東京学芸大・木下柊人「サーブの学芸」を体現、本気で優勝を目指したから得られたもの

東日本インカレは、3試合続けてのフルセット。早稲田大学との準々決勝はコート外の選手がなだれ込んで喜びをかみ締めたが、筑波大学との準決勝は2セットを先取してからの逆転負け。東京学芸大学にとって初のメダル獲得を目指した3位決定戦もあと一歩及ばず、昨年に続いて4位で大会を終えた。
3位決定戦の後、仲間に伝えた言葉
敗戦の直後、主将の木下柊人(4年、東京学館新潟)は悔しさをかみ締めながらも、選手たちに向けて、主将の責務を果たすように語りかけた。
「今回の東日本インカレは初戦からきつい当たりだったけど、しっかり勝ち抜いて昨日(準決勝)、今日もフルセットまで戦ったことに自信を持とう。でも、だからこそ、このフルセットは絶対に勝たなきゃいけない試合でもあったから、力をつけるために。ここから半年、きついこともあると思うけど、その先に勝って喜べる未来が待っているから、秋季リーグと全日本インカレで力を発揮できるように、また1から頑張っていこう」
下ではなく、前を向こう。木下は、自らにも言い聞かせていた。

髙橋宏文監督「いいエネルギーが充満していた」
昨秋2部で優勝し、1部復帰を果たした今年の春季リーグは8位。そこから東日本インカレで準決勝まで進んだ要因の一つが、チームとして強化を重ねてきたサーブだ。春季リーグは木下がサーブ賞を受賞。東日本インカレ準々決勝の早稲田戦、準決勝の筑波戦も、アウトサイドヒッターの木下や堤凰惺(2年、福井工大福井)、セッター・森日々輝(2年、川内商工)のサーブでブレイクを重ねた。森が今大会でサーブ賞を受賞したことも、〝サーブの学芸〟を象徴する出来事だった。
個々の力だけを見れば、高校時代に全国制覇の経験者がそろうリーグ戦上位校の方が、勝るかもしれない。だが、バレーボールにおいて唯一の個人プレーであるサーブに関しては、高い意識を持って練習を重ねれば、勝負どころで最高の1本を放つことにもつながる。

チームはこれまでも、サーブとトータルディフェンスを重視してきた。そこから、特に今季はサーブが武器となり、東日本インカレでの躍進につながった理由の一つとして、髙橋宏文監督は「木下をはじめとする4年生の存在」を挙げる。
「とにかく1部でトップを取ろう、と4年生を中心にやってきた結果、木下が(春季リーグで)サーブ賞を取った。そこからチームとして、どういうコンセプトに基づいて戦っていくか。意識を共有した練習ができていました。練習自体もキャリアやレベルにかかわらず、全員が同じ練習をするので、ハードだと思います。でも、4年生が中心になって全員を鍛えようとしているし、先頭に立ってまず自分たちがやる。一つひとつのプレーも見過ごさずに注意して、彼らの発するエネルギーの高さがポジティブな方向に働いて、いいエネルギーが充満していました」

ベストゲームと呼べる内容だった準々決勝
高い意識と自信を持って臨んだ東日本インカレで、〝ベストゲーム〟と呼べるのが準々決勝だった。
第1セット25-23、第2セットは31-29。どちらも僅差(きんさ)の勝負を制した。木下、堤の両エースに加え、オポジットの源河朝陽(3年、西原)がサーブで攻め、ミドルブロッカーの小用竜生(4年、駿台学園)と渡邊太崇(2年、東北)、リベロの藤澤慶一郎(4年、北海道科学大高)が連動したディフェンス、セッター森のトスワークも光った。
第3、第4セットは早稲田大に奪い返され、最終第5セットも10-11と先に抜け出された。「やはり春の王者は強い」と落胆してもおかしくないところで、値千金とも言えるサーブでチームを救ったのが、リリーフサーバーの宮島温人(1年、会津学鳳)だった。
主将の木下が「チームのムードメーカーで、どんな状況も動じない」と評する宮島。サービスエースを含む3本のサーブで14-12とリードを広げ、最後は小用が押し込み15-12。フルセットまで及んだ激闘を制した。
だからこそ、あと二つ勝ちたかった。昨年は阻まれた壁を越えたかった。準々決勝と同じ展開から3セットを失って敗れた準決勝の後、木下は少しうつむきながら言った。
「行ける、というところまで持ち込んだんですけど、自分たちが大崩れしてしまった。悔しいです」

「春リーグを終え、アップから息が切れるぐらいのメニューに」
連日のフルセットで蓄積した疲労に加え、あと一歩届かずに積み重なる心へのダメージ。最後の1戦は必ず勝って終わろう、と臨んだ3位決定戦もフルセットの末、勝ち星はつかみ取れなかった。ただ木下は、本気で優勝を目指したからこそ、得られたものもあると言う。
「春リーグを終えてから、練習も厳しく。アップから息が切れるぐらいのメニューに取り組んできたし、気の抜いたプレーが出れば厳しく、時に衝突することもあった。でもそれは全部、勝つためにやっていることだし、信頼関係を築きながら、全員で突き詰めているもの。結果的に去年と同じ結果になってしまったことは悔しいですけど、でもこの夏、どれだけ自分たちが通用するのか。高い意識を持って鍛錬すれば、秋季リーグにもつながる。やっていること、やってきたことに自信を持って、刺激し合いながら秋季リーグにつなげていきたいです」
夏を越え、秋が過ぎればチームにとって集大成の全日本インカレが開幕する。
おそらく、あっという間に感じるであろう数カ月を経て、どんな進化を遂げるのか。新たな歴史を刻むべく、頂点を目指す本気の戦いが、ここから始まっていく。

