野球

特集:第74回全日本大学野球選手権

青森大・土方謙伸 強豪のセレクションに落ち「やり返したい」全国舞台で意地の適時打

青森大の4番として全国の舞台で戦った土方謙伸(すべて撮影・川浪康太郎)

第74回全日本大学野球選手権大会 1回戦

6月9日@東京ドーム

東海大学(首都大学) 6-2 青森大学(北東北大学)

「うちには中央球界に目を向けられず、本意ではなかった青森大に来てやり返そうと頑張っている子がたくさんいる」。青森大学の三浦忠吉監督は、よくそんなことを口にする。以前、その代表格として土方謙伸(2年、東海大静岡翔洋)の名前を挙げていた。高校通算37本塁打の強打を誇りながらも東都大学野球リーグの2校のセレクションに落ち、青森大へ。今春、レギュラーを獲得し、6月9日に行われた第74回全日本大学野球選手権大会初戦の東海大学戦では4番に座った。

中学3年以来の4番で適時打「自信になります」

5点を追う九回1死一、三塁。2球目の直球を振り抜き、右前に運ぶ安打で三塁走者を生還させた。意地の適時打を放った土方は逆転を信じ、塁上で雄たけびを上げた。

九回に適時打を放ち、一塁上で雄たけびを上げてチームを鼓舞

公式戦で4番を打つのは中学3年以来。プレッシャーを感じているつもりはなかったが、「東京ドームの空気にのまれていた」という第1打席は捕ゴロ、第2打席は空振り三振に倒れた。「自分から変えていかないと試合が終わって後悔することになるぞ」。試合中、三浦監督にそう声をかけられた。気持ちを切り替えて向かった第3打席は凡退するも鋭い打球を飛ばし、最終回は好機で仕事を果たした。

結局試合には敗れ、土方は「最後に1本出ましたが、第1打席からそれができてチームに良い流れを持ってこられていたらと思うと、本当に悔しいです」と唇をかんだ。一方、「2年生から大学選手権に出場して安打と打点を記録できたのは自信になります」と手応えも語った。

第3打席から気持ちを切り替え、最後の打席で自信をつかんだ

「頭の整理」を心がけ、大会まで打撃好調をキープ

今大会に向けては打撃好調を維持し、直前の練習試合でも打棒を爆発させていた。好調の鍵は「頭の整理」。リーグ戦で打率が低かった理由を自己分析した際、ボール球に手を出したり、初球をとらえきれなかったりしたのはすべて、「頭の整理」ができないまま立った打席であることに気づいたという。

東海大戦では指揮官の言葉で我を取り戻した最終打席、好機で気持ちが高ぶりつつも、冷静に頭を整理した。対峙(たいじ)したのは、マウンドに上がったばかりの左腕・若山恵斗(4年、東海大甲府)。球種や配球の傾向は、すべて頭に入っていた。対左投手ということも加味して体が開かないよう自身に言い聞かせながら、狙っていた直球をとらえた。

「自分は高校時代から公式戦よりも練習試合で結果を出すタイプでした。常に頭を整理して、公式戦で結果を出せる選手になりたいです」。凡退した3打席と適時打を放った最終打席を経て、目標を再確認した。

好調だった頃にできていた「頭の整理」を思い出し、結果につながった

宿敵とのオープン戦で涙、大舞台で果たした雪辱

三浦監督は土方の適時打を「彼の野球人生にとっては大きな1本になった」と表現した。それほど、ひのき舞台で飛び出した1本は特別な意味を持っていた。

土方は中学まで地元の神奈川県で野球を続け、県内の実力校からも声がかかる中、甲子園を目指して静岡の高校に進んだ。聖地には届かなかったものの、左の強打者として大きく成長。日に日に自信をつけ、関東に戻って大学トップレベルのリーグでプレーする青写真を描くようになった。

しかし、高校3年の春に受けた東都大学野球リーグの2校のセレクションは不合格。その後、本人にとっては想定外だった青森大への進学が決まった。土方は当時について「ホームランをたくさん打てていたし自分でもやれる自信があったので、ショックが大きかったです。だけど三浦さんに拾ってもらったので、やり返したい気持ちを持って青森に来ました」と振り返る。

大学でも1年時から着実に経験を積む中、今年3月に行われたオープン戦では屈辱を味わった。「セレクションで落ちた大学なので、やり返したい思いがより強かったです」。宿敵が相手とあっていつも以上に気合を入れて臨むも無安打。試合後に三浦監督と話している最中、悔しさから涙があふれた。

春のリーグ戦は一塁のレギュラーに定着した。打率こそ1割6分7厘と伸び悩んだが、大一番となった富士大学との2連戦でサヨナラ打と決勝本塁打を放つなど勝負強さを発揮し、優勝に貢献した。チームとして17年ぶりに出場する全日本大学野球選手権初戦の相手は、中央球界の名門・東海大。「全国大会で活躍して、今度こそやり返したい」。闘志を再燃させて臨んだ試合で快音を響かせた。

今春は一塁のレギュラーに定着、関東圏の選手たちに負けたくない思いは強い

東海大・大塚瑠晏の活躍に「自分はまだまだだな」

東海大の野手陣を目の当たりにして「自分はまだまだだな」と痛感したのも事実だ。中でも、先制2点本塁打含む3安打をマークした今秋のドラフト候補・大塚瑠晏(るあん、4年、東海大相模)には衝撃を受けた。

「自分から崩れないのがすごい。甲子園も経験しているので場慣れしているというか……」。土方は東海大静岡翔洋高出身のため、大塚を含め、同じ東海大系列の高校の出身者とは高校時代に対戦経験がある。「高校の頃から知っている選手が活躍している姿を見ると悔しいです」とも漏らした。闘志はメラメラと燃えている。

「この経験を機にレベルアップして、次の秋も、その次も、やり返したいなと思います」。逆襲の4年間はまだ始まったばかりだ。

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