引退しても陸上好きでいてほしい!東日本実業団選手権シニア1500mに思いを乗せて

今回の「M高史の陸上まるかじり」は第67回東日本実業団陸上競技選手権大会のお話です。今年は5月23~25日に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉)で開催されました。M高史も25日に行われたシニア男子1500mに出場しましたので、リポートいたします。
過去には駒澤大学・藤田敦史監督も優勝
東日本実業団選手権は実業団選手、社会人選手のための大会です。ここから世界を目指す選手もいますし、男子のニューイヤー駅伝や女子のクイーンズ駅伝、プリンセス駅伝に出場する選手も多数出場する熱い大会です。一般種目の他、シニア種目があるのも魅力で、男子は35歳以上、女子は30歳以上が出場資格となっています。
僕がシニア種目の存在を知ったのは、マラソンの日本最高記録を出されるなど大活躍された藤田敦史さん(現・駒澤大学陸上競技部監督)が、現役引退した後、2013年のシニア1500mに出場し、優勝された姿を動画で拝見したことがきっかけでした。その頃から実は目標にしており、僕にとっては今年で4度目の出場となりました。
年々シニア種目の人気も高まり、男子1500mは2組によるタイムレースに。女子1500mも例年より多い7人が出場しました。
シニア種目は、昨年まで優勝していた選手もうかうかできません。男子は35歳以上、女子は30歳以上の選手たちが同じ土俵で戦うため、加齢とともに年々フレッシュなライバルが登場してきます。そういったことも楽しめる雰囲気があるのも、シニア種目の魅力です。
国語の先生が大会新記録をマーク!
まずはシニア女子1500mです。大会記録保持者の黒田なつみ選手(GRlab関東)が3連覇中ですが、今大会はスタートから飛び出した石川里奈選手(GRlab関東)が4分42秒58の大会新記録で優勝を飾りました。高校時代は全国高校駅伝にも出場。ブランクを経て7年前から本格的にランニングを再開され、高校時代の自己ベストをはるかに更新する4分31秒76までタイムを縮められました。中学で国語の先生をしている石川選手。今年は勤務先の学校の運動会と初日にあった一般女子1500mの日程がかぶってしまい、シニア女子1500mにエントリーされたそうです。

「コンディションも万全ではなかったですが、招集で他の選手と話をしていたら、皆さん何かしら不安を抱えていて、『同じ状況なんだから弱気ではいけない』と思いました。『走るなら目指すは自己ベスト』という気持ちで、目標通り72秒で入り、その後ラップは落ちてしまいましたが、序盤から攻めの力強い走りができたと思います。走り終わった後は、お互いをたたえ合い、和気あいあいとした雰囲気でした。レースから解放されたことで言葉数も笑顔も増えました。今回のタイムは自己ベストからかけ離れたものでしたが、優勝(大会新)は純粋にうれしかったです。今後は4分30秒切りを目指して、現状打破していきたいです!」
昨年のホクレン・ディスタンス士別大会でマークした自己記録の4分31秒76には及ばなかったものの、終始独走での優勝でした。「学校の生徒たちにも良い報告ができます」と笑顔も見られました。
2位には黒田なつみ選手が4分53秒96で続きました。4連覇はかないませんでしたが、得意のラストスパートで順位を上げてきました。黒田選手は約4時間後に行われた一般女子5000mにも出場し、実業団選手に先着するなど、タフな走りを披露されていました。
4分57秒87で3位に入ったのは反町愛選手(熊谷陸上教室)。埼玉栄高校OGで実業団を経験後、しばらくブランクがあったそうですが、育児が落ち着いた後に再び走り始められたそうです。数十年ぶりの実業団選手権、復帰後初めてとなる4分台での表彰台です。中学生の娘さんも陸上部で1500mをしているそうで、現在の走力は同じくらいとのこと。親子で切磋琢磨(せっさたくま)できるのも素晴らしいですね!

6位となった富永ゆかり選手(笠松走友会、旧姓・石澤さん)は実業団選手時代、3000mSCで2度の日本選手権優勝やアジア大会日本代表などといった実績を残されてきました。引退後、現在は育休明けで仕事に復帰したばかり。1歳2カ月の息子さんの育児や仕事などで、分刻みの毎日を送られています。「仕事の昼休みに20分ほど走ったりしていました」と隙間時間を見つけ、なんとかスタート地点に立つことができました。「人生をかけて速さを追求する陸上も好きでしたが、育児と仕事でドタバタな生活の中にある陸上も、なかなか楽しいなって思えました!」と笑顔でお話しされました。

7位の小川美菜選手(TTA)は東京大学大学院の時、4years.で取材をさせていただいたことがありました。関東大学女子駅伝に大学院チームとして史上初の出場を果たした際、東大院チームを牽引(けんいん)されていました。仕事をしながら走る時間を確保する難しさを感じながらも、シニア種目に出場されている先輩方から刺激を受けられたそうです。

シニア男子1500mの1組目は、まさかのハイペースに
続いて男子1500mです。以前より参加人数が増えたことで、昨年から2組に分かれてのタイムレースとして行われるようになりました。過去2年間の資格記録で速かった選手が2組目、そこに入れなかった選手が1組目となります。M高史は1組目でのスタートとなりました。
1組目の資格記録は4分20~30秒台の選手が並びました。よくマラソンや駅伝で「1km3分」という実況を聞くと思いますが、そのペースで走りきると1500mが4分30秒になります。「そのペースで42.195kmを走破してしまうんだ」と思うと、改めて驚きと尊敬の気持ちが湧きますね!
スタート後から大きく飛び出したのは柱欽也選手(警視庁)。ニューイヤー駅伝への出場経験があり、資格記録は持っていませんでした。1人だけ段違いの走りをされ、4分01秒60の好タイムでぶっちぎりの1着となりました。

2位グループは100m以上離されてしまいましたが、ラスト勝負にまでもつれこみ、M高史は4分27秒07の2着でフィニッシュしました。駒澤大学の恩師・大八木弘明総監督が「ラスト150m!」とよく選手に檄(げき)を入れられている姿を拝見していましたので、ラスト150mから現状打破。恩師に感謝です。またレース中は名前で応援してくださるのが、本当にありがたくて、うれしかったです。
1組では60歳になられる窪田俊郎選手(ピッツキューブRC)も出場され、5分08秒61で走られました。還暦を迎えても1kmを約3分25秒ペースで走破されたわけです。窪田選手は保善高校時代にインターハイ1500mで4位、5000mは2位、10000mは優勝と全国でご活躍。その後は実業団選手としても活躍され、現在はピザ職人をしながらランニングチームの代表もされています。

2連覇中の金塚洋輔選手が牽引した2組目
1組で思わぬ好記録が出たことで、続く2組で優勝や表彰台を狙っている選手にとっては、作戦や戦略が変わってきたことでしょう。
この種目で2連覇中なのが金塚洋輔選手(K-project )。大東文化大学やHondaで活躍され、現在はK-projectの代表もされています。M高史と同い年の選手です。金塚選手は序盤から先頭を引っ張り、1周目の入りは62秒。ハイペースで進みました。中盤にややペースが落ち着き、1000mを2分45秒で通過。1組目の柱選手のタイムを上回るのが厳しいペースとなってきました。
終始先頭を引っ張ってきた金塚選手に代わって、熾烈(しれつ)な先頭争いに。福田幸太選手(NINE TOCHIGI)が1着、池澤暁選手(JAちば東葛)が2着で、ほぼ同時にフィニッシュ。正式タイムはともに4分05秒53で、写真判定での決着となりました。
結果的に1組目でトップとなった柱選手が、シニア男子1500m優勝という結果になりました。スポーツに「もしも」はありませんが、1組目から好記録が出ていなければ、2組目のレース展開も変わっていたかもしれません。そこがタイムレースの面白さでもありますね!

競技に打ち込める時間が限られてきても……
レースが終わると「また来年も会いましょう!」とお互いの健闘をたたえ合い、激闘をねぎらい合う雰囲気も、シニア1500mの好きなところです。仕事、家庭、自身の体のコンディションなど、年齢を重ねるとともに競技に打ち込める時間は限られてくるかもしれません。そんな中でもスパイクを履いて、トラックで全力を尽くす。「青春している!」という雰囲気から、年々シニア1500mのエントリー数も増えているのかなと感じています。
「来年はM高史さんに負けませんよ!」と声をかけてくださる方もいて、うれしいですね。現役選手の皆さんは引退後も陸上を好きでいてほしいなと思いますし、今回シニアに参加された選手のお子さんが、陸上部で走っているという話もよく耳にします。親御さんが一生懸命チャレンジされている姿って、きっと輝いて見えると思います。というわけで、今回は東日本実業団選手権シニア1500mをリポートさせていただきました。
