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近畿大学QB小林洋也の「空白の一年」 ラストイヤーに人生変えた先輩を追いかける

甲南大学戦で自ら投じたパスの行方を見る近畿大学QB小林洋也(中央の6番、すべて撮影・篠原大輔)

5月24、25の両日は神戸・王子スタジアムに関西学生アメリカンフットボールリーグ1部の8校が集まり、交流戦4カードがあった。昨秋のリーグ戦で4勝3敗と同率4位だった近畿大学キンダイビッグブルーは、昨年12月の入れ替え戦で1部復帰を決めた甲南大学レッドギャングと対戦。雨の中で37-7と快勝した。近大のエースQB(クオーターバック)となった小林洋也(ひろや、3年、大産大附)は、昨秋もエースとしてオフェンスを引っ張るはずだった。しかし急成長を見せた先輩にその座を奪われた。小林に「空白の一年」について聞いた。

先輩と併用されたルーキーイヤー

5月24日の甲南大戦。先発で出た小林は第3クオーター終盤までプレーし、28-0の状況で2年生のQB須田隆介(追手門学院)と交代した。小林は18回投げて7回の成功で155ydをゲインし、3タッチダウン(TD)を決めた。走っては8回で50ydのゲイン。雨ということもあって思うようにパスが決まらず、小林は試合後に「課題がいっぱい見つかりました」と振り返った。

小学生のころ、京都リトルギャングスターズでフラッグフットボールを始めた

京都で生まれ育った小林は大阪の強豪である大産大附属高校に進み、3年時にはエースQBとしてクリスマスボウルに進出。同期には関西学院大学のWR(ワイドレシーバー)小段天響や関西大学のDB(ディフェンスバック)吉田優太、LB(ラインバッカー)東駿宏らがいた。11年ぶりの高校日本一をかけて佼成学園(東京)と戦い、27-30で敗れた。

近大に進んだ2023年の秋シーズン、小林はいきなりチャンスをつかんだ。2学年上のQB勝見朋征(近大附)と併用で起用されたのだ。そしてシーズンが深まるにつれ、近大オフェンスにおける小林の存在感が高まっていた。大学最初のシーズンを終え、彼自身が「この調子で来年は自分がエースで出る」という思いになっていたのも自然なことだった。

しかし状況が一変する。昨年の春、チームにQBコーチとして平本恵也さんが加わった。日大時代にQBとして甲子園ボウルでも活躍し、富士通で外国人QBのバックアップを務めながら経験値を積み上げ、日大のヘッドコーチにも就いた人だ。平本さんは近大オフェンスのスキームを大きく変えた。2年生になった小林には「そうじゃないやろ」との思いがあった。一方で学生ラストイヤーを迎えた勝見は素直に、貪欲(どんよく)に平本さんの教えを吸収していった。春シーズンの当初は全体練習でQBに入る回数は半々だったが、勝見の出番が増えていった。グングン成長していく勝見の姿に、小林は焦った。

アップセットを演じた昨秋の関大戦でパスを投げる近畿大学のQB勝見朋征

17年ぶりの関大戦勝利で「完全にやられたな」

秋のシーズンを前に、近大はエースQBを勝見に決めた。リーグ初戦の京都大学戦では5点を追う試合残り1分19秒、勝見が逆転のTDパスを決めた。そして2戦目の関西大学戦は「乱打戦」となり、35-31で制した。勝見は3本のTDパスを決め、ランでも94ydを稼いだ。近大が秋のリーグ戦で関大に勝つのは17年ぶりだった。小林が振り返る。「勝見さんが活躍し始めて、めちゃくちゃ悔しかった。『ふん』って感じやったんですけど、関大戦は僕もほんまにサイドラインでめちゃくちゃ勝見さんを応援して、あの日で『完全にやられたな』と実感しました」

最終的に4勝3敗の同率4位で終わったが、近大の変身ぶりと勝見の躍進が強く印象に残るシーズンだった。今年から勝見はXリーグの強豪であるオービックに加わり、いきなりチャンスを与えられて大活躍している。2024年はまさに彼が自分の力でフットボール人生を変えた一年だった。

プレーだけでなくリーダーシップの面でも、小林にとって勝見はいいお手本だ

「これからもずっとライバル」と言った先輩

小林にとってエースとして独り立ちするはずだった2024年はサイドラインにいる時間がルーキー時よりも長くなり、「空白の一年」となってしまった。勝見が4年生になってから成長した部分について、小林に尋ねた。「全部なんですよね。ディフェンスを見る力もカバーをリードする力も、スロー自体の力も。正確性もそうです。ランはもともとエグかったんですけど、パスがよくなってさらにランが武器になった。めちゃくちゃ尊敬したし、ほんまにカッコよくて、こんな風になりたいって心から思いました」

近大時代に勝見は同期のQBだった庄中大智と小林の名前を挙げて、「自分としては庄中と洋也には一回も勝ったと思ったことはない」と言っていたそうだ。そして小林に「これからもずっとライバルやし、洋也も頑張ってな」と告げて社会へと出ていった。

強い日大に、近大のエースQBとして挑む

小林は自身の構想から一年遅れて、近大のエースQBとなった。「ほんまにやっと思いっきり試合ができる日が来たって感じです。できることはまだまだある。一つはもっとリーダーシップを出していかないと。QBだから、もっと発言もしないと。勝見さんはリーダーシップもめちゃくちゃあったんで、僕もそこをまねて、もっと引っ張っていかなあかんと思ってます」。そして小林は言った。「毎年がラストイヤーです」と。

6月1日には東京・アミノバイタルフィールドで日本大学有志の会と戦う。戦力がベールに包まれてきた日大だが、公開された5月18日の法政大学戦で41-0と大勝し、一気に注目が集まっている。小林にとっても、これ以上ない見せ場がやってくる。

試合後に1学年後輩のQB須田隆介(右)と。小林は彼を「アグレッシブに走れるようになってきた」と評する

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