青森大・岡本翼「魚雷バット」で響かせた快音、母校のグラウンドでつかんだ復活の予兆

春の鬱憤(うっぷん)を晴らすための打開策だった。青森大学の岡本翼(4年、横浜創学館)は、第74回全日本大学野球選手権大会初戦の東海大学戦で「魚雷(トルピード)バット」を試合で初めて使用した。大一番で英断を下し、敗戦の中でも3安打をマーク。2年春からレギュラーの座を守り続けてきた中心選手ながら、今春のリーグ戦はけがの影響で思うような活躍ができず。それでもたどり着いた全国の舞台で輝きを取り戻した。
リーグ戦1週間前に骨折、「素直に喜べなかった」優勝
「負けてしまいましたが、東京ドームにいる全員が自分を見ていると思うと、楽しかったです」。試合後、岡本の表情は晴れやかだった。
今春はリーグ戦開幕の約1週間前にオープン戦で死球を受け、右足の小指を骨折した。開幕戦は右翼でスタメン出場するも痛みに耐えきれず、2戦目以降は指名打者として出場。骨折が判明した段階で「このリーグ戦はもう出られないかもしれないし、出たとしてもチームに迷惑をかけてしまう」との考えも頭をよぎったが、三浦忠吉監督に「出てほしい」と伝えられ打席に立ち続けた。

結果的に打率2割6分7厘をマークして自身4度目となるベストナインに選出されたものの、本人にとっては納得のいく内容ではなかった。岡本は「言い訳したくない」と言うが、けがの影響で足の踏ん張りがきかず、気持ちよくバットを振れない場面も多々あった。
加えて今年の青森大が「1-0で勝てるチーム」を目指す中、そのための鍵となる守備と走塁で貢献できなかったことを悔やんだ。「チームがやろうとしていることを最上級生の自分ができないのはどうなんだろうと……。周りもけがのことを知っているとはいえ、『なんでこの人はできないんだろう』と思うだろうし。優勝の瞬間も素直に喜べない自分がいました」。守り勝つ野球を体現する同期や後輩を頼もしく思う一方、もどかしさが募った。

「割り切って変えてみよう」前日につかんだきっかけ
リーグ戦終了後に骨折は完治した。しかし、全日本大学野球選手権直前に組まれた社会人チームとのオープン戦では、結果を残せなかった。
大会前日、青森大は横浜創学館高校のグラウンドで練習した。そこには、魚雷バットを手に快音を響かせる岡本の姿があった。「悩むくらいなら、割り切って変えてみよう」。魚雷バットは先端部が細く中心部が盛り上がる特殊な形状のバットで、今春途中からアマチュア球界でも使用が認められている。岡本は復調のきっかけをつかむために魚雷バットを手にし、「自分の打ち方に合っている」と手応えを得た。
横浜創学館高校は岡本の出身校でもある。母校のグラウンドで良い感覚を手に入れたことも翌日の結果につながったといい、「懐かしい景色を見ながらバットを振っていると、間の取り方や気持ちの保ち方など、高校の頃に言われたことを思い出して、気が楽になりました」と声を弾ませた。

高校時代からの同期・長井俊輔主将と果たした全国出場
前日の練習と魚雷バットの選択が功を奏し、東海大戦では5番に座って3安打を飛ばした。また久々に右翼の守備につき、六回に本塁で走者を刺して追加点を阻止するなど守りでも貢献。ようやく心の底から野球を楽しめた。
そんな岡本の活躍を喜んだのが主将の長井俊輔(4年、横浜創学館)だ。2人は高校からの同期。3年夏はともに主軸を打って、全国屈指の激戦区である神奈川大会の決勝まで勝ち進んだ。ところが決勝は横浜高校に3-17。夢の舞台にあと一歩届かなかった経験があるだけに、長井は「高校生の頃は全国に行きたくても行けなかった。全国の舞台で活躍する岡本の姿を見て新鮮に感じたし、ここまでやってきて良かったなと思いました」と感慨深げだった。
長井が岡本について「自虐で『外れの代』と言っていた自分たちの代表として、下級生の頃からずっと試合に出ていた。それにあぐらをかかず、引っ張ってくれました」と話せば、岡本は「長井がいたからチームがまとまって全国に来られた。自分がキャプテンだったら来られていないと思うので、本当に感謝しています」と長井を立てる。
出番が少なくともチームの精神的支柱であり続けた長井と、けがをしていてもプレーヤーとして必要とされた岡本。2人が引っ張ってたどり着いた東京ドームだった。

「成長できる場所」を求めて青森へ、体格を補う努力の日々
岡本は高校時代から非凡な打撃センスを発揮してきたが、身長170cmと小柄なこともあって大学からは声がかからず、先輩に「成長できる場所」だと勧められた青森大を進学先に選んだ。「体格で評価が下がる分、結果を残さないといけない。人一倍結果にこだわって貪欲(どんよく)にやろう」。青森に来てから努力を怠ったことは一度もない。
もともとの強みであるミート力を磨きつつ、下半身のウェートトレーニングなどに取り組んでパンチ力もつけた。中軸を担うにふさわしい打者へと成長したことは、結果が物語っている。
秋季リーグ戦が大学ラストシーズンとなる。「データをたくさん取られている中でもチームに良い結果をもたらせるよう、また練習します」。完全復活を果たした岡本の努力の日々が再び始まる。

