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オービックRB廣長晃太郎「めちゃくちゃ後悔がある」明治大時代を糧に、日本一へ挑む

廣長晃太郎は期待してくれている人のためにも走る(すべて撮影・北川直樹)

この春、明治大学から日本社会人アメリカンフットボール「Xリーグ」X1 Superのオービックシーガルズに加入したRB廣長晃太郎(ひろなが・こうたろう)。6月14日の「パールボウル」トーナメント決勝、ノジマ相模原ライズ戦ではチームの勝利に大きく貢献した。背景には学生時代に経験した悔しさがある。廣長に学生時代の思いとオービックでの挑戦を聞いた。

重要な場面での活躍が光ったパールボウル決勝

前半を24-3で折り返したオービックだったが、後半はノジマの猛攻に苦しんだ。第3クオーター(Q)に15点を奪われ、第4Qには6点差まで詰め寄られた。緊迫した場面で廣長は試合の流れを決定づける好プレーを見せた。敵陣25yd、第3ダウン10ydのシチュエーションだった。

「正直、あのときは何にも考えられてなかったですね。急きょプレーが入って、自分にパスが来て。相手のDLも『もう止めたるぜ』みたいな感じで来たんで、そこをさっと抜けたらピアース(QB)がいいとこに投げてくれました」

ファーストダウンを取ろうというより「少しでも前にしてキックを決め切ろう」という意図だったスクリーンプレーで、廣長は16ydを獲得。ファーストダウンを更新した。この後のフィールドゴール(FG)成功で34-25とし、勝利を手繰り寄せた。

もう一つの印象的なプレーは、第2Qの19ydタッチダウン(TD)レシーブだ。

「ライズのディフェンスが結構中に人を集めてきていて、ランもあんまり出ないっていうようなところで。ワイドスプレッドに広げていこうっていうところだったんですけど、視界に飛んでくるLBが見えたんで、ちょっと一瞬足止めてそのまま外をまくりました」

勝負どころではオープンに行こうと決めていた。「自分はインカットを踏みがちなんですけど、そこは意識的に外に出て持ってくっていう打ち合わせをしていたんで。その通り遂行できました」と振り返る。ルーキーながら重要な場面で活躍。春の3試合を通じて、廣長は自分の役割を果たしてきた。

スクリーンから外をまくりTDを決めてこの表情

単なるライバルを超えた後輩RBとの関係

華々しい社会人デビューを飾った廣長の原動力は、明治大時代の悔しさにある。

学生最後のシーズンを振り返る表情は重い。明治は関東学生リーグで長らく強豪として君臨してきたが、近年は中堅に甘んじている。「今までだいたい2位とか3位が多くて、『脱中堅』っていうのを掲げながら日本一を目指してやってきて、結構チームの態勢とかも色々変えていった1年だったんです。チームとしては、良くなってきてたと思うんですけど……」

改革の年にエースRBとしての期待を受けながら、思うような結果を残せなかった。初戦の中央大学戦と第3節の桜美林大学戦はモノにしたが、残りのゲームでは接戦を落とし、2勝5敗。順列6位に沈んだ。近年の明治としては、最低の成績だった。「もっとできたんじゃないかって、今考えてもめちゃくちゃ後悔がありますね」。廣長は昨年の思い出を苦々しく振り返る。

そんな中、印象深いのは同じポジションの後輩・高橋周平(4年、足立学園)との関係だ。「それまでも周平とはずっと良いライバルで、自分は去年の秋シーズンにちょっとさまよったというか……。周平がすごく良いパフォーマンスをしていて、正直焦りもありました。そんな中、自分は副将としてチームを勝たせないといけないていう葛藤がありました」

RBだけでなく、キックオフとパントのリターナーも兼任している

高橋との関係は単なるライバルを超えていた。

「周平とは寮で隣の部屋だったんで、筋トレもそうだし、飯に行ったり、ずっと一緒でした。後輩ですけど頼れる存在だし、すごく刺激をくれました。練習後も『なんかやりましょうよ!』とかって言われたら『お、やろうぜ』ってなりますし」

お互いを高め合えた、かけがえのない存在だったという。今年、高橋は主将を務めている。「僕は本当は反対したんです。学生主体のフットボールをしている明治で、伝統のランを背負うRBが主将もするのは、だいぶキツいよって。でも、本人の意志が固かったし、彼の人間性もあって、チームには『周平を助けたい』って考えてるヤツがたくさんいるんで。今は周平にしか出せない味を出していってほしいと思っています」

後押しになった「まだお前のプレーが見たい」

廣長は当初、富士通フロンティアーズでの挑戦を考えていた。しかし、トライアウトに不合格。一度はフットボールをやめることも考えた。

「去年の3月か4月ぐらいですかね。やっぱりフットボールはしたいなと思って。声をかけていただいてたオービックでチャレンジすることを考えました」

しかし、社会人生活の忙しさを考えると、一度は迷いが生じた。

「仕事が結構忙しいので、もうフットボールはやめようかなと思ったんです。でも、周りに応援してくださる人がいて『まだお前のプレーが見たい』と言ってくださる声がすごく多くて。『廣長さんがやるなら僕も社会人で続けます』って言ってくれた後輩もいたんです。そういう人たちの後押しがすごく大きかったです」

最終的にオービックへ行くと決めたのは今年の1月ごろだった。

「クラブチームでやるからには、一番強いところに行きたかった。本当に一番を目指せる環境を求めた結果だなって思います。大学2年ぐらいの時から、何度か練習に呼んでもらったことがあったんです。チームの雰囲気がめちゃくちゃ良かったので、『このチームで自分もやってみたいな』っていう憧れみたいなのはありましたね」

クラブチームでやるからには「一番強いところに行きたかった」と語る

クラブチームならではの魅力も感じていた。自身が証券会社というハードな就職先に飛び込む中、さまざまな一流企業で働きながらフットボールを続ける先輩たちの存在は心強かった。「すごく立派な先輩方がいる。自分もリーディングカンパニーの一つに就職するっていうところで、そういう環境に自分の身を置いて鍛えたかったというのはあります」

仕事もフットボールも、一流を目指す環境でトップを取ることを目指している。

それぞれが特徴を生かし合う同期のRBたち

オービックでは、同じルーキーRBの長尾涼平(神戸大学)、島田隼輔(近畿大学)と3人でポジションを争っている。当初はロースター本登録前の春であっても、誰かがカットされる可能性があった。

「土曜日の夜はみんなで泊まってクラブハウスで飯食って。すごい仲良いんですけど、誰かがカットされるっていうのもあるんで、春序盤の方は誰もロースターの話題に触れない感じでした。みんなが生き残るために、プレーブックもめっちゃ覚えて、平日もちゃんと筋トレしてみたいな感じです」

この緊張感が、3人をさらに成長させた。「お互い、あまり口にはしなかったですけど、意識はめちゃくちゃしてたと思います」

現在はそれぞれが異なる特徴を生かし、試合やプレーによって使い分けられている。パールボウル決勝は、3人ともTDを決めて存在感を見せた。「今日のローテーションはじゃんけんで決めました(笑)」

パールボウルでは同期の長尾(上、21番)と島田(下)の3人がそれぞれTDを決めた

トレーニング時間確保の工夫

証券会社で個人や法人顧客に対して資産運用アドバイスの業務に従事する廣長の1日は、想像を絶する過酷さだ。

「朝の定時は8時とかなんですけど、その前に日経新聞を毎日読んでレポートを出さないといけないんで。大体4時半ぐらいに起きて、読んでノートにまとめて、出勤して上司とその話をして働いて、という感じです。残業はほぼないので、18時くらいに仕事は終わって、そこから1年以内に取らなきゃいけない資格の勉強です。勉強が済んだら寝ます」

この中で、トレーニング時間を確保している。「仕事終わってすぐ(トレーニングに)行って、1時間くらい集中して終わらせちゃう。あと、研修中にやってたのは、朝2時半に起きて筋トレして会社に行くとかですね」

就職先を選んだ理由について廣長は、「とにかく業界トップの企業で挑戦したかったというのが一番です。僕はインターン経由で内定をもらったんですが、リクルーターの方に『お前は絶対受かる』って言っていただけたんで、僕はもうそれだけ信じてがむしゃらにやってました」。選考では上昇志向なところや熱さが評価されたという。

社会人になり、セルフマネジメントの大事さを痛感する日々だ

目標は「生き残る」から「MVPレベルの結果」に

業務とフットボールの両立で最も難しいのは、モチベーションの維持だ。

「一人暮らしっていうのもありますし、身近なところに人がいない環境なんで。前は『誰かがやるからやる』っていうのがあったんですけど、誰も見てないんでサボれる環境があるんです。自分をマネジメントできるかが、大事だと思っています」

週末の時間の使い方も重要な課題だ。「練習のない週末も、過ごそうと思えばダラダラ過ごせるんですけど、そこで『どうトレーニングの時間を作るか』ってところが、今こだわってる、気をつけてるところですね」

春のパールボウル3試合を振り返り、廣長は充実感を口にした。新人RBにチャンスを与えてくれるチームに対する感謝の気持ちも大きい。

「自分を含め、新人RBがボールを持てるようなプレーをコーチが考えてくださっていて、チャンスをたくさんいただけたので、本当にそこは感謝です。それをちゃんと生かせるように、先輩のOLやWRがブロッキングしてくれたんで、本当にありがたいですね」

当初の目標は「生き残る」ことだったが、春を経てより高く設定した。「チームで日本一ってところを目指したいです。オービックは今年、環境もコーチも変わったんで、狙ってモノにしなきゃいけない勝負の年だと思うんです。メンツもそろってるんで、チームでそこを目指しつつ、個人としてもMVPレベルの結果を残したいです」

学生時代の悔しさを糧に、フットボールと新社会人としての激務と両立しながら、同期と高め合い、自分の力にしていく。廣長晃太郎はオービックで全力で走る。

春を通じて「生き残り」からMVPに目標が変わった。秋が正念場だ

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