陸上・駅伝

特集:第94回日本学生陸上競技対校選手権大会

順天堂大・永原颯磨が日本インカレ3000mSC優勝「楽しく自分らしく」を思い出し

ゴールし、笑顔で「1」を掲げる永原(すべて撮影・藤井みさ)

第94回 日本学生陸上競技対校選手権大会 男子3000mSC決勝

6月8日@JFE晴れの国スタジアム(岡山)

優勝 永原颯磨(順天堂大2年)8分35秒25
2位 小野真忠(東海大2年)8分36秒75
3位 キプゲノ・ケネス(札幌学院大1年)8分37秒23
4位 ソロモン・ムトゥク(創価大2年)8分38秒17
5位 辻昂介(順天堂大2年)8分43秒04
6位 山﨑颯(順天堂大4年)8分43秒39
7位 山口月暉(日本大4年)8分43秒71
8位 緒方快(関東学院大4年)8分48秒67

6月8日の日本インカレ最終日、男子3000mSCで順天堂大学の永原颯磨(2年、佐久長聖)が優勝した。高校時代には3000mSCでインターハイ優勝、8分32秒12の高校記録をマークするなど活躍してきた逸材が、大学2年目にしてこの種目でインカレ初出場初優勝と結果を残した。

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残り1000mで前に出て勝ち切る

レースには18人が出場。順天堂大からは永原、山﨑颯(4年、埼玉栄)、辻昂介(2年、拓大一)の3人がエントリー。スタートするとすぐに集団は縦長となり、序盤は金沢学院大学の金森柊弥(2年、佐久平総合)や山﨑らが集団を引っ張った。永原は集団の中ほどでレースを進め、徐々に位置取りを前に進めた。

1000m手前で創価大学のソロモン・ムトゥク(2年)、札幌学院大学のキプゲノ・ケネス(1年)が前に出ると、その後ろに順大勢3人と東海大学の小野真忠(2年、仙台育英)がついた。次第にムトゥク、ケネス、永原と後続の差が開き出し、残り1000mを過ぎたところで永原は先頭に立った。

徐々に永原と後ろの留学生2人との差が開き出し、残り1周で永原はさらにペースアップ。ペースを落とすことなく水濠とハードルを越え、「1」を掲げてゴールした。5位には辻、6位には山﨑が入り、順天堂大はこの種目だけで15点を獲得。総合優勝に大きく貢献する形になった。

順大勢は3人全員が8位以内に。インカレ総合優勝に大きく貢献した

順天堂大は昨年の日本インカレでも男子総合優勝を成し遂げた。連覇に向けてチーム一丸となって臨んだ試合で、出場した3人も「少しでも自分たちの種目でポイントを稼ぐ」ことを第一の目的としていたという。

「かみ合わない」もどかしさの中でも強みを生かして

永原は今季、4月の金栗記念で8分29秒35の学生歴代10位をマーク。しかし5月のゴールデングランプリでは8分49秒99に終わり、出場14選手中12位だった。自己ベストは更新したものの、レース自体はなかなかかみ合わないと感じ、考え込んだりネガティブになってしまったりしたこともあるという。

「それでもまだまだやれることはあると思うので、自分の強みや課題を明確にしていこうとゴールデングランプリの後から臨みました。でも、やっぱりこの期間だとなかなか課題を改善して、伸ばすことはできないので、しっかり自分の強みを生かした走りをしようと考えたレースでした。それができたのは良かったと思います」。残り1000mから自分で行き切って、勝ち切るというプランを描き、その通りにレースを進められた。

レースプラン通りに走れて「収穫のあるレース」と振り返った

だが、実業団選手も含む国内トップレベルのレースでは、中盤で粘り、ラストに切り替えて上がっていく、という展開が当たり前になっている。永原自身はまだそこに対応しきれていないと感じている。「中盤でも余力を持って、ラストの削り合いでまずは食らいついて、競り合っていくようなレースをしないと、と思います」。自らの課題を克服するため、終盤のきついところで粘り、最後にしっかり上げられるような練習を繰り返し、自分の体に染み込ませていかないといけない、と話す。

偉大な先輩、仲間たちと切磋琢磨して

3000mSCの日本記録保持者で、OBの三浦龍司(SUBARU)は現在も順天堂大を拠点に練習をしている。永原は練習や記録会で三浦の後ろを走ることがあるが、不思議と一人で走っている時より、三浦の後ろにいる時の方がレースよりもいい感覚で跳べていると感じている。長門俊介監督からも「後ろをついて走っている時の方が動きがいいよ」と言われるという。

「やっぱりトップ選手に食らいつくということにもすごく意味があるのかなと思うので、(三浦さんの)背中を追っていくのは自分自身のモチベーションにもなりますし、すごく勉強になるなと感じています」

先輩・三浦龍司の背中を見て走ることもあるという

三浦に限らず、順大には切磋琢磨(せっさたくま)できる学生トップレベルの仲間たちがたくさんいる。練習でもレースと同じ感覚でできることに「恵まれている」と話す永原。ただ本来なら9月の東京世界陸上を目指すべきはずが、思い描いた通りには来られていないのが現状だ。

昨年は高校記録保持者として「スーパールーキー」扱いで入学した。周りからの大きな期待を感じると同時に、自分にプレッシャーをかけすぎてしまったとも振り返る。

「ちょっと自分に対して色々考えすぎていたかなという部分がありました。自分は好きで3000mSCをやっているので、レースの中で全部楽しんで走って、自分で『よかったな』と思えるような走りだったり、チームメートや監督に『よかったね』と言ってもらえたりするような走りをするのが、一番自分にとって満足できるというか、もっと頑張りたいなと思える理由になるので。結果も気にしなきゃいけないんですけど、そこまで気にしすぎず、楽しく自分らしく走ることが自分のやり方なのかなと感じました」

残り1000mを切ったところで先頭に立ち、後続をぐんぐんと引き離した

さらに去年はトラックでいっぱいいっぱいとなってしまい、駅伝に対してネガティブな気持ちがあったように思う、と永原。しかし箱根駅伝のエントリーメンバー16人に入ったものの出走メンバーに選ばれなかったことで、悔しさがこみあげてきた。

「やっぱり走ってチームに貢献したかった、と後悔した部分があったので、今年は先輩方のためや、チームのために少しでも力になれるよう、これから夏合宿も頑張っていきたいなと思います」

自分らしく、楽しく。その気持ちを取り戻した永原のこれからの活躍が楽しみだ。

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