早大・山口智規が日本インカレ1500m・5000mで二冠「チームのために」を力に

第94回 日本学生陸上競技対校選手権大会
@JFE晴れの国スタジアム(岡山)
6月6日 男子1500m決勝
優勝 山口智規(早稲田大4年)3分40秒46
2位 兵藤ジュダ(東海大4年)3分42秒13
3位 大場崇義(城西大2年)3分42秒18
6月7日 男子5000m決勝
優勝 山口智規(早稲田大4年)13分40秒06
2位 シャドラック・キップケメイ(日本大3年)13分42秒32
3位 平島龍斗(日本体育大4年)13分42秒84
6月5日から8日まで開催された日本インカレで、早稲田大学の駅伝主将を務める山口智規(4年、学法石川)が1500mと5000mの二冠を達成した。1人で16点を稼ぎ出した山口。レース後に彼が口にする言葉からは、「チームのために」という気持ちが強く感じられた。
強さを見せたレース運びで2冠達成
山口はまず、1日目の1500m予選2組に登場。2着に1秒以上の差をつける独走状態で予選を通過すると、2日目の決勝に臨んだ。順天堂大学の大野聖登(3年、秋田工業)、環太平洋大学の前田陽向(4年、洛南)、東海大学の兵藤ジュダ(4年、東海大静岡翔洋)ら実力者がそろう中、山口は1周目を過ぎると先頭へ。2周目、3周目は400mを56秒で回るハイペース。前田が山口について走ったが、ラスト1周となったところでペースを上げて前田を突き放した。独走の形になり、ガッツポーズでゴールした。

そして3日目の5000mは、序盤から創価大学の小池莉希(3年、佐久長聖)が飛び出す展開に。山口は第2集団の中で走り、徐々に位置取りを前方に進めた。3000m手前で小池は集団に吸収され、中央大学の三宅悠斗(1年、洛南)が先頭に。その後ろに日本大学のシャドラック・キップケメイ(3年)、駿河台大学のスティーブン・レマイヤン(3年)、山口と続き、残り2周となったところでキップケメイとレマイヤン、日本体育大学の平島龍斗(4年、相洋)が前に出た。
残り600mで外から小池が先頭に出ると、山口もついていく。残り1周手前で山口は後ろを気にしながらペースを上げて抜け出し、その後ろにキップケメイがついたが、山口は追いつかせず。ラストの直線で勝利を確信するとまずガッツポーズ、次いでバックスタンドにいる応援団にもガッツポーズ。最後は両手をしっかりと握りしめ、雄たけびを上げながらフィニッシュラインを駆け抜けた。応援団は「紺碧の空」を歌って山口を祝福した。

個人の名誉よりも、チームのために
まず率直な気持ちを……と問われた山口は「もううれしくて。早稲田のお家芸でもあるマイルリレーが予選落ちしてしまったので、それをカバーできるようにと思って、優勝を狙ってレースに臨みました」と口にした。
1500mと5000mの二冠。大きなタイトルだが、「自分の1位という結果、個人の名誉よりも、チームの(インカレ)総合優勝に向けて貢献したいという気持ちが大きかったので、二冠よりも8点と8点の最大のポイントを2つ取れたことが一番うれしいです」という。
仲間が「紺碧の空」を歌ったことは、やはり特別なものがありますか? とたずねると「そうですね、初めて歌ってもらったので。いつも歌う側だったので、(聞こえた時に)一緒に歌おうと思うぐらい、臙脂(えんじ)の団結っていうのはやっぱりすごいものがあるなと思います」と感慨深げだった。

連戦への疲労はあったが、目の前のレースに集中することしか考えていなかった、という山口。最後はキップケメイとの一騎打ちになると考え、どのタイミングでいくかを図っていた。「ラストのスプリントになったら分があると思っていました。キップケメイくんも強かったですが、ラストの前に少しでも差があったら行けるなと思っていたので、思い通りのプランで走れました」
駅伝で培ってきたスタミナを最大限発揮できれば、ラスト1周も50秒台前半で走れるという手応えはあった。レースの中で、ラストに限らずどのタイミングで100%を出そうかと考え、イメージ通りにいけたと話す。
強い後輩に受けた刺激と学び
山口は早稲田の主力として、2年、3年とすべての学生3大駅伝に出走してきた。なぜ今回、10000mではなく1500mに出たのかを問われると、これまでの取り組みを振り返って話した。
「やっぱり3年目のシーズンがうまくいかなかったというのが一番大きいです。2年目はトラックと駅伝を分けてやっていたところが良かったんですけど、その年の(箱根駅伝)2区がうまくいってしまった(1時間6分31秒で区間4位)ことで、1年中2区のことを考えながら練習に取り組んでいて、結果的にトラックシーズンがうまくいきませんでした」

今年は箱根駅伝のあと、オーストラリアの合宿にも行き、トラックで活躍することに重点を置いてきたと話した。また、鈴木琉胤(1年、八千代松陰)と佐々木哲(1年、佐久長聖)の2人のスーパールーキー、学生ハーフを制した工藤慎作(3年、八千代松陰)の活躍が、自分の取り組みを見直すきっかけにもなった。
2区のことを考えていた時は、「疲れていても練習しなくちゃ」という思考に追われていたが、彼らは自分の体と向き合いながら、休むべき時はしっかりと休んでいた。「僕もそこを学んで、思い切って休むこともするようにしました。練習をやらなくちゃいけないという使命感に追われるんじゃなくて、走りたいときに走るということを念頭に置くようにしました」。取り組みと意識を変えたことで、好結果につながったことをうかがわせた。
このあとには7月の日本選手権への出場を予定している。「そこは自分のキャリアとして大事なレースなので、自分のためのレースができるように準備していきたいと思います」。3位以内を狙えたら、という気持ちだったが、「うまく2勝してしまったので、上方修正してもいいのかな」とも言う。「あまり欲張らずに、何より今年は陸上を楽しみたいと思っているので、あまり自分に期待をかけすぎずにやりたいなとは思います」

トラックシーズンのあとに見すえるのは駅伝シーズン、そしてチーム15年ぶりとなる箱根駅伝総合優勝を目指す。「箱根駅伝の総合優勝は本当に欲しいので、そのための夏にしたいです。自分を磨くのもですが、僕が何かできることなら最大限力を注いでいきたいなと思っています」
駅伝主将として覚悟を持ちながらも、「陸上を楽しむ」とも口にした山口。強烈な個性の集まるチームで、学生最後の1年に頂点を目指す。
