ラグビー

特集:New Leaders2025

帝京大・大町佳生 5連覇目指す王者のスキッパー、フィールド内外でチームをGRIT

5連覇を目指す帝京大学の主将、大町佳生(すべて撮影・斉藤健仁)

昨季のラグビー大学選手権決勝で早稲田大学を33-15で下して13度目の優勝を飾った帝京大学ラグビー部。2009年度から2017年度の9連覇に続く、2度目の4連覇を達成した。

大学ラグビー界の常勝軍団となって久しい「紅き旋風」の新キャプテンに就いたのは、2大会連続で決勝の舞台に「12」番として立ち、冷静な判断と体を張ったタックルで優勝に貢献したCTB/SO大町佳生(4年、長崎北陽台)だ。

2シーズン前の大学2年時の決勝は、自身初だったこともあり「思いっきりプレーしようと思っていたが、勝たせてもらった感じがありましたね」。ただ、やはり初の日本一は格別だったという。昨季も主力選手として優勝に寄与した。大町がターニングポイントになったと感じたのは、昨年11月の関東対抗戦で早稲田大に17-48で負けた試合だったという。

「もともと力は持っていたと思いますが、早稲田大に負けたことで、自分たちにとって大事な練習をしたり、1回1回の練習の質を上げたりと見直すことができて、一つにまとまった」と笑顔で振り返った。

また「(前キャプテンのFL青木)恵斗くん(現・トヨタヴェルブリッツ)が変わったことも大きかった」という。「春はプレーで引っ張るタイプでしたが、シーズンが深まってくると、恵斗くんの言葉に重みがでてきて、話を聞く側も本気になっていきました」

試合中の冷静な判断が光る

「やり抜く力」を評価されてリーダーに

新キャプテンやリーダー陣は大学選手権決勝の後、2月に入ってから正式に決まった。ただ、その前から1カ月以上にわたって、新4年生の同期35人で集まって「今季、どういうチームにしたいかから入り、そのチームにふさわしいどんなリーダーが必要なのか」を徹底的に話し合った。

「昨季の大学選手権の決勝も最後に十数フェーズを守り切りましたが、フィールド外にもいろんな仕事があり、どれだけ粘り強くやり切れるか。そういったところをできるチームが最後に勝つのでは、という話になりました。そういったプレーがどこからくるかというと、私生活も含めて粘り強くやりきることだということになった」と大町は語る。

この1年、チームが大事にする言葉として「GRIT(やり抜く力)」を掲げた。そしてキャプテンも話し合いの末に、グラウンドに立つ機会が多く、目指すチーム像にふさわしいという理由で大町に決まったという。

本人は「チーム像、リーダー像を話す中で、僕への投票が一番多かった。僕もやりたい気持ちはありましたが、キャプテンになる覚悟や考え方は薄い部分もあったので、同期全員が本気で向き合って、話し合いを重ねた上で、リーダー陣を選ぶことができました」と振り返った。

「やり抜く力」でリーダーシップを発揮する

プレー以外の振る舞いでチームから信頼

過去2年間のキャプテンは強烈なフィールド上の個性があり、プレーでチームを引っ張っていた。大町はどんなキャプテンになりたいかと聞くと、「HO江良颯さん(現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、恵斗くんは個に力があり、フィールドの中で特別な存在でした。僕は彼らのように個人の力はない中で、どうやってキャプテンとして姿を見せるかと考えたとき、プレーもそうですが、プレー以外のところで面倒なことや苦手なことにもチャレンジして周りからの尊敬や信頼を得て、つながって一つになれたらいいな」と前を向いた。

相馬朋和監督に自身がキャプテンに選ばれたことを伝えると「4年生がどれだけ粘り強くやり切るか、本気で向き合えるかということが大事。そういった土台がしっかりしないと、秋になった時にほころびが出てくるから、真剣に向き合って同期と約束、誓いをかわしたらいい」とアドバイスをもらったという。

副将はCTB/WTB生田弦己(4年、御所実業)、FL/NO8吉田有吾(4年、小倉※寮長兼任)の2人が就いた。「僕が苦手なところや足らないところを補ってくれるような2人です。生田は誰に対しても厳しく言えるタイプで、吉田は常にエナジーを出してプレーで引っ張ってくれるタイプ。2人がバランスを保ってくれている」

当然、帝京大は今季も日本一、5連覇を目標に掲げる。大町はプレー同様に冷静に「先を見過ぎることなく、どの相手にもしっかり準備して目の前の試合をどれだけ全力でできるか。そして、一つの練習もどれだけ全力でできるかがすごく大事になってくる」と意気込んだ。

長崎生まれ、ラグビー3兄弟の末弟

大町は長崎県大村市出身で、海上自衛隊で働く父・克士さんの下、3兄弟の末っ子として生まれた。ラグビーは6歳ごろ、「性格がすごくやんちゃだった」ため保育園の先生に勧められて大村ラグビースクールに通い始めた。大町の後に、兄2人も続いた。

ラグビー以外は水泳をしていたくらいで、ずっと楕円(だえん)球一筋だったという。3兄弟とも高校は地元の強豪・長崎北陽台に進学して競技を続けた。長男・HO/FL和生は4つ上で國學院大學を経て現在は都内で働いており、次男・FL尚生は1つ上で現在、筑波大学4年だ。

ポジションは高校までが主にSOだったが、帝京大学に入ってからインサイドCTBとしてもプレーしている。ただ「リーグワンでやっていく上ではサイズ的(身長173cm)には10番もできた方がいいかな」と先を見据えている。

高校2年時、兄とともに出場した「花園」こと全国高校ラグビー大会でベスト8に入り、高校3年時はベスト16だった。「スキルやどうやったらスペースができるのか、パス一つでもタイミングが大事だと教えてもらったので、品川(英貴)先生の存在は大きかった」と振り返る。

ただ高校3年時は、コロナ禍の影響で高校日本代表の海外遠征が実施されず、高校日本代表候補同士がレッド(red)、ホワイト(white)の2チームに分かれて静岡・エコパスタジアムで対戦した。自身はレッドチーム(U19 Red Blossoms)のキャプテン兼司令塔として、チームを勝利に導いた。「海外に行きたかったのですが、日本代表ジャージーを初めて着ることができたし、すごくありがたかった」と感謝する。

高校日本代表候補同士の強化試合でRedのキャプテンを務めた

監督に直接誘われて進学

帝京大には相馬朋和監督に直接、誘われたこともあって進学を決めた。当時は教職も志望していたため、教育学部を選んだという。

ただ、大学1年時は大学選手権の舞台に立てず、5試合出場した対抗戦は、すべて控えからの出場だった。「帝京大のラグビーにコミットできていなかったというか、自分でひらめいたときに、周りの選手とつながることができなかった」と悔しそうに話した。

大学1年の終わりから2年にかけて、U20日本代表に選出され、キャプテンとして世界の舞台も経験した。大学2年の後半からインサイドCTBとしてチームにフィットできたのは「自分の役割だけに集中する、徹することで自然と良くなっていった」という。

具体的に12番としての役割を聞くと「仕事量としては10番と比べて少ないのですが、FWの周りをコントロールすることや、外側の選手とのつながりを意識しながら、つなぎ目として役割を明確にしてディフェンスなどをしたら、よりチームにコミットできるようになっていった。3年時は2年時よりも僕が12番に入ることで、チームがうまく回っていたかな」と胸を張った。

2月に、新キャプテンとなって読書量が増えたという大町。母方の祖父母が五島列島出身のため、趣味は海釣りだという。大学に入ってベンチプレスは30kg増の135kgを上げることができるようになった。個人としては「1対1のタックルの質をもっと上げたい」と話す。

ラグビー選手としての将来の目標は「日本代表になってワールドカップに出場する」こと。そのため大町は「自分に足りないところはたくさんあるので、常に上を見ながら、一つ一つ解決していきたい」。もちろん来年から、リーグワンの強豪チームで競技を続ける予定だ。

目標はワールドカップに日本代表として出場することだ

良い文化を残すことが常勝軍団につながる

改めて今季の目標を聞くと、「練習の質は絶対、日本一という基準を落としてはいけない。そこについてはチームで追求を続けたい。練習を全力でやることの繰り返しが、日本一や5連覇につながっていく。自分たちの代で優勝することは特別だし、すごくチャレンジになるが、絶対に負けられない」とまっすぐ前を向いた。

最後に個人として、どんな1年にしたいか聞くと、「試合に出ているとか出ていないとか関係なく、チームのために頑張って、最後に笑って終わることができたら、下の学年にも良い影響を与えて、良い文化を残すことができる。そうすれば、強い帝京大が続いていくと思うので、その第一歩になれればいいな」と笑った。

常勝軍団である帝京大キャプテンになったという特別プレッシャーや気負いは、あまり感じることがなかった。12番としての冷静なプレー同様、大町はピッチ内外で、キャプテンとしての責任、行動をまっとうすることでチームをまとめていく。

ピッチ内外でチームを引っ張る覚悟見せる

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