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オービックQB勝見朋征 近大4年時に〝人生が変わった男〟がトップチームで見る景色

近大4年時に能力が開花し、社会人トップチームのオービックへ。この1年で勝見の人生は大きく変わった(提供を除きすべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの社会人Xリーグ、X1 Superの「パールボウル」トーナメント決勝が6月14日、富士通スタジアム川崎であり、オービックシーガルズがノジマ相模原ライズを34-28で下して春6連覇を達成した。オービックの新人QB勝見朋征(ともゆき)はこの試合で出場機会がなかったものの、いつでも出られるようにサイドラインで備えていた。近畿大学時代は3年間を控えとして過ごし、4年でようやくレギュラーの座をつかんだ遅咲きのQB。今は日本最高峰のチームで新たな挑戦をしている。

初戦から先発QBとして出場、厳しい自己評価

この春、勝見は初戦から出場機会をつかみ、着実にステップアップしてきた。5月4日のパールボウルトーナメント1回戦・IBM BIG BLUE戦では先発QBとして出場し、25ydのタッチダウン(TD)パス1本と、24yd、3ydのTDラン2本に絡む活躍で49-7の大勝に貢献した。5月25日の準決勝・東京ガスクリエイターズ戦でも先発QBを任され、20-3での勝利を支えた。

ただ、勝見の自己評価は厳しかった。「初戦は結果的にはスコアできたのは良かったんですけど、あんまり自分では納得いくような試合ではなかった」

決勝のノジマ戦は24-3で前半を折り返し、後半に出番が回ってくると思われたが、ノジマの猛追を許したこともあって出場機会はなかった。試合当日に加入が発表されたピアース・ホリー(イースタン・イリノイ大学)が起用される中、勝見はサイドラインからチームのパールボウル連覇を見守った。

「いつでも出られるように、気持ちの整理と体の準備は常にしていました。久しぶりにサイドラインから1試合を見ていて、ピアースのプレーぶりを見て学ぶことは多かったです」

「最初から試合に出るつもりで準備してました」サイドラインではずっとボールに触っていた

決断を後押しした平本恵也コーチとの出会いと関大戦

勝見を語る上で、近大時代の控え経験は避けて通れない。2、3年時は後輩の小林洋也(3年、大産大附)とのポジション争いに負け、出場機会をほとんど得られなかった。

「正直、今でも悔しさはあります。3年生の時、自分がチームを引っ張らなあかんなっていう気持ちでいたんですけど、小林が入ってきて……。足も速くて、体も小さいのに強くて。トレーニングも僕がやってたら、めっちゃ対抗してやってきて、そういう面ではリスペクトもしてるんですが。最後の方は、ほぼ彼が試合に出ていたんで、あのときの悔しさはハッキリ覚えてます」

その悔しさが勝見を成長させた。「試合に出られなくても、ウェイトトレーニングは他のポジションの選手よりもしっかりやってきました」。この実直さが、勝見の人柄を物語っている。

「社会人でアメフトをするつもりは、もともとなかった」と言う。しかし、大学4年目や秋のリーグ戦で勝利を挙げた関西大学戦が、彼の〝人生〟を変えることになった。

勝見は大学ラストの1年間を部活に費やしたかったため、早期に就活を終えた。当初の就職先として選んだのは、全国転勤がある物流企業。「いろんなことを経験したい」と全国各地での勤務を希望し、アメフトからは距離を置くつもりだった。

しかし昨年、平本恵也氏がQBコーチに就任し、3年間を控えとして過ごした勝見が、ついにレギュラーの座をつかんだ。攻撃の中心として関大から金星を挙げた後、勝見の活躍を見たオービックシーガルズのリクルーターから声がかかった。

勝見は平本コーチに相談すると、「こんな機会はない」と背中を押された。本人は当時について「めちゃくちゃうれしかったですが、正直、チャレンジするのは不安もありました」と振り返る。

近大はその後の神戸大学戦を僅差(きんさ)で落とし、全日本大学選手権への夢は消えた。それでも、4年で初めて味わったレギュラーの充実感と神戸大戦での悔しさが、勝見の決断を後押しした。東京勤務を希望し、4月から新天地での社会人生活と競技生活が始まった。

当初は社会人でアメフトを続けるつもりがなかった

高校、大学も一緒のRB島田隼輔と支え合いながら

オービックの選手としてスタートを切るとともに、一人暮らしも始めた。現在は11時出社の勤務形態を生かしながら、朝に週2、3回のトレーニングを行っている。ただ理想と現実の間には、ギャップもあると明かす。

「学生時代に比べると、めっちゃやせてます。7kgぐらい落ちてしまいました」

理由はシンプルだ。「自分でご飯を作らないといけないんで、適当になっちゃって、あんまり食べなくなっちゃって……。実家では母がしっかりと作ってくれていたので、今思うととてもありがたいです」

ウェイトトレーニングも「学生時代みたいに、ほぼ毎日はできない」という状況だ。加えて「会社の仕事も覚えないといけないし、プレーのアサイメントも覚えないと……」。正直、頭が追いついていないと語る。

高校、大学と一緒のRB島田隼輔もオービックに加わった。「島田は4年のはじめぐらいに声がかかって、僕はギリギリまでかからなかったです」と勝見。タイミングの違いこそあったが、今でも2人で支え合いながら挑戦を続けている。

パールボウルトーナメント初戦のIBM戦でいきなり登場し、大活躍(提供・X LEAGUE)

バックアップ選手にもレベルの高さが求められる

チームのレベルの高さは、想像以上だった。「DLのラッシュのすごさと、身長が高い選手、あとLBの速さ。学生の時も大きい人はいたんですけど、今は速さもあるんで。スクランブルしたとしても、すぐLBに詰められます」と学生時代とは違う景色について口にする。

チーム内での立ち位置についても、理想とは差がある。「近大の時は『自分がチームを引っ張らなあかんな』っていう考えでしたけど、今はみんなうまいんで、合わせてしまうことが多いです。『自分がもっとこうしたい』っていうのは、まだできてないですね」

今は近大でやってきたものとは、全く別のオフェンスに取り組んでいる。まだ、自身が納得するレベルでのプレーはできていない。「ちゃんと理解して、僕がオフェンスをコントロールできるようにならないと。まだ平本さんの顔をちゃんと見られないです」

アメリカ人QBのピアースに対しては、技術的な分析を怠らない。「肩はいいけど、投げるタイミングが遅いこともある。でもベースがしっかりしてるんで、学ぶことの方が多いと思います」。先輩QBの小林優之については「アサイメントの理解がすごい。プレーのデータだけ送られてきても、それをちゃんと理解してるところとか、パスのタイミングがめっちゃ良くて、そういうところは学ばなあかんです」とリスペクトの思いを隠さない。

そんな中、自身の生き方はしっかりと見えている。「バックアップ選手にもレベルの高さが求められます。ピアースを超えられるぐらいしっかりやっていかないと、外国人コーチからも信用されないと思います」

まずは、やれることから順に積み上げていく。

パールボウル決勝では出番がなく、サイドラインから戦況を見つめた

控えからはい上がったからこそ、伝えられること

秋シーズンへの目標を聞くと、勝見はこう答えた。「まずはロースター登録ですね。登録してもらえたら、1本目でしっかり出られるように準備したいです。チャンスは多くないと思うんで、少ないチャンスの中でしっかりアピールできたらいいかなって思います」

足元を見つめる姿勢は、以前から一貫している。その上で、QBとして磨いていきたい能力について「平本さんに教えてもらったショートパスをしっかり社会人でも決めていきたいです。肩が強くないんで、ロングパスはピアースみたいにバンバン決められないと思う。タイミング良く、手堅くやりたいです」と話す。

勝見はかつて後輩選手の控えに甘んじ、そこからはい上がった経験を持つからこそ、いま同じ境遇にいる選手に伝えられることがある。

「自分に厳しくするのが一番大事だと思います。あと、いっぱい寝ることですね。体の疲れを取るのも大事だし、頭を切り替えられるので。誰にでも自分の意見があると思うんですけど、しっかり他人の意見も聞きながら、自分の中でかみ砕いていくのが大事かなって思います」

勝見の姿勢と言葉には、謙虚さの中に確かな向上心が見える。小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな飛躍につながることを、彼自身が最もよく知っているのだろう。

今は真っすぐに日本一を目指す

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