陸上・駅伝

特集:第94回日本学生陸上競技対校選手権大会

育英大学ルーキー・山鹿快琉が800m優勝「世界で一番、陸上競技を楽しめる選手に」

日本インカレ男子800mでライバルたちを振り払い優勝した山鹿快琉(撮影・藤井みさ)

第94回 日本学生陸上競技対校選手権大会 男子800m決勝

6月8日@JFE晴れの国スタジアム(岡山)

優勝 山鹿快琉(育英大1年)1分46秒79=大会新
2位 岡村颯太(鹿屋体育大3年)1分46秒86
3位 長沢匠人(日本体育大4年)1分47秒40
4位 前田陽向(環太平洋大4年)1分47秒85
5位 塩原匠(順天堂大4年)1分48秒26
6位 萬野七樹(関西大2年)1分48秒75
7位 水野瑛人(中京大2年)1分48秒76
8位 森玉鳳雅(関西大3年)1分49秒57

6月8日の日本インカレ最終日に行われた男子800m決勝で、育英大学のルーキー・山鹿快琉(1年、前橋育英)が優勝を飾った。この種目の日本記録保持者・駒澤大学の落合晃(1年、滋賀学園)と同学年にあたるが、山鹿本人は「あんまり人のことは気にしないです」。陸上競技を楽しむことだけを常に心がけている中距離ランナーだ。

【写真】日本学生記録・大会記録の更新も続々! 第94回日本インカレの主役たち

大会記録更新にも「これからも自分のペースで」

前日午前の予選を組1着、同日夕方の準決勝を組2着で決勝へと進出してきた山鹿。頂上決戦では2レーンに入り、今年4月の学生個人選手権1500m優勝の環太平洋大学・前田陽向(4年、洛南)や昨年の個人選手権で800mを制した鹿屋体育大学の岡村颯太(3年、致遠館)、5月の関東インカレ男子1部1500m優勝の順天堂大学・塩原匠(4年、東農大二)らがライバルと目された。

レースは関西大学の萬野七樹(2年、大塚)が先頭に立ち、1周目を53秒で通過。山鹿は日本体育大学の長沢匠人(4年、東大和)に続く3番手にいた。

1周目は相手の出方を探りながら3番手に位置していた(撮影・藤井みさ)

2周目のバックストレートで岡村や前田といった有力ランナーが一気に先頭をうかがい、山鹿は一時、8選手中7番手に。ここから残り200mでスパートをかけ、外から前の選手たちをまくった。最後の直線で岡村との一騎打ちを制し、大会記録となる1分46秒79でゴールした。

優勝を決めた後の取材では、思っていることを素直に話す自然体な口ぶりが印象的だった。「結果ではなくて、競技を楽しめればいいなと思っていました。多少の緊張はしてしまったんですけど、結果的に楽しめたので、良かったと思います」。大会記録が出たことも「あまり気にしていなかったです。これからも自分のペースで進められたらいいと思います」と受け止めた。

最後の直線で鹿屋体育大学・岡村颯太とのデッドヒートを制した(撮影・井上翔太)

100mから3000mまでを試した結果、800mが「心の底から楽しい」

山鹿自身も、5月の関東インカレ2部800mで優勝を飾った実力者だ。ただ、日本インカレの決勝で緊張してしまった理由は、周りに同じ1年生ランナーがいなかったこともあると振り返る。「どういう風に(レースを)進めていったらいいのかな、という部分はありました」。

昨年の全国高校総体(インターハイ)、落合が決勝で1分44秒80の日本記録をたたき出した大会で山鹿は体調を崩し、予選の欠場を余儀なくされた。「全国の舞台で3本を走ることがそもそも初めてだったので、そういう部分での不安もありました」

陸上競技は小学生の頃に始めた。800mを始めたのは「中学2年ぐらい」。100mから3000mまで「1回全部やってみよう」と取り組んだところ、800mが一番いい結果だったという。激しい位置取り争いが繰り広げられ、選手同士の接触も多く「トラックの格闘技」とも呼ばれるこの種目。山鹿は「やっていてまったく苦ではなく、むしろ心の底から『楽しいな』と思えたので、選びました」と言う。

1年生ながら関東インカレ2部800mでも優勝を果たした(撮影・井上翔太)

取材では何度も「楽しむ」という言葉を口にした。「世界で一番、陸上競技を楽しめる選手になれればいいかなと思っています。大会での結果は『通過点に過ぎない』と自分の中では思っているので、大会に関する評価はあまりしないんです。楽しめればいいです」

陸上は自分の人生を変えてくれた競技

では、どんな走りをしたときに「楽しい」と思えるのだろうか。本人に直接尋ねると、こう答えてくれた。「走る前に『これぐらいしか走れないかな』と思っていた中で良い記録が出たり、他の選手が『こういうところからスパートをかけるんだ!』ということを知ることができたりしたとき、『陸上競技ってやっぱり面白いな』と思います」

レースを終えた後に、ただ「悔しい」と思うだけだと、自分は強くなれないと山鹿は分かっている。「悔しさも勝った喜びも一つひとつ経験して、それらも楽しめれば。陸上は自分の人生を変えてくれた競技なので、楽しむことが一番、陸上競技に対する恩返しになると思っています」

悔しさも喜びも「経験」ととらえ、「楽しむ」ことにつなげている(撮影・藤井みさ)

日本インカレの決勝も、思う存分に楽しんだ。「前田さんは憧れの選手だったので、実際に出られたときは『やっぱり強いな』という印象を受けました。スパートもロングで仕掛けるだろうなと思っていたので、そこで自分も反応していい勝負ができたら『楽しいだろうな』と。仕掛けられたときは、自分の中でもワクワク感がありました。そういうところが(800mを)やめられない原因なのかなと思います(笑)」

スポーツの本質をとらえた競技への向き合い方

地元の育英大学に進んだのは「ちょっと荷造りをするのが嫌いで……。実家からも通えて、食生活などの部分も変わらないので、自分にとっていい環境かなと思いました。高校の時から、大学の先輩と一緒にやらせてもらっていて、学校の雰囲気も教えてもらっていました」というのが主な理由だった。

山鹿の一途な「楽しむ」という競技への向き合い方。それはスポーツの本質をとらえているようにも感じる。落合晃という日本記録保持者がいる学生中距離界に、また楽しみなランナーが出てきた。

同学年の落合晃とともに、今後も楽しみな中距離ランナーが出てきた(撮影・藤井みさ)

in Additionあわせて読みたい