立命大・柳井綾音 競歩と出会い「人生変わりました」日本インカレを起点に世界で勝負

第94回 日本学生陸上競技対校選手権大会 女子10000m競歩決勝
6月6日@JFE晴れの国スタジアム(岡山)
優勝 柳井綾音(立命館大4年)44分18秒02=大会新
2位 石田さつき(武庫川女子大3年)46分14秒57
3位 中島橙子(早稲田大2年)46分19秒75
4位 斉藤茅音(順天堂大4年)46分53秒09
5位 奥野紗(関西大1年)46分57秒21
6位 中村綾花(日本体育大4年)46分58秒86
7位 藤田真美加(早稲田大4年)47分06秒79
8位 杉林歩(大阪大院2年)47分15秒23
6月6日の日本インカレ2日目に開催された女子10000m競歩決勝で、昨年のパリオリンピックにも男女混合競歩リレーに出場した立命館大学の柳井綾音(あやね、4年、北九州市立)が、44分18秒02の大会記録で優勝した。大学で国内トップクラスの選手に成長し、国際大会の経験も積んでいる柳井。ただ、日本インカレで優勝するのは初めてのことだった。
アジア選手権20km競歩から10日後のレース
韓国で5月27日に行われたアジア選手権20km競歩を1時間33分15秒のタイムで4位に入った柳井だったが、「不完全燃焼のレースだったので、まだ足にちょっと余裕が残っていました」と振り返る。とは言え、日本インカレ決勝はその10日後。帰国してから6月に入るまでは「完全休養」に充て、練習では一切歩かなかった。最近になってようやくテンポを上げるストロールに取り組み、この日を迎えた。

レースには35人が出場。スタート直後から柳井に加えて、金沢学院大学の谷純花(3年、富山商業)、武庫川女子大学の石田さつき(3年、大津商業)、早稲田大学の中島橙子(2年、前橋女子)の4人が抜け出し、後ろとの差を広げていった。「自己ベスト更新をめざして、最低目標として大会新記録を考えていました」と柳井。自己ベストの43分49秒85は、自身が昨年マークした日本学生記録でもある。
ほどなくして一人旅となり、6000m付近からは少しずつ苦しさを感じるようになった。「これをもう1回しないと、記録を更新できないんか」と思い始めてしまったが、「でも、自分はこの4年間、いろいろなことを積み重ねてきた。悔いが残らないように出し切ろう」と自らを奮い立たせ、最後は持ち前の笑顔でゴール。右人さし指を突き上げ、スタンドからの応援に応えた。

インカレ特有の良さは「応援」
アジア選手権では、歩く姿勢が良くなく「動きがはまらない」ところがあったという。そこで女子の長距離パートを指導する十倉みゆきコーチから、エクササイズの「ジャイロトニック」を勧められ、帰国後に1度だけ通ってみた。効果はすぐに表れ「おなかに力が入ったことで、骨盤も立つようになって、前に進むようになりました。体をほぐすトレーニングでもあるので、腕振りもだいぶ改善することができたと思います」と柳井は実感している。
レース後の柳井に、世界の舞台を経験している立場から見たインカレ特有の良さを尋ねると、「応援かなと思います」と即答した。「チームメートがこんなに応援してくれるレースは、インカレしかないです。ずっと『綾音コール』をしてもらって。こんなに綾音って呼ばれたのは初めて。『仲間のために頑張ろう』という気持ちが一番強いレースなので、好きです」
中でも苦楽をともにした同期で、今季は主将を務めている土屋真琴(4年、興譲館)には感謝の念が尽きない。「今日もタイム取りをしてくれて、ずっと声をかけてくれて……。つらい時も結構あったんですけど、その時も支えてくれたのが土屋で、いい仲間です」。チームメートへの思いを口にすると、涙がほおを伝った。

駅伝メンバー入りも「狙っている」
高校3年の時に「ちょっとかじる」ぐらいで競歩を始めた。立命館大には駅伝で優勝することを夢見て進み、ルーキーイヤーは全日本大学女子駅伝と富士山女子駅伝の両方を走った。一方の競歩は大学入学時、駅伝ほど前向きだったわけではない。ただ、「実際に出てみると、やっぱり楽しい」。U20世界選手権10000m競歩で銅メダルを獲得、日本インカレで4位と好成績を収め、翌年はブダペストで開催された世界選手権20km競歩日本代表にも選ばれた。そして昨年はパリの大舞台も歩いた。
競歩と出会ったことで、ご自身はどう変わりましたか、と質問すると「人生が変わりました」と答えてくれた。「立命館で駅伝を走って優勝することが、私の陸上人生最後でもいいなあと思ってたんですけど、今こうして『世界大会に行きたい』と思えるのも、競歩のおかげ。見る世界が変わったなあって思います。今はこんなにベラベラしゃべってますけど、もともとは全然しゃべれなくて。国際大会に出場させてもらったり、社会人の方と関わらせてもらったりする中で、学ばせていただいています」

ということは、今はもう競歩一本なんですか? と重ねて聞くと「いや、走ってます。(駅伝も)私、狙っているので」と笑顔で話してくれた。招集所からトラックに入ったら、一番前に出てスタートラインまで走る。レースを終えたら、流しの意味も込めてトラックの外側を走る。この二つが柳井のルーティンだ。
ワールドユニバーシティゲームズで優勝を
7月には、ドイツで開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズ女子20km競歩が控えている。柳井は中国で開催された2年前にも出場し、6位に終わった。「今回こそ優勝というところを目指して、2年前の悔しい気持ちを挽回(ばんかい)させたいと思っています」。これまでの世界大会は「ずっと出るだけの試合」になっているだけに、ここで結果を残すことが、今後の競技生活を続ける上での自信につながると考えている。

