岡山大学QB木村悟 先輩から受け継ぐ赤いハンドグローブ、気迫のランで勢いづける

アメリカンフットボールの第37回瀬戸大橋ドリームボウルが5月5日、岡山・JFE晴れの国スタジアムで開かれ、第1試合で関西学生リーグ3部の岡山大学バジャーズが19-25で昨秋の中四国リーグを制した広島大学ラクーンズに敗れた。岡大のオフェンスリーダーで左投げのQB(クオーターバック)である木村悟(さとる、4年、京都府立洛北)は第4クオーター(Q)終盤、苦手のパスで一時は同点となるタッチダウン(TD)を決めた。
タイミングを修正して決めたTDパス
13-19の第3Q終盤、広大のファンブルをリカバーし、ゴール前34ydと絶好のフィールドポジションから岡大のオフェンスが始まった。クオータータイムを挟み、QB木村の果敢なランでゴール前13ydへ。この日併用された2年生QBの橋村宗磨(長崎県立島原)が得意のパスを投じたが決まらず、ゴール前1ydからの第4ダウンを迎える。中央付近のランに出たが、広大ディフェンスが最前線を割ってきて止められた。

ここから広大オフェンスは自陣40ydまで進み、1ydを残してギャンブル。春の試合だけに練習の意味合いもあったのだろう。ここでパスに出て失敗。岡大は再び敵陣40ydと最高のポジションからのオフェンスとなった。QB橋村が3本のパスを決め、木村と交代。左にロールアウトしたのでそのまま走るのかと思いきや、2人のラッシュを受けながら左腕を振り下ろす。WR(ワイドレシーバー)の牛尾太郎(3年、兵庫県立兵庫)にパスをヒットし、ゴール前4ydに迫った。
RB(ランニングバック)に持たせて2yd進んで第2ダウン。左右にRBを置いてショットガンに構えた木村は右のRBにボールを渡すふりをして、右からスラントで入ってきたWR西岡隆哉(4年、西大和学園)に投げ込む。相手のマークを外した西岡がボールに飛び込んでTD。よほどうれしかったのだろう。木村は何度も飛び上がり、ほえた。

ただトライフォーポイントはホルダーの木村がスナップをはじき、キックはできず。19-19の同点どまりとなった。第1QにもTD後のキックを失敗していて、このあたりは大きな課題になったことだろう。最後の最後に広大にTDを許し、「サヨナラ負け」の格好になった。
木村は例のTDパスについて、こう振り返って笑った。「今日の試合の中で一回やってミスしてたパスだったので、投げるタイミングを修正したことで決められました。投げるのは苦手なんですけど、あそこで決まってよかったです」
「大学行ったらアメフトせえよ」と言われて育った
京都で生まれ育ち、小学校から野球に取り組んだ。京都市左京区にある府立洛北高校では、3年の夏の京都大会初戦の2回戦でシード校の城南菱創を12-7で下し、3回戦も強敵の京都外大西に善戦したものの、1-4で負けた。外野手だった木村は足のけがで1打席だけ出番があり、二塁ゴロに倒れた。「足が速い方だったんで、試合に出るときは2番でセーフティーバントで勝負するタイプでした」
幼いころからアメフトとの接点はあった。母方の叔父が龍谷大平安高校でアメフト部のコーチをしており、その人の息子であるいとこは龍谷大学でアメフトの選手だった。だからずっと「大学行ったらアメフトせえよ」と言われて育った。最初はそれが嫌だったが、いつからか「アメフトっておもしろそうやな」と思うようになった。

農学部志望で距離的には近い京都大学を考えたこともあったが、「なかなか無理で」と岡山大の農学部に興味を持った。1年生で幅広く学び、専攻を絞っていくスタイルに心がひかれた。
現役で合格するとアメフト部の新歓に行ってみた。「人数を集めたいんやろうなとは感じましたけど、それを差し引いても親身に接してくれる先輩ばっかりで、『ここなら一番大学生活を楽しめるな』と思って決めました」
外野手をやっていたぐらいだから、飛んでくる球を捕るのは得意だ。レシーバーを志望して、1年生から試合に出た。先輩はみんな攻守両面で出られるように練習しているが、当時の1年生は片面生活が許されていて、レシーバーに専念できた。試合でも活躍できて、このままパスキャッチを磨いていきたいと思っていた。
チーム事情で2年からQBに転向
2年生になると、チーム事情から野球経験者である木村にQB転向の声がかかった。この春でQBになって3年目。いまだにパスに自信が持てないという。「投げ方をいろいろ教わってはみるんですけど、なかなか定まらないというか。無理やり投げてるという感じです」。投げるのが苦手だから、QBだけは両面生活を免除されていることにも少し申し訳なさを感じている。「たいした選手じゃないのにオフェンスしかやってなくて……。その分、練習中からいろんな形でチームを盛り上げていこうと思ってやってます」

ただ、学生ラストイヤーを迎えて吹っ切れた気持ちも芽生えている。「人には得手不得手がある。パスも何とか頑張りながら、僕は得意の走りを生かせるQBになります」。小学生のときにタグラグビーをやっていた時期があり、そこで相手をかわして走っていく中で、足が速くなっていく実感があったそうだ。アメフトでも走って前へ前へ突っ込んでいくときにこそ、自分らしくできているという実感が湧く。「QBランが進めば、ウチのチームは点が取れるっていう雰囲気になります。だから自分の走りで流れを作っていきたいです」
好きなQBはNFLベンガルズのジョー・バローだ。「すごくきれいなフォームで投げるし、『ザ・QB』って感じで風格があって冷静で、でも自分で持ったらエンドゾーンに突っ込んでいく。そういうとこがカッコいい。イケメンですし、憧れてます(笑)」
1ydでも前へ、前へ
バジャーズは昨秋、関西学生3部Bブロックで5戦全敗し、入れ替え戦で勝って何とか4部転落を阻止した。今年の目標について木村は「勝ち越し」と言った。「僕らのチームは小さいけど、ラントレや筋トレの成果を出して押し勝って、1ヤードでも前へ進むオフェンスを繰り返していきたいです」
ボールを投げる左手は素手だが、右手には赤いハンドグローブを着けている。聞けばQBの先輩から受け継いだものだそうだ。「同じハングロを使って、先輩の気持ちも受け継げたらと思って」。岡山のジョー・バローは泣かせるセリフで取材を締めくくった。学生最後の秋シーズン、バジャーズの7番がガンガン突っ込んでいく姿を見に行こう。

