慶應義塾大学・今野椋平 ブレずに日本一へ ルーツ校の主将が今季にかける特別な理由

1899年創部、日本ラグビーのルーツ校である慶應義塾大学蹴球部(ラグビー部)。今季のキャプテンに選ばれたのが、1年生から主力だったCTB今野椋平(いまの・りょうへい/4年、桐蔭学園)だ。「日本一」をスローガンに掲げて、2010年以来、白星を得られていないライバル早稲田大学に勝利し、さらに全国大学選手権ベスト4の壁を打ち破りたい。
最後のシーズン 主将を決める投票、自らに入れた
2月に新チームがスタートした。4年生全員が集まり、ふさわしいキャプテン像について議論を交わしながら、候補を絞っていった。そして最後は下の学年から試合に出ていた自らと山本大悟(4年、常翔学園)、SH橋本弾介(4年、慶應)の3人に。

桐蔭学園時代は副将だったため、当初は「大学でも(自分は)副キャプテンかな。キャプテン候補がいないな……」と思いながらミーティングに参加していた。ただ、ある同期の言葉が響いた。「自分からキャプテンをやりたいと言って、自分が引っ張っていく思いのある選手についていきたい」。3人の決戦投票時、自らに票を投じた。
決断には理由がある。
卒業しても競技を続けるかどうか、「めちゃくちゃ悩んでいた」。実際、リーグワンの強豪チームの練習に参加しつつ、一般の学生と同じく就職活動もしていた。
「ひざなどのケガも続いていたし、社会に出てどれだけ活躍できるのかもちょっと楽しみ。ラグビーは今季でやり切って終わろう」。大学でトップレベルのラグビーを終えると決めたからこそ、自身の背中を押すことができた。
結果的に今野が主将に、副将には山本が選ばれた。「僕はトップダウンではなく、伴走して、チームメートを巻き込んでいくタイプ。(山本)大悟は言葉で盛り上げていくタイプ。対になっているというか、自分と大悟でバランスが取れている」と分析する。

結果も過程も、すべてにおいて「日本一」に
今野によれば、昨季は対抗戦初戦、12-34で敗れた筑波大学戦に大きな反省が残るという。
「春から力を積み上げて良いチームを作っていたのに、スタイルを変え、自分たちの軸がブレてしまった。相手どうこうではなく、自分たちのスタイルを1年間を通してやり抜きたい」
昨季は対抗戦4位で全国大学選手権に出場こそできたものの、準々決勝で優勝した帝京大学に24-73と大敗した。大学選手権の準決勝は例年、年明けに行われる。チームは2014年度以来、年を越せていない。そのためか、今野が1~3年時の部の目標は大学選手権ベスト4だった。
「なんで日本一を目指さないのか疑問に思っていた。負けていい試合なんてない。目標から変えないといけないという思いがあった」と振り返る。
同期との話し合いの末、チームの目標を「日本一」とした。「ベスト4」という意見もあったが、「自分たち信じてやりきろう」と結論が出た。「結果としての日本一だけでなく、過程として日本一の取り組み、プレーや運動量など、どの面を切り取っても『日本一』をやり続けようという意志や思いの表れなどの意味も込めました」

独自色と守るべき伝統
早速、独自色を出している。全体練習を朝から午後に変えた。今野を中心としたリーダー陣と、今季就任した和田拓ヘッドコーチ(元・キヤノンイーグルス)らが話し合い、「朝だと体が動かない」という意見でまとまった。その分、午前の授業前はウェートトレーニングに充て、春シーズンは週9回行ってフィジカルアップに務める。
「魂のタックル」が強みの伝統校だ。戦術としてはまず、ディフェンスに力を入れている。「今季はディフェンスで前に詰めながら、しっかり横でつながって、絶対に抜かれない。止め切りたい」と力を込めた。
戦力にも自信を持っている。今季は桐蔭学園の後輩で高校日本代表だったFL申驥世、LO/FL西野誠一朗ら実力ある選手が多く加入。一気に選手層が厚くなった。「2年のWTB小野澤謙真(静岡聖光学院)やFLキーヴァーブラッドリー京(常翔学園)らケガしている選手も戻ってきますし、AチームとBチームの競争が激しくなればチームとして良いこと」と歓迎している。
当然、自らのプレーもチームの命運を握る。身長183cmの大型BKとして1年時から主力として活躍してきた。FBやWTBとしてプレーし、U20日本代表にも選ばれて世界の舞台も経験した。3年時からはSOに近い側に位置するインサイドCTBとしてプレーを続けている。
「10番(SO)と一緒にゲームを作っていく、視野が広いタイプだと思います。12番としてタックルで体を張りつつ、周りと一緒に引っ張っていきたい」と語る。好きな選手は自らと同じインサイドCTBを主戦場とするダミアン・デアレンデ(埼玉ワイルドナイツ)。大型ながら柔軟さが光る南アフリカ代表だ。

ちなみに趣味はサウナに入ること。試合の2日前にルーティンとして、CTB小舘太進(4年、茗溪学園)と近くの銭湯に行っている。卒論はキッカーもやっていたこともあり、「プレッシャーがパフォーマンスにどう影響を及ぼすか」を書く予定だ。
花園2連覇に貢献 他大学のキャプテンとは友達も「負けたくない」
ラグビーとの出会いは5歳だ。桐蔭学園の幼稚園に通っていた頃、現在は帝京大学で主務と学生レフリーを兼任する永田隆一郎(4年、横須賀)に誘われ、神奈川・田園ラグビースクールで競技を始めた。前キャプテンのHO中山大暉とは幼稚園からの幼なじみだ。
桐蔭学園中学を経て、高校も桐蔭学園に。CTBだけでなくFBやSO、WTBなど様々なポジションを経験した。キッカーも務めた2年時は「花園」こと全国高校大会で2連覇に貢献し、3年時もベスト4に進出した。

高校日本代表候補にも選ばれた。当時はコロナ禍だったため海外遠征は行われなかったが、現在は各大学でキャプテンになった早稲田大のCTB野中健吾(東海大大阪仰星)、明治大学のCTB平翔太(東福岡)、帝京大学のSO/CTB大町佳生(長崎北陽台)、中学時代からの知り合いでもある筑波大学のSH高橋佑太朗(茗溪学園)も選出されている。
「今季、コイントスが楽しみですね! ただキャプテンとしても、友達としても負けられない。全員が意地を張って当たってくると思うので、そこに負けないように、自分もしっかりやらなきゃいけないなという思いがあります」と対戦を心待ちにしている。
日本一への道に立ちふさがる早稲田を打倒
特に強い思いを抱くのは早稲田大に対してだ。「もともとチームに(慶應義)塾高出身が多いので、負けたくないというプライドがあります。個人としても大学に入学してから1回も勝てていないので、勝って終わりたい。今季も早稲田大は相当強いと思うので、シーズンが終わる時に自分たちが上に立っているようにしたい」と意気込んだ。

ファンに向けてメッセージをお願いすると、「今季はチームとして『日本一』という目標を掲げて、変わろうと部員全員で頑張っているので、対抗戦も選手権も楽しみにしていただければな、と思います」と話した。自らのラグビーキャリアを全うした後、来春からは不動産業界で働く。その前にルーツ校のキャプテンとして、黒黄ジャージーで有終の美を飾るつもりだ。
