中大・九冨鴻三「エースに託す」難しさに向き合い、大学でもさえる舛本颯真とのコンビ

6月28日に閉幕したバレーの東日本インカレで、連覇を狙った中央大学のセッター・九冨鴻三(4年、鎮西)は、最上級生になって2度目の悔しさを味わった。
春季リーグ前に手を痛め「我慢の時間」
1度目は関東春季リーグの開幕を2週間後に控えた頃。セッターにとって不可欠な手をケガしてしまった。4年になり、レギュラーセッターとしてのスタートを切るべく、最初の一戦に向けて気持ちは高まっていた。だが、戦列を離れることになり、春季リーグは中村悠暉(1年、比叡山)にポジションを譲る形となった。
「自分の不注意ではあるんですけど、でも4年になって、去年の4年生が自分たちに見せてくれたような姿を自分たちも見せなければいけない、と思っていたので。いろんな意味で、自分にとっては我慢の時間でした」
そして2度目が、東日本インカレの決勝だ。
ケガも、試合に出られなかった悔しさも乗り越え、ようやくレギュラーセッターとしてコートに立ち、2年連続の決勝進出を果たした。筑波大学との頂上決戦は第1セットを先取。「試合の入り方は悪くなかった」と振り返りながらも、中盤にコンビミスや相手のブロックポイントで流れを引き渡してしまい、その後3セットを失った。秋季リーグや全日本インカレにつながる経験であると、頭では理解していても、やはり負けるのは悔しい。
「結果は2位ですけど、自分としてはとにかく悔しい。スパイク、サーブ、ブロック、全部やられた印象しかないので、大敗でした」

エースに託すのは「簡単だからこそ一番難しい」
もともとスパイカーだった九冨がセッターに転向したのは、鎮西高校2年の時。すでに高校入学時からセッターの素質があると見込まれていた。九冨自身も成長を求め、東京から熊本の名門校へ。ただ、最初からうまくいったわけではない。
2学年上には水町泰杜(ウルフドッグス名古屋)、1学年下には中大の舛本颯真(3年、鎮西)という大エースがいた。はた目で見ると「エースに上げれば勝てる」と思われがちだ。ただ、大エースがいるからこそ、いかに打ちやすく、彼らを生かすようなトスを上げられるか。セッターに求められる要素は、数えきれないほどある。
一見すれば、シンプルなエース勝負でいかに勝つか。九冨はそれに向き合い続けてきた。「ここに上げればいい、とエースに託す。簡単は簡単なんですけど、今思えば、簡単だからこそ一番難しい。とにかくちゃんと打たせるトスを上げるように、と意識していましたけど、逆に自分がスパイカーに助けてもらうばかりでした」
中でも九冨が「一番頼りになるし、一番やりやすい選手」と言う舛本とは、大学でもチームメートになった。九冨が主将を務めた高校3年時の春高ではセッターとエースとして、決勝に進出。2セットを連取しながら、3セットを取られての逆転負けという苦い記憶も共有している。あれから3年が過ぎ、大学の舞台に移っても九冨と舛本のコンビは、さえ渡っていた。

2年連続決勝進出を引き寄せた、舛本颯真への連続トス
東日本インカレ準決勝の順天堂大学戦。中大は第1セットを29-27で先取したが、第2セットの序盤はシーソーゲームとなった。試合が動いたのは15-15で迎えた中盤。舛本が相手の3枚ブロックを打ち抜き、1点を抜け出した。
その後も九冨のサーブからラリーが始まり、順大の攻撃をブロック&レシーブで切り返す。チャンスを確実にものにすべく、九冨が選択したのは、またもレフトの舛本だった。高く、伸びのあるトスをストレートとクロスにそれぞれ決めきり、18-15。リードを3点に広げた。このセットを制した中大がストレート勝ち。最後の1本も、九冨の高いトスを舛本がストレートに打ち込んだ。

第2セットで舛本に上げた連続トスについて、九冨は「迷った」と明かす。リベロの土井柊汰(3年、東福岡)が拾ったナイスレシーブを生かすため、着実に点を取りたいが、舛本に対しては相手のマークも厚い。
ブロックに阻まれるかもしれない――。一瞬不安がよぎった。だが、最後は高校時代から信頼してきたエースに託した。
「舛本なら決めてくれる、と思ったし、同じコートにいてくれるだけで心強い。チームとしてももちろんですけど、僕自身も一番上げやすくて、一番バレーボールがしやすい選手。ピンチや、うまくいかない時でも、舛本にトスを上げれば自分のメンタルも整うし、落ち着く。今日は途中から(舛本が)跳んでいるな、という感覚もあったので、信じて上げ続けました」
応えた舛本も同じだ。「欲しい1本、1点だった」と振り返る中盤の連続得点を、スパイカーの視点で振り返る。
「試合中も鴻三さんが声をかけてくれるし、同じコートにいてくれると自分もすごくやりやすい。今日(準決勝)は自分でも跳べている実感があったし、鴻三さんのトスが高さを出してくれて、より高いところから打つこともできた。『(トスを)持ってきて』と遠慮なく言える。苦しい場面でトスを上げてもらえて、その1本が決まるとチームの雰囲気も良くなるし、そこで決められる選手になりたいと思ってずっとやってきた。ここ、というところで頼られる選手になりたいです」

後輩から「ついていこう」と思われる存在に
東日本インカレで2年連続となる決勝進出を果たし、セッターとして、これからにつながる自信も得た。とはいえ、決勝で敗れた悔しさも含め、満足には程遠い。セッターとしての技術や精神力、周りを勝たせる存在になるための取り組みなど、克服すべき課題は山ほどある、と笑う。
「プレーはもちろんですけど、僕が下級生の頃もそうだったように、後輩はみんな4年生の背中を見ています。後輩から『ついていこう』と思われる存在になるためには、自分がやるべきことをもっと徹底しなきゃいけない。まだまだ自分は甘いので、チームで戦っていけるように、まずは自分をしっかり高めていきたいです」
悔しさを乗り越えて、さらに強くなるために。セッターとして、チームを束ねる副将として、勝負の夏を迎える。

