アメフト

慶應高RB鶴田眞司 逆転TDランで、9年ぶりの春季関東優勝に導いた"外部進学生"

慶應は駒場を常に追う展開だったが、RB鶴田眞司が第3QにTDを挙げて追い上げ、第4Qの独走TDで逆転勝利を決めた(すべて撮影・北川直樹)

6月28日に開催された関東高校アメリカンフットボール大会決勝で、慶應義塾高校ユニコーンズが駒場学園高校ファイティングゴリラーズを24-20で破り、2016年以来となる春季関東優勝を果たした。逆転勝利の立役者となったのは、入学時にサッカーからアメフトに転向したRB鶴田眞司(3年)。「東京の壁」と表現する強豪を相手に、最後まで諦めない走りを見せた。

10点を追う第4Qで飛び出した起死回生のプレー

東京王者の駒場学園は都大会決勝で足立学園を圧倒するなど、前評判が高かった。ここまで接戦を勝ち上がってきた慶應と比べても、戦力面では駒場学園が上回っているという見方が強かった。

先制したのは駒場学園だった。第1クオーター(Q)7分、2シリーズ目の攻撃でタッチダウン(TD)を奪い、6点をリードした。慶應は第2Qに主将の大島拓翔(3年)が42ydフィールドゴールを決めて3点差に追い上げ、3-6で前半を終えた。

後半に入ると、駒場学園はQB小泉亮雅(3年)が中央を突いてTD。トライフォーポイント(TFP)成功で3-13となり、このまま駒場のペースになるかと思われた。だが、慶應のRB鶴田の走りが流れを変えた。第3Qの9分、右サイドを抜ける独走タッチダウン(TFP成功)で再び3点差に迫った。

「スピード感、プレースピードに自信があります」と鶴田。スピードを落とさずにスクリメージラインを突破する

第4Qの3分に駒場のQB小泉がTDパスを通して、またも10点差。直後、慶應に起死回生のプレーが出た。5分すぎにQB野口侑暉(3年)からWR高木周(3年)へ51ydのTDパスが通った。TFPも決まり、スコアは17-20となった。

その後も慶應は冷静だった。守備陣が駒場の攻撃を食い止め、オフェンスへ。試合時間残り2分7秒、RB鶴田が今度は左サイドを切り裂き、この日2本目となるTD。24-20と逆転に成功した。追い込まれた駒場は、自陣から慶應陣内へと攻め込む。残り57秒、逆転を狙って放たれたパスに対し、慶應のDB髙村昌司(2年)が飛びついてインターセプト。そのままゴール前2ydからの攻撃となり、鶴田のランで時間を使い切って試合終了。劇的な逆転勝利を挙げ、鶴田は今大会の最優秀バック賞を受けた。

最優秀バック賞については「2本とれたので、選ばれるかなと。彼らのおかげです」とOLの仲間の方を指さした

昨年の敗戦を機に、図った意識改革

鶴田は東京・八王子の出身で、高校から慶應に入学した外部進学生だ。中学まではサッカーに打ち込んでいた。アメフト部に入ることを決めたのは、高校1年の7月。部活選びに悩んでいた時、クラスメートでOL堀之内隼人(3年)から熱心に誘われたのがきっかけだった。付属の中等部や普通部内部生が多数を占める中、入部のタイミングが出遅れた鶴田は、決して順調なスタートを切ったわけではなかった。

慶應アメフト部の新入部員は、伝統的に攻守のポジションそれぞれの適性を見てから最終的なポジションを定める。鶴田はRBとLBをしていて、途中からコーチの勧めでRB一本になった。公式戦に出るようになったのは、3年になってからだ。

「去年は神奈川県大会で負けました。結果が出なかったから『俺らで変えよう』とみんなで話していました」

鶴田がこう語る通り、チームは昨年の敗戦を機に意識改革を図った。スローガンに「勝つ」という言葉を掲げ、「勝利に対して貪欲(どんよく)に、しっかり努力していこう」「選手が一人ひとり責任を持ってやる」「選手がチームを作る」そんな言葉が選手たちの間で交わされてきたという。ちょうど20年前にクリスマスボウルを制した年も、慶應は前年、県大会で敗退していた。逆境からはい上がり、頂点まで上り詰めた点は、当時と通ずるものがあるかもしれない。

試合後の授賞式で名前が呼ばれると仲間たちが祝福してくれた。インタビュー中も多くの仲間が集まってきていて、鶴田の人柄がよくわかった

趙元来監督は鶴田について「実直で、とにかく真面目にフットボールをやる人間です。『慶應の鏡』というか、彼の姿勢を見て他のチームメートが良い刺激を受けてますね。もともと能力の高いというより、努力であそこまで成長した選手です」と高く評価する。

鶴田は高校2年まで、練習試合に少し出場する程度だった。そこから「3年生になってポジションリーダーとなり『自分がやらなきゃいけない』という責任感が彼を大きく成長させました」と趙監督。「彼自身の成長はもちろん、バックス陣の層を厚くしてほしいというのが、僕の願いです。1人だとやっぱり限界が来ると思うので。下級生にもいいプレーヤーはいる。その子たちを引っ張ってもらえれば」と期待を込める。

「東京の壁」を一つひとつ打ち破った

東京都大会はこれまで絶対王者として君臨してきた佼成学園が足立学園に敗れ、波乱含みだった。慶應は今大会、初戦で佼成学園(東京3位)に勝ち、準決勝で足立学園(東京2位)を倒して、勝ち上がってきていた。

「やっぱりずっと『東京の壁』みたいなものを感じていました。でも、都大会で佼成学園が負けたってことで、俺らにもチャンスはあるなと。絶対崩せると信じていました。ここまで佼成学園、足立学園に勝ってきて、駒場学園も倒してやろうと全員が思ってました。なので、気後れとかはなかったですね」

前半は駒場学園のラインに苦戦した。しかし鶴田は「走り自体は悪くなかったです。SFにタックルされることが多かったので、1線目、2線目は抜けられていました」と手応えを感じていた。後半、OL陣がコミュニケーションを取ってアジャストした結果、試合の流れは変わった。

OLをはじめ、RBやTEのナイスブロックで切り開かれた走路を迷いなく走った

趙監督の戦術も奏功した。「後半に関しては、ほとんどランプレーしかしていないんです。OLがしっかり押せていたので、ポイントでショートパスやロングパス、プレーアクションをやりましたが、基本はランプレーに信頼を置いて、ゴリゴリとしたオフェンスから一発のパスを狙ってました」。地上戦の安定感が、勝利に直結した。

RBとしての鶴田の強みを趙監督に聞くと、「ボディーバランスがいい。タックルされても絶対に倒されないし、横に逃げるのもうまい。バランスを保って必ず前に出る。絶対に後ろを向かない選手です」と話す。

その強みが現れたのが、2本のTDランだった。1本目は「完璧にブロックしてもらって、ホールがパッと開いていました」。決勝点となった2本目のランは「正直最初のところでタックルされるかなと思ったが、倒されなかった。前を見たら誰もいなかったです」。身長162cmの小柄ながら、気迫あふれる走りでエンドゾーンまで走りきった。

無我夢中で58ydを走りきった。この試合は計24回走って233yd、2TDを稼いだ

「規律を守らせながら、自由度をちょっと与える」

鶴田が自身の走りを振り返る。「2本のTDは自分の力というより、OLのきれいなブロックが大きかったです。自分じゃなくて、チーム一丸でつかんだ勝利ですね」。この謙虚さこそを、趙監督が「慶應の鏡」と評価しているのだろう。

趙監督が大事にしているチーム作りの哲学も、実を結んだ。「アメフトはとにかく楽しくやらないと面白くない。僕らは『こうやれ』とは一切言わないんです。彼らが自分たちで考えて、『これで勝てると思う』と自分を信じさせる。これが塾高で大事にしていることです」

そしてこう続けた。「キャプテンの大島と、それぞれのポジションリーダーが一致団結して、みんなを腐らせないで『楽しんでフットボールやろうぜ』ということが勝利の要因だったと思います」。趙監督の言葉からは、選手の自主性を重んじる指導方針が伺えた。「5番の野口(QB)、18番の鈴木(隆聖、2年WR)らをはじめとしたファンキーな選手たちを、どうやってうまく楽しくフットボールさせるのかが、僕らコーチの命題なんです。規律を守らせながらも、自由度をちょっと与えるフットボールを目指しています」

決勝は「絶対に接戦になると思っていました」。そこで集中力を切らさず、常にワンチャンスを狙うという意識が、チーム全体に浸透していた。

試合後、駒場学園の今村好克主将をたたえる趙元来監督。就任2年目、学生の自主性を大事にしている

20年ぶりのクリスマスボウル制覇へ、高まる期待

「秋が本番です。秋に向けてみんなで油断せず、この勢いで勝っていきたい」と鶴田は気を引き締める。決勝に勝った瞬間も喜びを爆発させず、冷静にサイドラインへと引き上げていく選手たちの姿が印象的だった。

慶應が前回クリスマスボウル優勝を果たしたのは2005年。今回の関東大会制覇により、20年ぶり優勝への期待が高まる。そのカギを握るのは、目標としているRBに立命館大学の漆原大晟(2年、立命館宇治)の名前を挙げる鶴田であることは、間違いない。

チームの雰囲気には独特のものがある。"ファンキーさ"を生かしながら春秋連覇を目指す

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