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富士通フロンティアーズRB山嵜大央 立命の後輩たちに浸透した言葉「新しい時代を」

キャプテンの重荷が降りて「今は純粋にフットボールがすごく楽しい」と語る(撮影・北川直樹)

昨年12月、立命館大学アメリカンフットボール部パンサーズの主将として、チームを9年ぶりの学生日本一に導き、甲子園ボウルMVPと年間最優秀選手賞チャック・ミルズ杯を受賞した山嵜大央。卒業後は富士通に入社し、社会人Xリーグに所属する富士通フロンティアーズの一員として、練習と仕事に日々向き合っている。春のパールボウルトーナメント初戦から出場機会を得てチームの戦力となっている今、山嵜は「心の底からフットボールが楽しい」と語る。社会人フットボーラーとしての新たな挑戦が始まっている。

「どれだけ一回のチャンスをモノにできるかがすべて」

山嵜はフロンティアーズに加入後、すぐにRBとして試合出場の機会をつかんだ。パールボウルトーナメント初戦のOrientalBioシルバースター戦、2回戦のノジマ相模原ライズ戦でそれぞれタッチダウン(TD)を挙げ、早くも存在感を見せている。

「春は、ボールを持つ機会自体が少なかったんですが、WRやOLの先輩方が良いブロックをしてくれて、たまたまTDまで持っていけました」。大学時代に比べ、社会人チームでは練習の時間も、試合での出場機会も限られている。その分、1プレーごとの重みは段違い。まだ完全にフィットしたわけではないが、地道な積み重ねで高いパフォーマンスが出せるように努めている。

「ノジマに負けて、もう春はこれで終わりなんで。練習、試合にかかわらず、どれだけ準備できているか。どれだけ一回のチャンスをモノにできるかがすべてです」。そのことを日々の練習から常に意識して取り組んでいる。TDを奪ったプレーも、仲間と自らの集中力がかみ合った成果ととらえている。

加入後は毎試合TDを獲得している(提供・富士通フロンティアーズ)

平日の過ごし方が土日のアピールに直結

現在は新入社員研修の真っ最中。配属は7月末の予定で、平日は午前9時から午後5時半までみっちり講義や課題が続く。研修を終えると、すぐに寮に戻って自主トレへ向かう。富士通では土日に加えて水曜も練習が行われているが、新人は研修の都合で参加できないため、各自に任されている。平日の過ごし方が、土日の限られた練習でどれだけアピールできるかに直結すると、山嵜は考えている。

「大学時代は実家から通っていたので、練習後の移動が2時間くらいかかって大変でした。でも、今は寮がクラブハウスのすぐ近くにあって、環境面では本当に恵まれていると思います。グラウンド、トレーニング場まで5分くらいで行けるので、毎日行くようにしています。僕にとってクラブハウスは第2の家みたいな感じで(笑)」

グラウンドの利用は他競技との兼ね合いもあり、トレーニング内容は筋トレが中心だ。それでも先輩たちの動きを間近で見られるのが何よりの刺激だという。「キャプテンの大久保(壮哉)さんとか、主力の選手はいつ行っても本気でやってる。やっぱりすごいなって思うし、自然と自分も引っ張られます」

立命時代は自分が中心になって後輩たちを巻き込みながらトレーニングをしてきた。フロンティアーズでは、そういった姿勢に対するレベルの違いを痛感している。「今はそんなハイレベルな環境でやれること、毎日気が抜けへんことがとても楽しいです」と笑顔がこぼれる。

山嵜という男は、こういう環境で挑戦することに大きな喜びを感じる。

今は「第二の家」と語るクラブハウスに入り浸り、トレーニングざんまいの生活を送っているという

一つひとつのヒットの重さが違う

この春、山嵜はXリーグのスピードとフィジカルに衝撃を受けた。「相手は全員がそのチームのエース級。一つひとつのヒットの重さが違うんです」

さらに、学生時代はいなかった外国人選手の存在も大きな刺激になっている。「一緒に練習したジャボリー選手(パナソニック)とか、もうオーラがすごいです。富士通での練習中も、DLのジョジョ(ジョー・マシス)さんらの存在感は段違いで、やっぱり一流の外国人選手は全ての動きに〝本物感〟がありますね」

ヒットの強さやスピードだけでなく、プレーへの集中度、判断の速さなど、これまでに見たことのないレベルのアスリートが身近にいることが、山嵜自身のモチベーションにもつながっている。「海外の選手がいることで、逆に『自分ももっとやれるんじゃないか』って気持ちになれています」

ノジマ戦でスクリーンプレーで走っている際、受けたSFのタックルは「今までで一番痛かった」という。「ボールキャリアーを的確に刺しに来ていて、大学時代に受けたタックルとは精度も強さも全然違いました」と、社会人で受けた洗礼を振り返る。

「正直、最初はビビってました。でも試合でやられてわかること、学びもあります。だからこそ、どこでもいいから試合に出たいです。RBにこだわらず、WRやリターナーなど色んなポジションに挑戦したいと思っています」

当初感じたビビりよりも、今はワクワクの方が確実に大きくなっている。

日本代表クラスの選手だらけのフロンティアーズでは日々学びが多い

背番号は神山恭祐から継承する「10」のはずが「4」に

背番号「4」は、エースWRのサマジー・グラントが昨年までつけていたものを引き継いだ。経緯について聞くと、山嵜ははにかみながら話し始めた。

「これにはおもろい話があって。タッチフットのベンガルズ、産大高、立命、富士通とずっと同じ経歴やったDLの神山恭祐さんが去年引退したんです。産大高の山嵜隆夫先生の勇退パーティーで神山さんと話して『引退するから俺の10番やるわ』って言われたんです。でも来てみたら、サマジーさんが10番をつけてて『お前は4番やで』って(笑)。ラッキーって言ったらおかしいですけど、いい番号なんでうれしかったですね」

富士通の4番を背負うことには身が引き締まるとともに、学生時代と同様、フィジカルとスピードを両立させた走りを見せる覚悟だ。「レベルが上がっても、自分のプレースタイルは変えたくないですね。自分の色を出しつつ、どんな形でもチームに貢献したいです」

走るだけでなく、パスレシーブやブロッキングなど、〝なんでもできるRB〟としての進化を見据えている。

富士通にやってきてから大産大附の先輩に話を聞く機会も増え、これが楽しいという。左からDL藤谷雄飛、TE髙橋伶太、2015年日大主将の井上佳さん(本人提供)

今は心の底からフットボールを楽しめている

立命のキャプテンでチームの大改革をやってのけた翌年、今度はルーキーとして新たな舞台に立っている。そんな環境の変化について、山嵜は言う。

「去年は正直、責任が重かったです。キャプテンとして『勝たせなきゃ』という責任感が常にあって……。でも今は、その重圧から解放されて、心の底からフットボールを楽しめています。フラットな気持ちで、純粋に『もっとうまくなりたい』と思える。それが今、一番の幸せですね」

2バック隊形の時はエースRB三宅昂輝とペアで出ているが、まだ富士通のRB陣の中では序列最下位だと話す。過去の栄光はひとまず忘れ、イチから積み重ねていく覚悟を決めている。

練習は、まさに〝本気〟の連続だ。「みんな、平日の仕事を終えて疲れているはずなのに、全力で取り組んでいる。誰一人手を抜いていない。すごいですよ」

練習時間も本数も学生と比べると少ないので、限られたチャンスを確実にモノにする集中力と勝負強さが求められる。そんな緊張感の中で、山嵜の中には早くも変化が生まれてきた。

「最近は、『チームのために何ができるか』を考えるようになってきました。自分も来年くらいには幹部になって、チームを引っ張れる存在になりたいと思ってます」

立命時代にキャプテンシーを身につけ、彼自身の考えと取り組みは大きな進化を遂げた。今度は富士通という日本最高峰のチームで、その力をさらに磨いていきたいと考えている。

パナソニックとの公開合同練習で、大産大附と立命の4学年先輩にあたる立川玄明(右)と顔を合わせて大産大附ファイティングエンジェルズの「エンジェルズポーズ」

「時代が変わった」と思った瞬間

今年、連覇を目指す立命の後輩たちに対しては熱い思いがある。問うと、まず口をついて出たのがQB竹田剛(4年、大産大附)の名前だった。

甲子園後のインタビューで、アイツ、今年(24年シーズン)一番変わったのが僕だって言ったんですよ。『自分のことしか考えてへんかったのに』って。お前が一番、自分勝手やろって思いましたね(笑)。それは置いといて、RBの後輩たちが僕の言葉を覚えてくれてることがうれしかったです」

昨年のチーム納会、最後のあいさつで語った「新しい時代を作ってくれ」という山嵜の言葉が、立命アメフト部の公式サイトに記されていた。

「漆原(大晟、2年、立命館宇治)と横井(貴洋、2年、鎌倉学園)が、顔写真の下の一言コメントに『新しい時代を作ります』って書いてくれてて。それを見たときは、めっちゃうれしかったですね。時代が変わったなって、はっきり思いました」

一緒に苦楽をともにした後輩たちが、新たなリーダーシップを発揮し、チームを牽引(けんいん)しようとしている。そのことに山嵜は大きな喜びを感じたという。

「去年、(高橋)健太郎さんが監督になって、立命はガラッと変わりました。これからは立命の時代になるんちゃうかっていう感じで、すごく楽しみですね」

山嵜が立命で着けていた背番号「22」は、春から活躍著しいスーパールーキーの奥村倖大(追手門学院)が引き継いでいる。「まだ彼とは話したことないんですけど、ほんまスゴいと思ってます。また関西に帰ったとき、練習を見にいきたいです」

オリンピックに二刀流、立命館大に夢だらけのルーキー RB奥村倖大・DB山本依武希
立川と同じ河津歯科(大阪府枚方市)で作ったマウスピースを使っていることに気付き思わずニッコリ

大好きなフロンティアーズで、貢献できる場を見つける

春は出場機会が限られた。だが、そこで見えた景色と課題は、確かな糧となっている。富士通フロンティアーズという〝プロ集団〟の中で、自らの役割を模索しながら、日々を積み重ねている。

「とにかく試合に出て、結果を残したい。そう思って過ごしてます。僕はフロンティアーズというチームが大好きなんで、ここに来られたことに感謝し、自分が貢献できる場所を見つけて、チームの力になりたいですね」

社会人1年目。山嵜大央は、日本一を目指して全力で走る。

「今は最下位」と語る富士通のRB陣の中ではい上がっていく覚悟を決めている

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