年、同リーグのライバル校である仙台大に入学。1年春から遊撃のレギュラーに定着し、全日本大学野球選手権では2試合で計7打数4安打を記録するなど躍動した。

一方の茉良は3年時までリーグ戦出場がわずか1試合。遊撃のライバルは多く、直近2年間は中川壱生(現・王子)と島袋皓平(現・大阪ガス)が大きな壁として立ちはだかった。チャンスをつかめず、悔しさやもどかしさが募る中での弟の台頭。スタンドから見つめ、応援しつつも「なんで(弟だけ)出てんねやろ?」と焦燥感に駆られた。
それでもラストイヤーに向けてより一層意識を高め、毎朝のジム通いや地道なトレーニングに励み、開幕スタメンを勝ち取った。努力できた要因を問うと「正直、弟の存在が一番でかいと思います。最後は負けられへんなと」。弟が尻に火をつけてくれた。

兄との比較に悩み、誓った「大学に行って見返そう」
新保家のルーツは大阪府藤井寺市にある。「全員ショートでプロ野球選手になってもらいたい」との夢を抱く父・勝也さんに、幼少期から遊撃の守備をみっちり鍛えられた。自宅では3兄弟そろって毎日のように室内でゴロ捕りを行い、反復練習に明け暮れたという。
3兄弟とも中学で二塁手にコンバートされたが、高校からは遊撃一本。兄の利於は高校時代にプロからの注目を集める選手へと成長し、3年春には瀬戸内高の主将として選抜高校野球大会で選手宣誓の大役を務めた。その姿を甲子園で目に焼き付けた茉良は「かっこいいな。お兄ちゃんみたいになりたい」と奮い立ち、兄を追って瀬戸内高に進んだ。

高校では兄と比較される日々が続いた。打席で球審から「今のコースを三振していたらお兄ちゃんみたいにはなれないよ」と言われることもあった。「来る高校、間違えたな」。兄の背中が見えず、思い悩んだ。ただ、この時も「大学に行って見返そう」と劣等感を原動力に変え、プロ野球選手を多く輩出している東北福祉大で兄を超える選手になろうと心に誓った。

退部の決断を踏みとどまらせてくれた同期の言葉
大学では壁にぶち当たった。茉良は昨年までの3年間を「腐っている時間の方が長かった」と振り返る。「試合に出られへんならおもんない」と野球が嫌いになるほどだったのが2年春。練習を休んだり、早退したりした時期が1カ月ほどあり、ついには山路哲生監督に退部の意思を伝えた。
しかし、それを聞きつけた同期が退部を踏みとどまらせてくれた。中でも、現主将の仲宗根皐(4年、沖縄尚学)と現副将の櫻井頼之介(4年、聖カタリナ学園)からは「自分らの代になったら絶対にお前が必要になるから帰って来い」と何度も説得された。山路監督が選手たちに「あいつは辞めさせてはいけない」と話していたことも後から知った。
4年目にチャンスが巡ってくる。そう信じて退部を撤回し、再び野球に打ち込む毎日を送った。昨秋はベンチ入りを果たし、仙台大との優勝がかかる大一番では途中出場で弟と〝初共演〟。試合には敗れたものの、犠飛と安打性の当たりを飛ばし、翌年につながる経験を積んだ。今年は兄弟と同期に導かれて迎えた大学ラストイヤーだ。

「弟には負けられない」最終節で直接対決
24日からのリーグ最終節では仙台大との決戦に臨む。今春は両チームともここまで全勝で、勝ち点を奪った方が全日本大学野球選手権出場の切符を手にする。
茉良は「仙台大戦はあくまでも通過点。チームを日本一に導けるような選手になりたい」と先を見据える一方、「弟には負けられない。兄弟でありライバルでもあるので、楽しみながら戦いたいです」と闘志を燃やす。弟は今春、打撃不振に陥っており、助言を求める連絡が来ることもある。親身になって相談に乗るが、グラウンドに立てば最大の敵だ。
そして兄が野球を離れた今、父の夢は弟2人に託された。打撃も魅力だが、武器はやはり父から教え込まれた遊撃の守備。茉良は練習から「エラーしたらいけない」と自身にプレッシャーをかけて取り組み、試合では常に「自分のところに飛んでくる」と思いながら守っている。夢をつかむため、まずは日本一のチームの遊撃手になってみせる。

