早大・前田凌吾「体育館に行くのもつらかった」1週間を経て、たどり着いた会心の1本

2025年度 春季関東大学男子1部バレーボールリーグ戦
5月24日@日本体育大学健志台キャンパス
早稲田大学 3-1 明治大学
(26-24.25-22.22-25.25-20)
5月24日の最終日まで3校が1敗で並び、激戦となった春季関東大学男子1部バレーボールリーグ戦。制したのは、最終戦で明治大学との1敗対決を制した早稲田大学だった。
昨シーズンの秋季リーグは全勝優勝を飾ったものの、春の王者は2年ぶり。セットカウント3-1で勝利し、歓喜する選手たちの輪の中で、主将の前田凌吾(4年、清風)は安堵(あんど)の笑みを浮かべた。「この1週間、ほんとにしんどかったので、まずは勝ててよかった、というのが一番でした」

「絶好調」の黒鷲旗から一転、苦しんだリーグ戦
高校時代、前田は1年からレギュラーセッターとして出場を重ね、1、2年時は春高で3位になった。パス能力と遊び心を武器にしたトスワークで世代を代表するセッターとして活躍。早稲田大入学後も高校と同様、1年時からレギュラーセッターとして経験を積んできた。
大事な試合で敗れれば「自分のせいで負けた」と涙し、先輩たちに励まされてきた。そんな前田も最終学年を迎え、キャプテンに就任。麻野堅斗(3年、東山)や小野駿太(2年、聖隷クリストファー)、徳留巧大(2年、松本国際)といった多彩な攻撃陣がそろうチームの柱として、絶対的な存在だ。ただ、初めて早稲田の「背番号1」を背負って臨んだ春季リーグの終盤、前田本人は苦しんでいた。
リーグ戦中に開催され、Vリーグやクラブチーム、高校も出場した黒鷲旗全日本バレーボール選抜大会で優勝した。前田はMVPも獲得し「絶好調だった」と振り返ったが、連戦の中で知らず知らずのうちに疲労が積み重なり、多くの後輩たちがコートに立つ中で「自分がやらなきゃいけない」と考えすぎたことが、逆に重荷となった。

顕著に表れたのが、5月17日の中央大学戦と翌18日の東海大学戦だった。
サーブで攻め、レシーブが崩れてからも思い切ってハイセットを打ち抜いてくる中大のスタイルに押され、フルセットの末に春季リーグ初黒星を喫した。翌日の東海大戦も、中大同様に攻めてきた相手に1セットを先取される苦しいスタート。最終的にセットカウント3-1で逆転勝利を収めたが、セッターは第2セットから前田に代わり、瀬川桜輝(1年、東北)が投入された。
前田に憧れて早稲田大への入学を決め、「凌吾さんに助けてもらって自分のプレーができた」と語る瀬川にとっては、自信をつかむロングリリーフになった。だが、一方の前田は、やや縮こまった印象のトスワークしか発揮できない。自分自身の不調を誰よりも理解していた。
「トスを上げていても、全然上がっていないのがわかるし、どうにかしなきゃと思うのに抜け出せない。こんな感覚、初めてです」

不調を脱するため、支えてくれた仲間たち
主将としてチームを鼓舞しなければならないとわかっていても、調子が上がらず、気持ちは沈む。「正直に言えば、この(最終戦までの)1週間は体育館に行くのもつらかった」と前田は吐露する。ただ、自分が下を向くわけにはいかないこともわかっていた。
やるのは自分なんだから、この状況を抜け出して絶対に結果を出さないといけない。まずはトスの感覚を取り戻すべく、必死に練習した。
そんな前田を支えたのが、同期や後輩、仲間たちだった。
トス練習を始めれば、同期の梶村颯汰(4年、安田学園)とアナリストの小川唯(3年、岐阜)が球出しを担い、最後まで付き合ってくれた。指から伝わる感覚に加え、前田の心を再び奮い立たせたのが、リベロの布台聖(3年、駿台学園)からかけられた言葉だった。
「『凌吾さんのプレーができていないわけじゃないし、全然いいんだから、自分のバレー、自分のプレーをすればいいだけでしょ』って。交代した試合でも、僕がコートを出てから聖がずっと引っ張ってくれた。今シーズンは自分だけでなく、チーム全体としてコミュニケーションを深めることを1つ、テーマにしているので、普段から後輩たちとも積極的に話すようにしているんですけど、コートの中でも外でも、このリーグでは聖にめちゃくちゃ助けられました」

下を向きかけたとき「救われた」松井泰二監督の言葉
そして迎えた明治大との最終戦。優勝という結果を追い求めるだけでなく、まずは思い切って、自分らしさを発揮する。さらにもう1つ、前田は自身に課したことがあった。
「仲間を信じてトスを上げる。下級生が多いチームですけど、みんな(トスを)上げれば打ってくれる選手ばかり。とにかく信じて、最後まで上げ続けよう、と思って臨んだ試合でした」
試合序盤から「(相手の)ブロックを振ることができた」と振り返るように、1、2セット目は理想に近いトスワークを披露することができた。2セットを連取し、勝利まであと1セットと迫ったところで、第3セットは明治大・黒澤孝太(4年、明大中野)の強打が立て続けに決まり、失った。やや下を向きかけた前田に、松井泰二監督が声をかけた。
「凌吾、笑え。自分らしさ、自分を信じて、自分の良さを出すだけだぞ」
その言葉に前田は「救われた」と明かす。1年時から重責がかかるポジションで起用し続けてきた松井監督にも、前田の苦悩は伝わっていた。
「本来の凌吾らしさはとんがっていて、やんちゃなところでもあるんですが、今の彼はいい子になろうとしすぎて、良さが出ていなかった。だから『自分を信じてやったほうがいいんじゃないか』と声をかけました。4年生でキャプテンになって、いわゆるキャプテンとしての姿を考えて、『そうならないと』と考えていたのかもしれませんが、凌吾には凌吾のキャプテンとしてのスタイルがある。彼らしさを出しながらも、スパイカーを信じて、打ちやすく、決めやすい状況をつくってあげる。それが試合の中でもわかってきていると感じますし、成長しているな、と思いますね」
2-1で迎えた第4セット、早稲田大は序盤から小野のサービスエースや徳留のスパイクで先行。幸先いいスタートを切る中、前田にとって会心の1本は8-4でリードした状況から、ラリーの末に川野琢磨(1年、駿台学園)がライトから放ったバックアタックだったという。
「近いところじゃなくて、あえてファーサイドを使った。ああいう攻撃が自分の持ち味だし、トスの感覚もセレクトも含めて、決まった瞬間、『来た!』って思いました。本当にうれしかったし、自分はみんなに支えられている、って。心から思うことができました」

「打倒早稲田」に対して、はねのける強さを
優勝を決めた最終戦は「バレーボールを楽しむ」という原点に立ち返っただけでなく、別の喜びもあった。明治大で主将を務める近藤蘭丸(4年、東福岡)としびれる状況で戦えたことだ。
高校時代から切磋琢磨(せっさたくま)してきた同期のセッターと、大一番で戦えるめぐり合わせに「ワクワクした」と前田は笑った。
「お互い4年なので、春リーグはこれが最後。試合前には蘭丸も声をかけてくれて、2人で話をしたし、リスペクトしている相手で、誰よりも負けたくない。一番のライバルで、いてくれることで自分も成長できるし、戦えるのがうれしい。また頑張ろう、って自然に思えました」
今後の東日本インカレや秋季リーグ、全日本インカレでは〝春の覇者〟早稲田に勝利すべく、どのチームも攻めてくることは目に見えている。だからこそ、前田は誓う。
「自分の良さを磨くことが、チームをより良くすることにつながると思うし、プレーだけじゃなく、笑顔で走り回ったり、練習もしっかりやったりする姿を見せる。もっといいチームにしていきたいし、打倒早稲田で向かってくるどんな相手に対しても、絶対受けずにはねのける強さを持ちたいです」
前田凌吾は悩み、もがきながら成長を遂げる。支えてくれる仲間や、刺激し合えるライバルとともに。

