陸上・駅伝

特集:第94回日本学生陸上競技対校選手権大会

日本女子体育大院・島野真生が女子100mハードル学生新 大学院で「精神的に成長」

女子100mハードルで日本学生新記録をマークして優勝した日本女子体育大学院の島野真生(すべて撮影・藤井みさ)

第94回 日本学生陸上競技対校選手権大会 女子100mハードル決勝(-1.8m)

6月7日@JFE晴れの国スタジアム(岡山)

優勝 島野真生(日本女子体育大院2年)13秒02=日本学生新、大会新
2位 本田怜(順天堂大院2年)13秒12=大会新
3位 髙橋亜珠(筑波大3年)13秒35
4位 福井有香(立命館大2年)13秒494
5位 星場麗羽(天理大4年)13秒499
6位 安井麻里花(青山学院大4年)13秒56
7位 髙見冬羽(福岡大4年)13秒57
8位 髙嵜桃花(東京学芸大4年)13秒77

6月7日の日本インカレ3日目にあった女子100mハードル決勝で、日本女子体育大学の島野真生(院2年、東京)が日本学生新記録となる13秒02(-1.8m)をマークして優勝した。ただ、本人が「心のどこかで期待」していたのは12秒台。優勝の喜び以上に「ちょっと残念な気持ち」が上回った。

【写真】日本学生記録・大会記録の更新も続々! 第94回日本インカレの主役たち

ライバル以上に「過去の自分自身との対決」

前日の予選は13秒69(-0.8m)、9日午前にあった準決勝は大会記録更新となる13秒15(+1.0m)でいずれも組1着となり、決勝へと駒を進めた島野。学生日本一を決める頂上決戦は6レーンに入り、左隣の5レーンには前の日本学生記録保持者、順天堂大学の本田怜(院2年、牛久)がいた。

本田は昨年の日本インカレチャンピオンでもあり、島野は「彼女がいることで、自分も頑張れるところが大きい」と同学年のライバルとともに高め合ってきた。ただ、直接対決については意識していなかった。「自分自身の走りができて、彼女もそれができて勝敗がつくという感じなので。彼女との対決というよりは、過去の自分自身との対決だなと思います」

隣のレーンには、お互いに高め合ってきた順天堂大学院の本田怜が入った

決勝は序盤の飛び出しが得意な本田を4台目あたりでとらえた。体一つ分ほど前に出て優勝のゴール。ただ、速報表示で13秒台と知ると、上を向いて悔しそうな表情を見せた。「決勝は思い通りの走りができれば、12秒9の後半は行くかなと思っていたので『もうちょっとだったなぁ』という気持ちの方が大きいです」と振り返った。

「自分のレースに徹することはできた」

走っている間、向かい風は感じなかった。「自分のレースに徹することはできたので、あとは後半のところですね」。もともと自身の弱点は、スタートから中盤までだと感じていた。ただ、最近はそれが逆になり「後半はスピードに耐えきれなくなって、力を加えられずに軽く走ってしまうところがある。力を加えて走れるようになったら、そこ(12秒台)も見えてくるかなと思います」

具体的には7~9台目あたりで「力が逃げてしまっている」と感じている。「最初は『グッグッグッ』と踏んでいけるんですけど、それが後半はやさしくなっちゃう感じがします。『速く動かそう』ということに意識がいきすぎてしまって、気持ちだけが『サササッ』といってしまう感じがあります」。レース後半の感覚は、練習で改善することがなかなか難しい。日本選手権など、今後控える大事なレースでは「自分の中でしっかりと覚悟を決める」。これから約1カ月間で、少し落ちてしまった筋力を取り戻し、基礎的な部分をもう一度見直して、大一番に臨む。

ゴールした後は、天を仰いで悔しそうな様子を見せた

日体大時代は「言われたことをやっているだけだった」

島野は日本体育大学に在籍していた頃、1年目の日本インカレでいきなり優勝した。このとき2位だったのは、昨年のパリオリンピック日本代表で当時立命館大学4年の田中佑美(現・富士通)だった。2年時は3位、3年時は決勝に残れず、4年時に自身2度目となる優勝を飾った。日本女子体育大学の大学院に進み、昨年は3位。

「普段はあんまりメダルを見ないタイプなんですけど、今回はちょっと振り返ってみて『金、銅、金、銅』ときていたので、『今年は金だったらいいなぁ』と思っていました。その通りになったのは、うれしいです」

大学を卒業後、環境を変えて競技継続を決めたのは、短距離コーチを務める大橋祐二氏の存在が大きかった。「大橋先生とお話をさせてもらって、大橋先生のもとでトレーニングをしていきたいと思いました。日体大の大塚(光雄)先生がつないでくださいました」

日本体育大学在籍時もインカレを制し、卒業後は日本女子体育大学の大学院へ

日体大時代は「先生から言われたことをやっているだけだった」と振り返る。「頑張ってはいたんですけど、『大学生として』頑張れていたかというと『違うな』と」。今は指導陣に頼らず、1人で試合に行くこともある。恩師と電話すると、大学院1年だった昨年は「今が大学1年生だね」。今年も「今は大学2年生だね」と言われる。「大学院生活は今年で終わってしまうんですけど、これから大学3年生、4年生をやるつもりで、もっと自主的に動きたいと思います」と誓う。「周りの人からしたら、ちっぽけなことかもしれないですけど、自分自身にとって精神的に大きな成長点だと思います」

日本選手権は「学生としてファイナルに残る」

決勝の前日は、外がガヤガヤしていたこともあって、よく眠れなかったと明かす。当日午前の準決勝を終えた後は、一度睡眠を挟んでリフレッシュした状態にして臨んだ。「張り詰めた緊張感の中でやった方がいいかなと思うこともあるんですけど、睡眠を入れてリラックスした状態で走るということも、今シーズンは試しています。先生はいつも肯定的な発言をしてくれて、私がすることに対して『いいんじゃない?』と言ってくださいます」。小さなことかもしれないが、これも自分で考えて行動に移した一つなのだろう。

12秒台のタイムを持つ選手たちがひしめく国内の女子100mハードル界。「偉大すぎて、自分がその隣に並ぶのは絵空事のように感じてしまう」と謙虚に語る島野だが、「学生としてファイナルに残る」という大きな野望は持っている。周囲に惑わされず、自分を信じた日本インカレのような走りができれば、目標達成の可能性は十分にある。

レース後、自身が出した日本学生新記録のタイムとともに記念撮影

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