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筑波大学・亀岡聖成 上級生を鼓舞し、後輩たちも全幅の信頼を寄せる"2年生副将"

東日本インカレ制覇に大きく貢献した筑波大の亀岡聖成(すべて撮影・井上翔太)

コートに立てば、学年は関係ない。

「1年生の頃から『自分が引っ張る』という気持ちでプレーしてきた。2年になって1年生も入ってきたし、コートの中にも(1年生が)3人いる。チームを引っ張るのはもちろんですけど、(自分の)弱いところは見せないように。でも妥協は許さずやる。それだけはずっと意識してきました」

6大会ぶりに東日本インカレを制した筑波大学で、亀岡聖成(せな、2年、駿台学園)は副将を務める。下級生の副将就任は大抜擢(ばってき)と言えるが、選手同士の投票で文句なしの選出だった。亀岡自身も口にする「チームを引っ張る」意識、アンダーカテゴリーの日本代表ではリベロとしても活躍する抜群の守備力。加えて、勝負どころの〝この1点〟を絶対に逃さない嗅覚(きゅうかく)を兼ね備えていることが、大抜擢の理由だ。

2年生ながら、選手同士の投票で副将に選ばれた

逆転勝利の準決勝で見せたビッグプレー

東日本インカレの準決勝でも、印象的なシーンがあった。

ジャンプサーブとジャンプフローターサーブ、ハイブリッドも交えた効果的なサーブでブレイクを重ねる東京学芸大学が、筑波大から2セットを連取した。劣勢の筑波大は第1セット中盤から主将の牧大晃(4年、高松工芸)を投入。オポジットの山本快(1年、福井工大福井)の攻撃もさえ、25-12で第3セットを奪い返した。

サウスポーから強烈なスパイクを放つ筑波大ルーキー・山本快

初の決勝進出を狙う東京学芸大にとって、勝利まであと1セットという有利な状況は変わらない。第4セットも磨いてきたサーブで攻めてきたが、ここでビッグプレーを見せたのが亀岡だった。

21-17で筑波大がリードした場面。東京学芸大の堤凰惺(2年、福井工大福井)がコート前方のインナーに鋭いスパイクを放った。決められてもおかしくないボールをレシーブした亀岡が、すぐさま体勢を立て直し、トスを呼んで自ら打つ。

決して万全な状態からの攻撃ではなかった。だが、相手のブロックや守備隊形を冷静に見て、どこにどう打てば決まるかを瞬時に判断した1本が決まり、22-17。リードを5点に広げると、亀岡は右拳を握りしめ、ほえた。流れを引き寄せる1本を取り切った喜びを、全身で表現した。

25-19でこのセットを取り、最終第5セットにも勢いはそのまま。終盤には亀岡の連続ブロックでリードを広げた筑波大が15-8で制した。第4セットのプレーは勝利への契機となる会心のプレーだったが、「実は」と苦笑いを浮かべながら亀岡が振り返る。

「今大会、ずっとディグがいまいちで……。『全然拾えていないな』という感じで自分の中では反省しかなかったんです。でも、あの1本はたまたま脚に当たって上がった。高さとパワーでは勝負できないというのが自分の中で前提としてあるんですけど、トレーニングをしっかりやって、パワーはついたかな、とは思っているので、あの場面で決められて本当によかったです」

背中と肩周りは、見た目にもわかるほど大きくなった。スクワットやジャンプトレーニングを重ねた成果を、最も重要な場面で発揮して見せた。

地道なトレーニングを重ね、パワーがついてきたと実感している

谷本悦司「聖成さんだから何も不安がない」

中学、高校と全国制覇を果たし、筑波大に入学後もルーキーイヤーの昨季から、コートの内外で存在感を示してきた。「チームを引っ張る」と何度も繰り返し、2年生ながらチーム全体に働きかける。その姿は、時に上級生をも鼓舞してくれる、と主将の牧は感謝する。中央大学との決勝、優勝を決める1点は牧が決めたが、その背景には後輩の支えがあったと明かした。

「(亀岡は)人間的にすごく強くて、プレーでも声かけでも周りを引っ張る姿を見ると頼りになるし、『自分もちゃんとやらなきゃ』と思わされる。(決勝の最後も)聖成が頑張って上げてくれたボールを(迫)優成(2年、興國)が自分につないでくれた。下級生がここまで頑張ってくれてチームが成り立ってきたので、思い切り打ちました」

主将の牧大晃は準決勝から出場、後輩たちへ感謝の念は尽きない

亀岡に信頼を寄せるのは上級生だけでなく、下級生たちも同じだ。フルセットで勝利した準決勝の後、「自分は足を引っ張るだけで、何もできなかった」と悔し涙を浮かべた山本は「どのチームもサーブがすごい中、聖成さんはセッターが上げやすいボールを返してくれるので、自分は助けられることばかり」。高校時代に引き続き亀岡とサーブレシーブを担う谷本悦司(1年、駿台学園)も「聖成さんだから何も不安がない」と口にする。

「高校から大学に入って、一つひとつのプレーの精度に対する共通理解が選手によって違って、うまく対応できずにイライラすることもあったんです。でも、そういう時に聖成さんが話を聞いてくれて、『やっぱり同じ考えなんだな』と思えてスッキリしたし、サーブレシーブに関しては春リーグから連係がすごく取れていた。聖成さんがいるおかげで僕はすごくやりやすいし、チームも回る。もっともっと上げていけると思っています」

リベロの谷本悦司(9番)は高校時代に引き続き、亀岡とサーブレシーブを担う

目標とする「全日本インカレ優勝」に向けて

まだチームが固まり切れていなかったという春季リーグは4位だった。今大会は「トーナメントの方が得意なチームなので、いい形になった」とセットカウント0-2から逆転勝利を収めた準決勝に続き、中央大との決勝も第1セットを失ったところからの逆転勝ちで、亀岡は大学初のタイトルを手にした。

レシーブ賞にも選出されたが、「自分自身はあんまりいいレシーブができた手応えがない」と、個人賞の受賞以上に「チームとして自信がついた」と語った。チームのことを第一に考え、常にストイックな亀岡がここで満足するわけがない。今大会は目標に掲げる「全日本インカレ優勝」に向けた通過点であり、まだまだ高めなければならない課題もあるからだ。

特に亀岡が意識するのは、攻撃面で中心となるセッター迫とのコンビをいかに盤石にできるか、ということだ。鍛錬の夏を前に、2年生の副将は表情を引き締めた。

「同期なので、言い方、伝え方も一番難しい。でも、誰よりも一番練習するのが優成で、負けず嫌い。言うべきこと、求めることをちゃんと伝えながらも、求めすぎてパンクさせないように、一番いい形を探りながらつくっていきたいです」

チームのために、自身のために。できることはすべて、やり尽くす。亀岡聖成に〝妥協〟の二文字はない。

全日本インカレ優勝という目標に向け、迫優成(左)との精度をさらに高める

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