法政大・相澤デイビッド 6年ぶりの天皇杯に導いた遅咲きFW、刺激をくれる兄と後輩

身長196cm、体重94kgの〝重戦車〟のような体格に、ストライドの大きな走り。足元の技術も一級品で、ポジショニングも巧みな法政大学のFW相澤デイビッド(4年、日本文理)は、まるでアーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)のようだ。しかし昨年までリーグ戦ノーゴール。いかにして覚醒したのか。
明治大学との決戦、攻めあぐねても打開
法政大を6年ぶりの天皇杯出場に導いたのが、相澤だった。5月10日、味の素フィールド西が丘。東京都サッカートーナメント決勝で、チームは明治大学と激突した。今季はこの時点でともにリーグ戦無敗。試合序盤は相澤と小湊絆(3年、青森山田)の強力2トップ擁する法政大が圧倒した。
8分、2トップをマークする明治大両CBのギャップを突く形で先制すると、23分にはショートカウンターから相澤が準決勝に続くゴールを決め、突き放した。後半はハーフタイムに3選手を交代した明治大が、一気に流れをつかんだが、反撃は1点止まり。2-1で勝った法政大が、天皇杯への切符を手にした。
相澤は小湊を生かすプレーはもちろん、攻めあぐねた後半もフィジカルとスピードを生かして打開。決定機を作り続けた。

一朝一夕ではない"覚醒"の要因
今でこそ強烈なインパクトを残している相澤だが、ずっとサッカー界の表舞台で育った存在ではなかった。ガーナ人の父と日本人の母の間に、6人きょうだいの第3子として誕生。東京で育ち、高校は新潟の日本文理に進んだが、3年間選手権の舞台にはたどり着けず。ポテンシャルを評価されて入学した法政大でも、下級生時代は順調ではなかった。
1年時の5月、関東大学リーグ戦にデビューしたが、定位置を確保することはできず、昨年もわずか3試合の出場に終わった。青森山田高校から〝スーパールーキー〟として入学してきた小湊がすぐに頭角を現し、2年でFC東京への加入内定を勝ち取る一方、相澤自身はBチームが主戦場。ただ、大学ラストイヤーの開幕戦で1年ぶりのスタメンを勝ち取ると、初ゴールを挙げ、そこから7戦4発。東京都トーナメントでも準決勝、決勝で1ゴールずつを決め、ついに才能を開花させた。
覚醒の要因は何か。本人は「何かを変えたから急にというわけではない。積み重ねたものが現れ始めたのが、今年の初めごろだった」と語る。一回り、二回りのスケールアップを求めてきた3年間が、身を結んだのだろう。
相澤の強みは高さと強さ。一方「身長が高い選手は足元の技術が高くないことが多い。自分はそこに目を向けて、足元でボールをさばく時も、ただボールを守るだけじゃなくて、相手が食らいついたら入れ替わってはがしてから前を向けるような技術を身につけてきた」と細部にもこだわっている。さらには、そのフィジカルを十二分に生かすコーディネーションにも注力してきた。
「デカくて速かったら、もう止められないと思うので、そこは意識的に磨いてきましたね。それもただ走るだけじゃなくて、切り返しのステップワークや動きのうまさも意識してきました。あとは空間認知のところで、間接視野でボールをとらえながら敵を見て動くトレーニングもしました。高い相手がバランスを崩しているタイミングで当たってきたらやりづらいと思うので」
恵まれた体格を輝かせる素地を整えたことが、覚醒の要因と言えそうだ。

小湊絆を参考に、磨きをかけたポジショニング
相澤には、刺激を与えてくれる存在が2人いる。1人目は3歳年上の兄、GKの相澤ピーターコアミ(栃木シティFC)だ。高校卒業後にプロ入りしたが、2021年のJリーグ合同トライアウトで接触プレーにより頭を強打。中心性脊髄損傷の大けがを負った。それでも昨季、栃木に加入すると、ベストイレブンに選出される活躍で優勝に貢献。今季もチームの守護神を務めている。
そんな兄とは頻繁に連絡を取っているようで「兄はけがをした時にサッカーを続けるという決断をしてから、信念を持ってやっている。結果を出している姿を見て、自分も頑張らなくてはいけないと思わされます」と語る。自身もJリーグ入りを果たすことができれば、GK対FWの兄弟対決を見ることができるかもしれない。

もう一人は小湊だ。早くから注目を浴び、チームのOBで日本代表FWの上田綺世(フェイエノールト)とも比較される。「ツナ(小湊)は性格的に我が強くて守備とかあまりやらないって思われがちですけど、守備でも攻撃でも常にいいところにいるんです。相手のパスコースの切り方や詰め方もうまいですし、攻撃でも相手が嫌なところ、ボールがこぼれてくるところにいる」
相澤が小湊を参考にして、磨きをかけているのがポジショニングだ。「相手のDFがボールと自分を同じ視野に入れられないようなポジショニングや、DFラインが高い時は相手の頭が止まっているところを狙うように意識しています」。東京都トーナメント決勝でのゴールも、相手CBの背中から一気にスピードを上げて前へと走り込み、ワンタッチで合わせた。後輩からの学びが、ストライカーとしての存在感を押し上げている。
5月25日の天皇杯初戦、J3のザスパ群馬戦では、法政大がボールを保持する時間が長く、球際やデュエルでも優位に立ったが、後半終了間際にゴールを決められ、初戦敗退に終わった。相澤は「60点の出来。PA内でボールに触る回数を増やすことや決定機を作るという役割を果たせなかった」と不完全燃焼の様子だった。「プロで活躍するためには、攻守にわたって連続的に動く回数を増やすことが必要。レベルが上がれば上がるほど、動き出しでの駆け引きが増える」と課題も浮き彫りとなった。
この冬はJリーグのクラブからキャンプ参加への誘いがなかった。だが、現在は複数のクラブから練習参加のオファーが来ているという。怪物FWとしての第一歩を刻んだ相澤が、Jリーグの舞台で暴れ回る日もすぐそこに迫っている。
